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46. 大戦の記憶 リエナ

 騎士の亡骸を全て埋葬した後、私達は目先の砦を落した事で本国の騎士隊、その本隊を呼び寄せる事が出来る。監視はあるだろう、だが砦が落ちた事であまりこちら側にコルネスの騎士隊も踏み込む事が出来ない。それにあちらへと情報もいっているかもしれない。砦を落したのは魔術師だと。


 この情報はメリットにもなるし、デメリットにもなると師匠は言う。メリットは騎士の国であるコルネスを足踏み状態に出来ると言う事。彼らは魔術という物を知らない。だからこそモルガンニカの魔術師を拉致し、その秘術を盗もうとした。そしてデメリットは、そのモルガンニカの魔術師達に被害が及ぶのではないか、という懸念。魔術師を一方的に悪魔の化身だとか思い始める前に、救出しなければならない。あの時……私は殺してしまったけれど。


「……妙だな」


 落ちた砦を監視する騎士団長。私も小高い丘に身を隠しつつ、その傍らで砦の様子を伺っていた。


「何がですか……?」


「人の気配が全くない」


 そりゃそうだ。私が皆殺しにしたんだから。

 なんだ、今更騎士団長は私の行いを批難し始めて……いや、最初からしていたか。


「それが……どうしたんですか、当たり前じゃないですか。私のせいなんですから」


「そんな事を言っとるんじゃない。お前、自分の国で砦が落されたと知ったらどうする」


 どうするって……まあ、様子を見に行く。


「あちらも私達と同じように遠方から様子を伺っているのでは?」


「生存者がいるかもしれないのにか? 誇り高き騎士の国の人間なら、まずは生存者の有無を調べに来る筈だ。それが全くないのは気にならんか」


「使い魔を放つという手もあります。モルガンニカの魔術師を……利用しているのかも」


「その線は捨てきれん……が、あのクズならまだしも、コルネスの本国の騎士隊が拉致した人間をすぐさま利用するとは思えんし……」


 なんだろう、この騎士団長……どこか敵国の騎士を信頼している? 


「あの、騎士団長……コルネスの騎士大好きですか?」


「長く生きてるとな、色々な知り合いが増えるもんだ。それが例え敵であってもな」


「つまり……あちら側にスパイがいると……?」


「そんなんじゃない。確かに大好きな騎士は居る。だが俺も奴も戦場で相対すれば殺し合いになるだろう。それを望んでいるし、後悔もしない」


 熱い男同士の戦という奴だろうか。この辺りはサッパリ理解出来ないが……まあ、私としては勝手にしてくれとしか言いようがない。


「まさか……回り込むつもりか?」


「……ん?」


「森を迂回して、隊を挟み撃ちにするつもりかもしれん。奴らとて俺達が本国から大規模に騎士隊を呼び寄せる事は承知の上だろう。だが俺達さえ潰せば、本体を十分に返り討ちにすることも可能だ」


 そんな事……出来る物なのか?

 確かに船を陸の上から大砲やらなんやらで攻撃すれば、海の藻屑になるのは目に見えている。だが私達を挟み撃ちにする作戦はいささか無茶だ。何故なら森の中には魔人が潜んでいる。森は彼らの領域だ、私達を挟み撃ちにする前に全滅する危険すらある。


「森の中を迂回するのは無茶なのでは……魔人とか居るし……」


「そうでもない、コルネスはイルベルサを壊滅させた歴史があるんだ。奴らならやるさ」


 イルベルサ……ファラクの血族が作り出した魔人の国。一時期とは言え、人間と交流もあったという、まさに人間と魔人の共存を体現した国だ。しかし数年で摩擦が生じ、結局戦争になって滅ぼされた。


「リエナ、仮に俺の言った話が本当に実行されたとして……森を迂回して俺達を挟むのにどのくらいの時間を要すると思う?」


「騎士隊の規模にもよりますが……私なら魔人を警戒して用心深く行きます。それなりの物資も用意する必要もあるし……森を迂回するといっても私達に察知されれば意味も無いし……相当に大回りして……」


「で、どのくらいだ」


「……普通に考えれば一月がかりの大作戦ですよ。私達と戦う体力も残しておかなきゃいけないんだし、無理は出来ないのでゆっくり……」


「そうか? 戦う必要なんてないとしたらどうだ」


 ……どういうことだ?

