ナイトメア・モード
眩しい光が周囲を包み込み、ドレスアップを開始する。
今回は黒のゴシック服、可愛さと格好良さを兼ね備えた儚いながらも美しい戦闘形態。
髪形はミドルのツインテに赤いリボン括りで、スカートは短めのもちろん絶対領域を搭載!
「蔓延る悪は許さない! か弱き人々を守るために、魔法少女メア。ここに推参っ!!」
殲滅モードはシリアス場面で使う登場シーンだ。
エフェクトは少し短めで、セリフはちょっとヒーローっぽく。
媚びるような仕草は物足りないけど、これはこれでカッコ可愛いのだ!
「メア…… その姿は、一体?」
「お母さん、大丈夫だよ。私が、お母さんをこんな敵共から守り抜いてみせるからっ!!」
私は魔法のステッキを取り出し、そして魔力弾を敵群の目の前に撃ち放つ。
青白い色の強炎が群の直前の地面に着弾すると、辺りの地面は瞬く間に溶けて蒸発をした。
これは警告だ、今から行う事の惨劇の、覚悟を決めろという意味の。
「「「なっ……?!」」」
敵対する兵士たちが目の前の溶けた地面を見て、驚愕に眼を瞠るがもう遅い。
あなたたちは、既に一線を越えてきた。母子の眠る家屋を燃やすという、やってはいけない危害を加えてきた。
ならば受け入れろ、自分がやった事に対するその報いと罪を。
「マジカル・アローレイン!!」
青と赤の混じった球体のエネルギー体がステッキの先から放たれ、敵の群れの頭上に向かっていく。
そして中央で大きく膨らんで爆散すると、エネルギーの線弾が敵群の中を縦横無尽に駆け巡った。
大混乱に陥った兵士たちが、阿鼻叫喚の騒ぎに声を張り上げる。
夜空に浮かぶ月が映える中、私は翼を広げて飛翔した。
こんな程度では許さない、あなたたちは万死に値する。
「ナイトメア・ムーンライトヒール!」
月の姿を背にして、ヒールの癒しを光と共に降り注ぐ。
広範囲の復活と蘇生が行われ、兵士たちの怪我が治っていく。
魔法少女に殺しは御法度だ。しかし、それは許されざる悪に対して必ずしもその限りではない。
「なんだあれは…… もしかして、天使なのか?」
「月を背に、翼を…… おお、なんという神々しさだ……!」
「怪我が治ったぞ、あの光が癒してくれてるんだっ!」
「なんだよ、俺たちは一体何に対して刃を向けているんだ……?」
どよめく兵士たちに、もはや軍隊としての統率は失われている。
だけど私は、あなたたちを許さないために怪我を治しただけ。
何度でも、何度でも…… 苦しみと後悔を味合わせるために。
「あなたたちは、決して赦されない事をした…… その身を持って、その苦しみに嘆き続けなさいっ!! スターメモリー・テンペスト!!」
魔力を帯びた渦が竜巻と化して暴れ狂い、軍隊を蹂躙していく。
兵士たちの身なり、手に持ってる武器や着ている鎧までをもズタズタに切り裂いてゆく。
そして、生身の肉体だけは切り裂かれてからもヒールで次々と端から再生されていく。
何度も何度もズタズタに切り裂かれて、その度にヒールで再生を繰り返されて……
月の光がある限り、このヒールの癒しは止まらない。ずっと行われ続ける。
手足が千切りかけても再生を繰り返し、苦しみで死ぬ事も、気絶も許さない。
「い、痛てぇ、痛てぇよっ! 誰か、助けてくれ……っ!」
「もっ、もう止めてくれ…… いっその事、殺してくれ!!」
「あの幼女ヤベぇ……! ヤバすぎるってば……ッ!!」
「あれは癒しの天使なのか…… それとも、殺戮の天使なのか……!」
「ああっ……! 俺たちは、手を出しちゃいけない相手に手を出しちまったんだッ!!」
兵士たちが嘆き苦しみ、その後悔と懺悔の嗚咽を次々と吐き出していく。
情けない連中だ、これくらいの損傷と再生、屁でもなく受け入れていた奴がいたぞ?
まだお前たちよりも、レッドさんの方がずっと根性があったよ。
「メアっ! もうやめてっ!! お願いだからっ……!」
お母さんの呼び声が聞こえてきて、私は竜巻の渦を彼方へと霧散させた。
いっそ止めるのはムーンライトの方でもいいかと思ったが、それはまだ保留しておいた。
連中の態度次第では、次にまた私はどんな対処でもするつもりでいる。
「お母さん、アイツらは私たちの家を燃やしたんだよ? このまま、許しちゃってもいいの?」
白い銀翼を畳んで、地上へと向かっていく。
お母さんの下へ、その側へと静かに降り立つ。
そしてギューッと、大好きな人の温もりを感じながら抱擁を交わす。
「メア、もういいの…… もう、いいから……!」
お母さんが抱き締めながら、そんな事を言う……
全く、お母さんは優しすぎるよ。私なら塵にするまで徹底的に刻むっていうのに。
……しょうがないから、私は目の前の敵たちを見逃す事にした。
状況を見て、慌てて逃げ惑う兵士たち。
必死に場を離れようとする兵士たちを、私は黙って見送る。
止めを刺さなかったのは、お母さんによる慈悲があったからだよ?
「あの幼女は、ヤバいッ……! みんな逃げろっ!!」
「もうあんなのと敵対したくねぇ、領主の命令だろうと知った事か!!」
「いいか、絶対に手を出すな! あの幼女には今後も一切手を出しちゃいけねぇ……!!」
散り散りに去っていく軍隊だった者たち。
やがて音も止み、そして誰も居なくなった。
過ぎ去った跡の寂然とした静けさが辺りに訪れた。
・
・
月明かりの下で、お母さんと二人だけになる。
家は燃やされてしまっていて、真夜中に佇む私達。
さっきまでは叫び声で喧しかったのに、今は嘘のように静かな時が流れている。
夜風が吹き抜ける中で、身を寄せ合って肌寒さを私達は庇い合う。
空は漆黒に染め上げられていて、星々が幾つも輝いている。
真夜中に晒された中、静かに夜明けを私達は待ち続ける。
しっかりと抱き合って、相手に温もりを与え続けながら。
お互いの不安を取り除くように、安心させるように。
大丈夫だよ、
お母さんは私が必ず守ってあげるんだからっ……!!
・
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やがて夜明けの光が、地平から射し込んできた。
暗闇に染まった星夜の一幕に光明が駆け巡っていく。
朝陽が顔を出して、この夜の終わりを告げてくる。
さあ、今日もまた1日だ。がんばろうっ!!




