二層:夜
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青白い光が、通路を静かに満たしていた。
昼の白い光とは質が違う。冷たくて、薄くて、影が深い。
壁際に三人で背を預けたまま、じっとしていた。
何かが、いる。
はっきりとした気配ではない。でも、昼の間にはなかった何かが、暗がりの中に滲んでいる気がした。
「リズ」
「うん」
「夜のやつら、どんな動きをする」
「速い。それと——魔法を使う」
俺は少し黙った。
「魔法」
「ファイアボール系。当たったら全員ダメージがある」
(物理無効が意味をなさない、か)
自然と気が引き締まった。
「出てくる前に動いた方がいいか」
「引き寄せる。待つ方がいい」
「わかった」
決めた瞬間だった。
奥から、声がした。
笑い声に近かった。キキッという、細くて高い声。一つじゃない。複数が重なって、通路の奥からこだまするように響いてくる。
暗がりから、影が飛び出してきた。
小さかった。人の腰ほどの高さしかない。コウモリに似た翼、細長い手足、大きな耳。眼窩の奥に、赤い光が宿っている。
そして——速かった。
壁を蹴り、天井を走り、床を滑るように、一瞬で距離を詰めてくる。
鑑定を走らせる。
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【インプ】
Lv:21
HP:???
MP:???
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インプが口を開いた。小さな口の奥に、赤い光が集まっていく。
「散れ!」
三人が別々に飛び退いた瞬間、ファイアボールが通路を走った。壁に直撃して、石が焦げる音がした。
(速い——!)
体勢を立て直す間もなく、インプがまた動いた。天井を蹴って、リーゼロッテに向かって急降下する。
「っ——」
リーゼロッテが腕で受けた。直撃ではないが、魔力の余波だけで鎧が赤く軋んだ。
(ダークボールをまともに当てられるか……?)
あの速度では難しい。動き回っている間は当たらない。
(狙い目は——魔法を練る瞬間だ)
ファイアボールを撃つ直前、一瞬だけ動きが止まった。口の中に光を集める、その瞬間。
「リズ、もう一度前に出てくれ。気を引いてほしい」
「わかった」
リーゼロッテが前に出た。インプが反応して、また口に光を集め始める。
動きが——止まった。
「今だ!」
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:69 → 66】
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詠唱の瞬間を狙って叩き込んだ。今度は当たった。インプが甲高い声を上げて、床に落ちた。
「よし——」
その時、奥からまたキキッという声がした。
今度は複数だった。
「……増えた」
「そうみたいだね」
リーゼロッテが静かに言った。
暗がりから二体が飛び出してくる。壁と天井、別々のルートから同時に。
「一体ずつ潰す。焦るな」
リーゼロッテが天井のインプに向かって腕を振り上げた。軌道を乱す。インプが体勢を崩した瞬間、ニッグの長剣が唸りを上げた。
一閃。
天井のインプが床に叩き落とされた。
「トオル!」
「もらった!」
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:66 → 63】
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落下した瞬間を叩き込む。動きが止まっていた。外さない。
壁のインプが俺の隙を狙ってファイアボールを放った。
「っ」
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【ダメージを受けました】
【HP:60 → 51】
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霊体の中を熱が貫いた。痛いというより、存在が焦げるような感覚だった。
(魔法は本当に効く……!)
「トオル!」
「平気だ、続けるぞ!」
壁のインプが次の詠唱に入る。
「ニッグ!」
ニッグが跳んだ。壁を蹴って、インプとの距離を一気に詰める。インプが詠唱を止めて逃げようとした——遅かった。
錆びた剣が、インプを捉えた。
床に落ちてくる。
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:63 → 60】
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仕留めた。
静寂が戻った。
「……パターンが見えてきたな」
俺は息をついた。
「詠唱の瞬間を狙う。ニッグが動きを止めて、俺が撃つ」
「そうだね」
リーゼロッテが頷いた。
「やれる」
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夜は、長かった。
断続的にインプが来た。一体、また一体。時に二体同時。
パターンがわかってからは、落ち着いて対処できた。ニッグがインプの動きを止める。リーゼロッテが体を張って詠唱を妨害する。俺がダークボールで仕留める。
それでも、ファイアボールは完全には防げなかった。
一発目を躱した直後に二発目が来たり、ニッグを庇おうとして被弾したり。
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【ダメージを受けました】
【HP:51 → 43】
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熱が霊体を貫くたびに、存在が少しずつ薄くなっていく感覚があった。
(きつい……でも止まれない)
それでも足は動いた。
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壁の光が変わり始めたのは、何体目を倒した頃だったか。
青白かった光が、じわりと白くなっていく。
奥からのキキッという声が、遠ざかっていく。
インプの気配が、薄れていく。
やがて——消えた。
「……終わったか」
俺は息をついた。
「終わったね」
リーゼロッテも、長く息を吐いた。
ニッグが剣を鞘に収めた。腕は——今回は落ちていなかった。
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【執念深きトオル】
Lv:20
HP:43/60
MP:60/120
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(HP43、MP60……削られた)
正直きつかった。速くて、魔法を使って、複数で来る。昼の連中とはまるで違う戦い方を要求してきた。
「3層に行く前に、少し休む」
リーゼロッテが言った。
「賛成だ」
通路が、昼の白い光に戻っていく。冷たかった空気が、少しだけ和らいでいく。
ニッグが壁際で、特に何をするでもなく立っていた。
「……ニッグ」
濁った眼が、こちらを向く。
「よくやった」
ニッグは何も言わなかった。
ただ、長剣の柄をぱたりと一度だけ叩いた。
(……そういうやつだな)
俺は苦笑した。
しばらくして、リーゼロッテが立ち上がった。
「行こうか」
「ああ」
3層への階段が、白い光の中に見えていた。
──つづく──
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