表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/46

7.シェルス

 《シスタリア王国 バルツクローゲン 酒場にて》


「おい、こういう騎士だ。知らないか?」


「……あんた、これ人間のつもり? 魔人かと思ったよ……」


 真夜中のバルツクローゲンで、ひたすらあの男を探し続ける。

私に止めも刺さず、意味の分からない言葉だけを残して去った、あの男を。


「もっと良く見ろ! こういう男だ!」


「だーかーらー! こんな人間が居たら恐怖だわ! 一回でも見かけたら……毎夜夢に出てくるよ……」


舌打ちしつつ、今度は酒場のマスターへと男の似顔絵を見せつける。

だがマスターも渋い顔をしつつ、知らんと頭を振るばかり。


「あぁ、もう……酒くれ」


懐から金貨の入った袋を出して叩きつける。

まったく使えない。ここの人間どもは。


「まいど……って、アンタ、こんな店で金貨なんか出されても差額払えないよ」


「あ? そんな事言っても……私金貨しか持ってないぞ」


「どこの貴族? アンタ」


「こんなナリの貴族が居るわけないだろ。冒険者だ。まあいい、今この店に居る奴の酒全部払う。それで飲ませてくれ」


その瞬間、酒場に居る男達が歓声を上げ、一斉に私の周りへと集まってきた。

ああ、もう、五月蠅い。

礼はいいから、この男を探せ!


