3層:昼
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3層への階段を下りた瞬間、空気が変わった。
湿気が消えた。代わりに、乾いた風が下から吹き上げてくる。
「……なんだここ」
思わず呟いた。
2層までとは、まるで構造が違った。
天井が高い。壁が遠い。中央に、大きな穴がぽっかりと空いている。覗き込むと、底は見えなかった。暗くて、深くて、下からの風だけが存在を主張している。
その穴の縁に沿って、螺旋階段が続いていた。壁側に手すりはない。穴側にもない。幅は二人が並べばぎりぎりという程度の、石造りの階段がただぐるりと下へ続いている。
「足元、気をつけて」
リーゼロッテが言った。
「わかってる」
「私はいいけど、ニッグが」
ニッグを見た。ぎしぎしと関節を鳴らしながら、縁ギリギリを平然と歩いている。
「……お前、もう少し内側を歩け」
「ニ……グ」
「ニッグじゃない、内側だ」
ニッグは特に気にした様子もなく、半歩だけ内側に寄った。
(まあ、いいか)
俺は穴の中を見た。
落ちる、という感覚がなかった。霊体だから当然だ。むしろ、この穴は——
(使えるかもしれない)
そう思いながら、螺旋階段を降り始めた。
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【執念深きトオル】
Lv:20
HP:60/60
MP:120/120
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最初の気配は、五段ほど降りたところで来た。
風を切る音だった。
「上!」
叫ぶより先に、リーゼロッテが盾になるように体を張った。
上空から急降下してきた鳥が、リーゼロッテの鎧に爪を立てた。金属が軋む。しかし弾かれて、鳥は穴の上空へ舞い上がった。
鑑定を走らせる。
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【ケイブイーグル】
Lv:19
HP:???
MP:???
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ワシほどの大きさ。暗褐色の羽根、鋭い爪、黄色い目。洞窟に適応しているのか、薄暗い中でも迷いなく動いている。
「螺旋階段じゃ避けにくいな」
「そうだね。足場が悪い」
幅の狭い階段では大きく動けない。急降下されると、真上から来る攻撃をまともに受けてしまう。
「リズが前に出て受ける。ニッグが斬る。俺が仕留める」
「わかった」
ケイブイーグルが旋回して、また急降下してきた。
リーゼロッテが腕を構える。爪が鎧に当たる。その瞬間、ニッグの長剣が唸りを上げた。
翼を掠めた。ケイブイーグルがバランスを崩す。
「今だ!」
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:120 → 117】
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直撃した。ケイブイーグルが声を上げて、穴の中へ落ちていった。
「一体」
「まだいる」
リーゼロッテが上を見た。
穴の上空を、複数のケイブイーグルが旋回していた。
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同じパターンで、二体、三体と仕留めていった。
急降下してくるところをリーゼロッテが受け、ニッグが動きを止め、俺がダークボールで仕留める。螺旋階段という狭い空間での戦い方が、少しずつ噛み合ってきた。
四体目を倒したところだった。
ケイブイーグルたちの動きが、変わった。
急降下しなくなった。
穴の上空、手の届かない高さで旋回し始めた。こちらを見下ろしながら、距離を保っている。
「……警戒した」
「賢いね」
リーゼロッテが静かに言った。
その時、旋回していたケイブイーグルの一羽が翼を大きく広げた。
風が、集まり始めた。
「っ、来る!」
「伏せて!」
三人が階段に体を低くした瞬間、風の刃が通路を走った。
壁に当たって、石が削れる音がした。
「……ウィンドカッターか」
「上からじゃ、ニッグの剣も届かない」
リーゼロッテが苦い声で言った。
また風が集まる音がした。二羽目が翼を広げている。
「散れ!」
また伏せた。ウィンドカッターが頭上を走る。
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【ダメージを受けました】
【HP:60 → 52】
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完全には躱しきれなかった。風の刃が霊体を掠めた。痛い、というより鋭い感覚が走った。
(まずい。このままじゃジリ貧だ)
上には届かない。降りてこない。一方的に削られる。
(どうする——)
また風が集まり始めた。三羽目だ。
その時。
(待て——俺、浮けるじゃないか)
当たり前のことに、今更気づいた。
霊体だ。足がなくても浮ける。穴があろうと関係ない。あの高さまで、そのまま上がれる。
(影移動で一気に背後に回れば——)
「リズ、ニッグ、伏せてろ!」
「え——」
返事を聞く前に、俺は穴の中に踏み出した。
足場がなくなった。でも落ちない。そのまま上昇する。
ケイブイーグルたちが旋回している高さまで、一気に上がった。
三羽が、こちらに気づいた。
しかし遅かった。
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【スキル発動:《影移動》】
【MP:117 → 107】
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影に溶けて、先頭の一羽の背後に一瞬で回り込んだ。
「もらった!」
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:107 → 104】
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至近距離から叩き込んだ。ケイブイーグルが声を上げて、錐揉みになりながら落ちていく。
残り二羽が慌てて散る。
しかしもう、上空は俺の領域だった。
「次!」
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【スキル発動:《影移動》】
【MP:104 → 94】
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:94 → 91】
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二羽目。
最後の一羽が逃げようとした。しかし洞窟の壁が邪魔をした。
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【スキル発動:《影移動》】
【MP:91 → 81】
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:81 → 78】
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三羽目。
静寂が戻った。
羽根が、ゆっくりと穴の中へ舞い落ちていく。
俺は穴の上空で、しばらくそのまま浮いていた。
下から、リーゼロッテの声が上がってきた。
「……終わった?」
「終わった」
「なんか、楽しそうだったね」
「……別に」
俺は螺旋階段まで戻った。
リーゼロッテが腕を組んで待っていた。ニッグは何事もなかったように前を向いていた。
「行くか」
「ああ」
螺旋階段を、また三人で降り始めた。
穴の底が、少しだけ近くなっていた。
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【執念深きトオル】
Lv:20
HP:52/60
MP:78/120
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──つづく──
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