二層:昼
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二層は、湿っていた。
階段を下りた瞬間、空気の質が変わった。石の匂いに、水と土の匂いが混じっている。一層の清廉な冷気とは違う、もっと重くて底の深い空気だった。
壁の大理石は同じ白さだが、所々に苔が這っていた。緑と白のまだら模様が、薄い光の中でぼんやりと浮かんでいる。
足元を見た。
石畳の隙間から水が滲み出していて、薄く床を覆っている。リーゼロッテが一歩踏み出すたびに、ちゃぷ、と小さな水音が立った。ニッグのローブの裾が、水を吸ってじわりと色を変えていく。
俺には関係ない。水もすり抜ける。
「昼のうちに進めるだけ進む」
先頭を歩くリーゼロッテが、前を向いたまま言った。
「夜になると出てくるやつが変わる。昼行性を相手にしてる今のうちに、できるだけ奥まで」
「夜のやつらはそんなに違うのか」
「動きが速い。それだけで全然違う」
俺は頷いた。
慎重に、通路を進む。
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最初に出てきたのは、ウォータースライムだった。
水たまりの中から、ずるりと這い出してきた。半透明の体が揺れている。大きさは犬ほど。のっそりしていて、一見すると大したことなさそうだった。
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【ウォータースライム】
Lv:17
HP:???
MP:20
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(物理系じゃないな。魔法寄りか)
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:112 → 109】
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黒い球体が直撃した。ウォータースライムが一瞬光って、跡形もなく消えた。
「……楽勝じゃないか」
言った瞬間、リーゼロッテが無言で通路の奥を指差した。
暗がりの中から、音がしていた。
ずる、ずる、ずる。
水を引きずるような音。一つじゃない。
「……あ」
出てきた。
一体、二体、三体。壁の隙間から。水たまりの中から。柱の陰から。気づいたときには、前後左右から完全に囲まれていた。
数を数える。十……いや、もっといる。
「MP節約しながらやるぞ」
「わかってる」
リーゼロッテが前方の三体に突っ込んだ。鎧の拳が炸裂する。スライムが壁に叩きつけられて潰れた。俺は後方にダークボールを叩き込む。
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:109 → 106】
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一体仕留めた。しかし横から二体が迫る。
(数が多い。このペースじゃ……)
その時だった。
ニッグが、動いた。
ぎしぎしとした、あの日常の動きが——すっと、消えた。
錆びた長剣が鞘から抜ける。
一閃。
正面の三体が、まとめて両断された。返す刃で横の二体。振り向きざまに後ろの一体。足が水を蹴る音。一切の無駄がない。
止まらない。
流れるような剣筋が、スライムを次々と切り裂いていく。
俺はダークボールを撃つ手を、いつの間にか止めていた。リーゼロッテも、気づけば立ち止まっていた。二人して、ニッグの大立ち回りをただ眺めていた。
剣が唸る。スライムが散る。また剣が唸る。
あっという間だった。
最後の一体が床に落ちて、溶けた。
水音だけが残った。
「……すげえ」
思わず呟いた。
「うん」
リーゼロッテも、小さく頷いた。
ニッグが長剣を下ろした。
その瞬間だった。
ぼとっ。
ぼとっ。
「…………」
ニッグの両腕が、揃って床に落ちた。水たまりに沈む。ぽちゃん、という、やけに間の抜けた音がした。
ニッグは自分の肩口を見た。
腕がない。
次に床を見た。
腕がある。水に浸かっている。
拾おうとした。
腕がないので、拾えなかった。
「…………」
俺は固まった。リーゼロッテも固まった。
ニッグは床の腕と自分の肩を、ゆっくりと見比べていた。困っているのかいないのかわからない顔で。
沈黙が、三秒続いた。
「……腕が落ちそうなら言え!!」
俺は思わず叫んだ。
我ながら何を言っているんだという感じだが、他に言葉が出てこなかった。
ニッグがこちらを見た。
「ニ……」
「ニッグじゃない! もっと早く言えって話だ!」
「言えないでしょ、喋れないんだから」
リーゼロッテが呆れた声で言いながら、しゃがんだ。水たまりから両腕をひょいと拾い上げて、ニッグの肩口に押し当てる。ぐちゅ、という音とともに、右、左、くっついた。
ニッグがぱたぱたと腕を動かした。確認している。
「……毎回こうなるのか、コイツ」
俺が呟くと、リーゼロッテは立ち上がりながら言った。
「全力で戦うとそうなるんでしょ。たぶん」
「それで剣を振るう気になれるな……」
「なれるんでしょ、本人が」
ニッグは何事もなかったように前を向いていた。
(……なんかすごいな、色んな意味で)
俺はため息をついた。
「次、腕が落ちそうになったら——せめてこっちを見ろ。目で合図しろ」
ニッグがこちらを見た。
「ニ……グ」
「そう、ニッグ」
伝わっているのかいないのか、わからなかった。
でも、まあ。
「行くか」
通路の奥へ、また三人で歩き出した。
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それからしばらく、マッドクロウラーを数体相手にしながら二層を進んだ。
マッドクロウラーは名前の通り泥に近い色をした芋虫型の魔物で、単体ならさほど強くないが、放置すると壁から際限なく湧いてくる厄介な相手だった。先手を取って潰す、その繰り返し。
ニッグはこの戦闘では腕を落とさなかった。手加減しているのか、スライム戦が本当に限界だったのか。どちらかはわからない。
「……随分、奥まで来たな」
「まだ半分もいってないよ」
「そうか」
足元の水が、少しずつ深くなっている気がした。靴底が濡れないのは俺だけだ。
壁の発光が変わり始めたのは、そのころだった。
白かった光が、じわりとオレンジ色に染まっていく。まるで石の内側で、小さな夕陽が沈んでいくような——それがゆっくりと、ゆっくりと薄れていって。
やがて。
消えた。
暗闇が、通路を満たした。
一拍おいて、今度は壁の別の部分から、青白い光が滲み出してきた。月明かりに似た、冷たく静かな光だった。
「……切り替わった」
リーゼロッテが静かに言った。
「夜だ」
俺は通路の奥を見た。
さっきまでと同じ石畳。同じ柱。同じ大理石の壁。
でも、空気が違う。
張り詰めている。まるで何かが、こちらを値踏みしているような——
「今日はここまでにするか」
「賢明だね」
三人で、壁際に体を寄せた。
ニッグが無言で壁に背を預ける。リーゼロッテが鎧の傷んだ箇所を黙って確かめている。
青白い光が、通路を静かに照らしていた。
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【執念深きトオル】
Lv:20
HP:60/60
MP:106/120
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(夜の敵は動きが速い、か)
俺はそっと、通路の暗がりを見つめた。
何かがいる気配は、まだある。
ただ——今は、動かない。
夜が、静かに続いていた。
──つづく──
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