「んな事言われてもなぁ。こんな絵一枚じゃ……あぁ、だったらザランの所行ってみれば?」


「……誰だ、ソイツ」


「魔術師だよ。なんでも千里眼を持ってるとか持ってないとか……いいよなー、千里眼。覗きし放題」


馬鹿だ。

だが訪ねてみる価値はあるかもしれない。

マスターから酒を受け取りつつ、酒場の男達と乾杯する。

たまにはこういうのも……いいかもしれない。


「ところでアンタ。ずいぶん儲かってるみたいだけど……どっから来たのよ」


「出身はウェルセンツだ。この金はガルムントで一仕事して……」


「ガルムント?!」


その瞬間、男たちは一斉に静かになる。

全員顔を真っ青にして。


「ガルムントって……あれだろ? 魔人の軍勢が……」


「そう、それ。騎士に雇われたんだ。この金はその時の報酬だ」


本当は魔人側なんだが。それも雇われたわけでは無く、ただ単にディアボロスが私の師だからだ。

まあ、その師も死んでしまったようだが。


「すげぇ……あんた腕が立つんだな。若くて美人なのに……」


「どうも」


酒を一気飲みしつつ、マスターへとおかわりを要求。

ついでに何か食い物をくれとねだる。


「それで……話戻すけど、そのザランって魔術師は何処に行けば会える?」


「あー、確か大書庫に籠ってるって話だったけど……魔術師なんて何処に居ても分からねえからな。存在感薄くて」


「大書庫か……」


今朝、大書庫へ行ったが一人の少女としか会えなかった。

まあ大して探索もしてないし、あれだけ広ければ探すのも一苦労だろうが。


「もっと詳しい奴は居ないのか」


「なら魔術師に聞くのが手っ取り早いだろ。大抵、塔に住んでる奴はそれなりの魔術師だ。そいつらに聞けば……ザランの居所くらい知ってるんじゃないのか?」


「……そうか」


カウンターへとマスターが料理を持ってきてくれた。

大きな皿に、分厚いハムが山盛り乗っている。なんだこれは。全部食えと言うのか。


「じゃあ金貨一枚もらっとくよ」


「あ? 一枚でこんな料理食えるのか……相場とかよくわからん……」


フォークでハムを串刺しにし、齧り付きながら食いちぎる。

これは塩漬けにでもされていたんだろうか。少々辛すぎる気もしないでもないが、酒のつまみにはもってこいか。

 すると男達も生唾を飲み込みながらハムを見つめだした。何してるんだコイツら……。


「おい、まさか私に全部食わせる気か。残したらマスターに殺されるだろ」


「お、おぉ、姉さん気前いいな。じゃあ……いただきます……」


ガツガツとハムを口に運ぶ男達。それでも山盛りハムは中々無くならない。

一体どれだけ積んできたんだ、マスター。


「ところで姉さん……探してる男と何があったんだ?」


「あぁ……よくぞ聞いてくれた。この男は……最低なんだ」


だんだん酔ってきたかもしれない。

周りの男達も、私の話に乗ってくる。


「マジか。そりゃひでえ!」


「まだ何も言ってないだろ! 黙って聞け!」


私は再びハムに齧りつきつつ、酒で流し込む。


「この男はな……私の胸に大きな傷を付けたんだ」


そう、あの戦場で……胸に剣を突き刺されながら押し倒された。

まだこの傷は熱を持っている。半分人間の血だからか、並の魔人に比べると傷の治りが遅い。


「大きな傷って……あぁ、フラれたのか」


「姉さん、そんな男追いかけてどうすんだ。新しい人生歩もうぜ!」


好き勝手言ってくれるな……

私は……


「私は……今はこの男の事しか考えられないんだ! 意味不明な事言い残して去りやがって! 見つけ出して後悔させてやる……」


「こ、こわぁ……姉さん、見かけによらず……一人の男に執着するタイプか。モテないぞ、そんなんじゃ」


「そんなもんどうでもいい……私はこの男を見つけないと……先に進めないんだ……」


「そもそも、この街に居るのか? 騎士なんて衛兵か門番だけだろ。王都とかに行った方が……」


王都か……。

魔人は行きづらい。この街なら、いざ魔人とバレても即袋叩きに会う事もないから来てみたが……。

もし王都で魔人だとバレれば……。


いや、それでもこの男が見つかるなら……行く価値は……。


「まあ、何はともあれ……ザランって奴と会ってから……」


その時、勢いよく酒場の扉が開かれた。

入ってきたのは魔術師の女性。息を切らしながらキョロキョロと男達を見渡し、私と目が合うと急いで近づいてくる。


「そ、そこの貴方! 冒険者ですね?!」


「ん? ぅん……何アンタ……」


「正式に依頼します! この子を探して連れ戻して欲しいんです!」


魔術師は懐から一人の少女の似顔絵を取り出すと、私の前へ突き出してくる。


……?

この子、確か今日大聖堂で会った……


「どうやら街の外に出てしまったようで……急ぎグロリスの森へ向かい探索を!」


その時、男達はザワザワと騒ぎ始めた。

夜中にグロリスの森に入るなどあり得ない、と。


「そんなに危険なのか? グロリスの森って……」


「あぁ、夜になるとデカイ狼みたいなバケモンが現れるらしいんだ。そいつを討伐しようと、冒険者が何人も夜中に森に入ってったけど……結局帰ってこなかった」


デカイ狼……それは確実に魔人だろう。

魔人なら恐らく、その森はそいつのテリトリーだ。

わざわざ腹の中に自分から入っていくような物だ。


「お、お願いします! 報酬は……これだけ」


指を三本立てる魔術師。

いや、分からんわ。金貨三枚か?


「銀貨で……」


「……まあ、食後のいい運動になるか……」


最後にハムを一枚口に入れ、モグモグしながら酒で流し込む。

私が行くと決めると、周りの男達は必至に止めてきた。止めておけ、死ぬだけだ、と。


「じゃあ、そこの金貨置いていくから。私が死んだらお前等で山分けしろ。せいぜい私が無事に”帰ってこない”事を祈ってるんだな」


これは私なりの願掛けだ。

私の経験上、死んでほしい奴ほどしぶとい。


「お、おぅ……帰ってこないと全部使っちまうからな!」


「そ、そうだ! また一緒に飲んでくれねえと……許さねえからな!」


私の想いとは真逆の事を言ってくる男達。


違う……そうじゃない。



 ※



 魔術師にグロリスの森がある方角を指示され、一目散にそちらへ走る。

あの女の子には借りがある。

懐かしい本を読ませてもらった借りが。


「でもなんで危険な森に一人で……」


魔人を狩って手柄でも立てたかったんだろうか。

いや、そんな野心があるようには見えなかった。


「まあ……別にどうでもいいか」


そうだ、理由などどうでもいい。

今は連れ戻す事だけを考えればいい。



 街の外は不気味な空間に支配されている。

魔人である私が不気味だと感じるのだ。人間にとっては、もっと酷く感じるかもしれない。

そんな所を一人の少女が歩いているのだ。相当に度胸があるか、ただ単に何も考えていないだけか。


「あの森か」


ひたすらまっすぐに、魔術師に指示された方角へ進み続けると、暗闇の中、更に暗い森が見えてくる。

微かに魔人の匂いもする。やはり誰かが住処にしているようだ。


 そのまま森の中に入ると、月の光を頼りにしようにも木々の葉に遮られてしまう。


暗い、かなり暗い。夜だから当たり前なのだが、それでもこの闇は異常だ。

やはり魔人が森自体と同調しているのだ。


ということは……


「私が入った事もバレてるのか……」


それでも進むしかない。

もう戻るなどあり得ない。


まあちょうどいい機会だ。


あの男に会う前に、自分の腕を磨くのも悪くは無い。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