兵士の命までは取っちゃダメ! ← これの本当の意味は?
ドタバタと男達が駆け巡る足音が鳴り響く。
その集団は全員ハゲで、頭のテカりが反射していて眩しい。
中央には御輿のように担ぎ上げられた椅子があり、誰かが座っている。
「幼女様っ! 幼女様っ! バンザーイ!!」
座っているのは幼い女の子、まだ5才になったばかりの幼女。
その小さな幼女がハゲ集団に御輿の如く担ぎ上げられ、男達を従えている。
ふんぞり返った幼女は高らかに足下にいるハゲ達に指示を投げ飛ばしている。
「目指すは貧民街っ! ちゃっちゃと案内しなさいっ!」
「「わああああっ!! サー、イエッサーっ!!」」
御輿椅子以外にも、何やら風呂敷に荷物を抱えたようなハゲ。
箒や塵取りみたいなものを手に持ったようなハゲ。
町の市場から大量に買い取ったそれらが続々と運ばれていた。
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貧民街と呼ばれる場所は、酷い有り様だった。
ボロボロの古びた民家に、衛生の悪そうな環境。
道端で踞っている人や倒れている人等もいる。
「ああ、いつ見ても酷ぇ有り様だな……」
「これが領主のやり方か…… なんで俺達は、今までこれに疑問を思わなかったんだ?」
誰かが呟いた、ハゲの中の一人。まるで良心があったかのような発言。
他のハゲ達も少なからずそれに同調し、動揺や戸惑いが広がっている。
まるで悪い魔法から解けて、人の心を取り戻したかのような慌てぶり。
んっ…… なんか違和感ある。コイツらに良心がある。
じゃあなんで兵士として町の人々を搾取してきた??
目の前の光景は、まさに自分たちがやってきた結果による追い込まれた人々の末路だろうに。
「……倒れている人々、病や怪我で苦しんでいる人がいれば私の下に運んで来て。接し方は丁寧に、乱暴は決して許さない」
「「はっ、仰せのままに…… おい、行くぞっ!」」
「食糧を持ってる者は炊き出しの準備を。胃に優しい料理を作りなさい。味が不味かったら、鉄棒でしばき倒すっ!」
「ちょっ、料理には自信がねえっ! 誰か役割交代、頼むっ!」
「しょうがねぇ、俺に任せろ! お前は救護班の方に回れ!」
「残りの手が余った者は周辺の状況確認。何かあれば臨機応変に対処しなさい!」
「よし、調査や報告の纏めは得意だぜっ。俺が行ってくるっ!」
手際よくテキパキと動き出すハゲたち。さすがは元兵士達といった所か。
統率や連帯行動に慣れている、普通に頼りになる感じ。
何より、私がやろうとしている事をよく分かってる上で行動している。
まるで人が変わったような…… 何かとても良い人達に見えるような。
本当にあの兵士達だったのか? この人たち。
頭の毛と共に、何かが抜け落ちたんじゃないのかこのハゲたち。
「姉御っ! この方、動かねえですけど息はあります。早速、お願いしやすっ!」
「ちょ、誰が姉御だっ!? でもよくやったわ、そこに寝かせてあげて!」
早速運ばれてきた動かない人をパーフェクト・ヒールを唱えて回復させる。
虹色の光が周りを包み込み、その人に溶け込んでいく。
眩しい光が解けると、そこには目を開けてムクリと起き上がった人がいた。
「あ、あれ? ワシは、今まで何を……」
「「うおおおおっ! さすがは幼女様だぜっ! そこに痺れる、憧れるゥ!!」」
周りのハゲたちの大歓声と共に、元気になったその人を迎え入れる。
回復した人は炊き出しの方へ誘導して、私は次の患者を待ち受ける。
遠くからハゲたちが続々と倒れてる人たちを背負って運んできた。
「姉御っ、こちらの方もお願いしやっす!」
「姉御っ、こっちの方は右手が無いっすよ。ヤバいっす!」
「姉御っ、こっちの方は高熱で項垂れてますぜ!?」
「誰が姉御だっ!? いいから順番に寝かせてあげて! 命に危険が有りそうな人がいたら優先的に回しなさいっ!」
私は緊急性の高そうな人から順番に次々と治していく。
高熱で項垂れていた人を癒し、右手が無かった人もパーフェクト・ヒールで再生させた。
治療が終わる度に、沸き上がる歓声とハゲたちの熱狂。
「すっげぇええ! 幼女様、マジですげええっ!!」
「あれこそが俺らがお仕えする方だ、真の救世主様だっ!!」
「領主なんかに仕えてた事が馬鹿らしくなるぜ、あの人こそが俺達の本当の主だぜっ!」
ハゲたちが何やら私の事を勝手に主だとか言い出してるけど、あえてスルーする。
そんな雇用契約書なんか何処にも存在していないって。
あれ? でも今の領主を討ち倒して統治者に成り代わったら、本当にこのハゲたちが部下に成り代わってしまうのか。
まあそれもいいか……。なんか改心してるみたいだし?
「このまま全員治療して行くよっ! 軽傷者や具合が多少悪い程度の人たちも連れて来て! そうでなくとも炊き出しを無料で行ってる事を全員に伝えてきて!」
「「ははぁー、全ては幼女様の御心のままにっ!!」」
ハゲたちが異様な熱気と共に散っていく。
残ったハゲたちも料理をしながら炊き出しに大忙しだ。
うん、毛髪が無いから料理に髪の毛が混ざってしまう事もないね!
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「幼女様っ、ありがとうございます!」
「幼女様っ、此度は命を救って頂き、本当に感謝します!」
「幼女様っ、空腹で死にそうな所を助けて貰った。ありがとうっ!」
元気になった貧民街に居た人たちが全員で感謝して、なんか私を拝み倒してくる。
感謝されるのは良いけど、幼女様って…… もしかしてハゲ達のアレが伝播してしまったのか。
まあ元気になって一先ず良かったよ、うんうん。
「えーと、とりあえず元気になって何より。これからは幸せに暮らせるように、皆で協力していきましょう! 今の領主に関しては、一先ず私がぶっ飛ばしてきますので……」
私の言葉と共に、わあああっ!と大歓声を上げる貧民街の人たち。
中央の町の人達と違って、ここの人達には明日の希望という未来がない。
領主に逆らうという反抗に対しても、元々から失う物が無かった者たちにとっては躊躇いが一切無いようだ。
中央の町の人たちと違って、むしろ積極的に協力をしてくれる雰囲気に満ちている。
「あなた達には、ここの貧民街の衛生面の向上、老朽化した建物の復旧、その他出来る事を各自任せるわ。足りない資材、足りない食糧等があったら要件を纏めといて、もちろん私も協力するからね?」
ハゲたちが一斉に跪き、そして私に絶対忠誠のポーズを取ってくる。
コイツら本当にあの兵士なのか? 今では別人のように思えるぞ。
なんか箒と塵取りを持ったハゲが後ろの方でやる気アピールしてて少しウザい。
「……無事にこの場所が復興し、住む人々に笑顔が戻った暁にはあなた達のハゲも元に戻します。頑張ってくださいっ!」
「「うおおおおっ! 幼女様、幼女様、バンザーイっ!!」」
本当にどうしたんだろう、この人達。
まるで悪い洗脳から解けたかのような……
そういえば、パーフェクト・ヒールを一度掛けた後からこんなノリに変わってたよね?