 挟み撃ちしといて傍観してるつもりか? それならカカシでも……


「あっ……存在を臭わせるだけで、私達は進むしかなくなる……」


「そうだ、十分に準備が出来た相手と、急ぎまくって慌てた奴、叩くなら間違いなく後者だ。だが、そう思わせるために、わざわざ砦を放置しているのかもしれん。生存者の有無はお前の言った通りモルガンニカの魔術師を使えばすぐに分かる」


 いや、あんたそれ否定したやん、ついさっき。


「コルネスも一枚岩では無いという事だ。砦を落した事で俺達に選択の余地は無くなった。本体を待つ時間も無い。俺達だけで斬り込むぞ」


「……そうでなければ全滅……と言う事ですか」


 今思えば、この騎士団長はこの状況を察知していたのではないか? 私が同行する事で、イレギュラーな事態が起きる、そうなった場合、先遣隊のみで仕掛けなければならない。

 しかしこの先遣隊、シスタリアの騎士隊長、その腹心、さらにはバルツクローゲンから優秀な魔術師を引っ張ってきている。十分に戦力は揃っている……筈だ。


「……私は、信用されて無かったんですか……」


 嫌味のような一言を騎士団長にぶつけてみたはいいが、返答は無かった。

 代わりにと、騎士団長は私の頭をくしゃくしゃに撫でまわしてくる。まるで子供扱いだ。


 いや、まるで……では無い。まさに私は子供扱いなんだろう。

 

 素直に悔しい、そう思った。あの砦を落したのも……子供が癇癪を起した程度に考えているのかもしれない……。





 ※





 コルネス本国から森の中へと数人の騎士達が行動を開始していた。

 だがその目的はリエナ達、シスタリアの騎士隊を挟み撃つ事ではない。とあるモノと取引をするためだった。それは魔人。この森に住まうとされる強大な最古の魔人。


「お久しぶりです、ザナリア殿」


 女性騎士だった。透き通るような声で、目の前の何もない深い森へと話しかける。

 すると先程まで闇で満ちていた森が開けるように、日光が降り注ぎ始めた。入って来い、そう言われたように。


「来訪のお許しが出た。行くぞ」


 女性騎士は数人の部下を連れて森の中へと。そこからひたすらまっすぐに。もしこれが任務でなく、ただの個人的な散歩であれば森林浴を楽しめるのに、と女性騎士は残念そうに。しかし今はそれどころではない。シスタリアに本国が攻め込まれれば、今のコルネスの戦力では太刀打ち出来ない。何せシスタリアはコルネスよりも魔術を理解している。剣だけでは限界がある、それが国王を始めとした若い騎士達の結論だった。


「ここで待て、私一人で話してくる」


 女性騎士はある程度進んだ先で部下たちを待たせ、そのまま一人でその魔人の元へと。

 濃密な樹液の中に入り込んだような感覚。魔術を扱わない人間ですら、それの存在を察知出来る程に濃い気配。まさに神に等しき魔人と言われた物に相応しい。


 その空間、開けた広場に巨大な狼が潜んでいた。普通の狼と違うのは、二足歩行している所だろうか。そしてその傍らには真っ黒なローブの少女。一見人間に見えるが、そちらも魔人だろう。


「お二方、お久しぶりです。本日はお願いがあって来ました」


 狼の方はあぐらをかき、話は全てお前に任せると言わんばかりにローブの少女へと目配せする。

 少女は小さな歩幅で、ゆっくりと女性騎士へと近づいてくる。


「座れ」


 少女が女性騎士へとそう命令した。彼女に逆らう意思など毛頭ない。素直にその場で腰を下ろし、少女と目線を合わせる。


「お願いとは何だ。まさかとは思うが、人間同士の戦争に手を貸せとか、そういう話か?」


 耳元でそう小さな声で囁く少女。まるで狼に絶対聞かせたくない、そんな風に。


「その通りです……どうかザナリア殿にこの話を……」


「出来るかボケ、死ね馬鹿、そんな話したら一目散に行ってしまうわ」


「しかしザナリア殿の求めた戦場でしょう? 互いに利用し合えばいい。私達はザナリア殿の力を、そちらは望んだ戦を」


「私が嫌だっつってんだ。分かったら大人しく帰れ」


 女性騎士は帰るわけにはいかない。それは当然だ。コルネスの国王の意志でここに居るのだから。

 不意に立ち上がり、少女が止めようとするのもお構いなしに、女性騎士は声を張り上げる。


「ザナリア殿! もう直、シスタリアから騎士隊が来ます、すでに先遣隊は入り込んでいます。先日、砦が落されました。しかし私達には戦力が足りません、魔術に精通する彼らに対抗する手段が無いのです、どうかお力添えを……!」


 少女は項垂れた。そんな話をされれば、戦闘バカの狼は喜んで飛んでいく。しかし


『断る』


 脳内に響き渡るような、不気味な声。それが明確に拒絶の意志を示した。

 それには少女も驚いた。てっきり喜ぶかと思っていたのに。


「な、何故ですか! 貴方の求めた戦いがすぐそこに……!」


『騎士の国、コルネスよりも手強い騎士が揃っているのか? そのシスタリアという国は。それに魔術に精通しているだと? そんな小細工に頼る連中なんぞ、コルネスの騎士の敵では無いだろう。俺が求めるのは強者、ただそれだけだ』


 ザナリアは白兵戦のみで強者との戦を望んでいる。確かにコルネスの騎士は個としての戦力を見れば相当だ。一個人のみの力だけを見れば、シスタリアに敵う騎士が居るとは思えない。だがそれが集団戦になれば話は別になってくる。戦争という環境で、一個人の強さなど意味をなさない。だからこそ、ザナリアという力を欲した。魔人の軍勢を納める長である狼を味方に引き込めば、戦力として期待できるからだ。


 ザナリアを誘惑する材料が足りていない、と感じた女性騎士。嘘でシスタリアには強力な騎士がいる、と言ってしまっても、それが嘘だとバレれば自分の命はない。だがそれがどうした、自分の命など、母国の前ではいくらでも犠牲に出来る、と覚悟を露にする。


「シスタリアの騎士隊の実力は……コルネスを上回ります。その証拠に……一夜にして砦が落された、その砦には歴戦の者達が揃っていたのにも関わらずです」


 その話を聞きながら、ザナリアはあぐらをかきつつ……足の指の爪を削り始めた。


「って、なにしてんすか! 人が真面目に話してるのに!」


『ならお前も真面目に話せ、先程、先遣隊が来ていると言ったな。砦を落したのはそいつらだろう。歴戦の実力者が居て、先遣隊に潰されたというのか? 言ってみろ、お前の隠している事を』


 女性騎士は冷や汗を垂らす。隠している事などない。しいて言えば、何も分かっていないという事。

 何故一夜にして砦が落されたのか。あの砦にかなりの戦力が揃っていたのは真実だ。にもかかわらず落された。それは何故かと言われても、分からないと答えるしかない。


「……分かりません」


『……何?』


「詳細が不明なのです! シスタリアの騎士隊であることは確かです、しかし彼らがどうやってあの砦を落したのか、さっぱり分からないのです! モルガンニカの魔術師によれば、魔術を使った痕跡は無いとのことでした。それにもし……かれらが砦を落す程の魔術を行使すれば……貴方も気づくのでは?」


 ローブの少女も魔術師だった。確かに、そんな気配は感じていない、と首を傾げる。


「つまり……彼らの中に入るのです。圧倒的な力を持つ……それこそ御伽噺の中にのみ存在する英雄が。個々の力で集団を圧倒する何かが、彼らの中にあるのです」


 これは事実だ。何かは分かっていないが、それが圧倒的な力を持っているのは明白。


『いいだろう……興味が湧いて来た。もっとないのか、この俺が重い腰を上げる理由は』


 女性騎士は拳を握りつつ、最後の取引を持ち掛けるタイミングが来たと確信する。

 しかしそのカードを切ってしまえば、二度とこの魔人との交流も終わるだろう。それはコルネスにとって、今後痛手になるかもしれない。しかし今を乗り切らねば、未来など意味はない、そう女性騎士は決心し、ザナリアを見据える。


「我が王が……貴方に話したい事があるそうです」


『……あ?』


「貴方方の王、ファラクについて」







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