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異世界転「生」できませんでした。-俺YOEEEけどたくましく生きて行きます。-  作者: 六六-B
詩人の湖畔・狩人の水面編

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二層:昼

ブックマーク、レビューとかしていただけるとやる気に繋がります!本当にお願いします!やる気にね、繋がるんですよ!やる気はやっぱね、出たほうがいいですからね!ぜひね!お願いしますね!!


二層は、湿っていた。

階段を下りた瞬間、空気の質が変わった。石の匂いに、水と土の匂いが混じっている。一層の清廉な冷気とは違う、もっと重くて底の深い空気だった。

壁の大理石は同じ白さだが、所々に苔が這っていた。緑と白のまだら模様が、薄い光の中でぼんやりと浮かんでいる。

足元を見た。

石畳の隙間から水が滲み出していて、薄く床を覆っている。リーゼロッテが一歩踏み出すたびに、ちゃぷ、と小さな水音が立った。ニッグのローブの裾が、水を吸ってじわりと色を変えていく。

俺には関係ない。水もすり抜ける。

「昼のうちに進めるだけ進む」

先頭を歩くリーゼロッテが、前を向いたまま言った。

「夜になると出てくるやつが変わる。昼行性を相手にしてる今のうちに、できるだけ奥まで」

「夜のやつらはそんなに違うのか」

「動きが速い。それだけで全然違う」

俺は頷いた。

慎重に、通路を進む。

───────────────────

最初に出てきたのは、ウォータースライムだった。

水たまりの中から、ずるりと這い出してきた。半透明の体が揺れている。大きさは犬ほど。のっそりしていて、一見すると大したことなさそうだった。

───────────────────

【ウォータースライム】

Lv:17

HP:???

MP:20

───────────────────

(物理系じゃないな。魔法寄りか)

───────────────────

【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】

【MP:112 → 109】

───────────────────

黒い球体が直撃した。ウォータースライムが一瞬光って、跡形もなく消えた。

「……楽勝じゃないか」

言った瞬間、リーゼロッテが無言で通路の奥を指差した。

暗がりの中から、音がしていた。

ずる、ずる、ずる。

水を引きずるような音。一つじゃない。

「……あ」

出てきた。

一体、二体、三体。壁の隙間から。水たまりの中から。柱の陰から。気づいたときには、前後左右から完全に囲まれていた。

数を数える。十……いや、もっといる。

「MP節約しながらやるぞ」

「わかってる」

リーゼロッテが前方の三体に突っ込んだ。鎧の拳が炸裂する。スライムが壁に叩きつけられて潰れた。俺は後方にダークボールを叩き込む。

───────────────────

【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】

【MP:109 → 106】

───────────────────

一体仕留めた。しかし横から二体が迫る。

(数が多い。このペースじゃ……)

その時だった。

ニッグが、動いた。

ぎしぎしとした、あの日常の動きが——すっと、消えた。

錆びた長剣が鞘から抜ける。

一閃。

正面の三体が、まとめて両断された。返す刃で横の二体。振り向きざまに後ろの一体。足が水を蹴る音。一切の無駄がない。

止まらない。

流れるような剣筋が、スライムを次々と切り裂いていく。

俺はダークボールを撃つ手を、いつの間にか止めていた。リーゼロッテも、気づけば立ち止まっていた。二人して、ニッグの大立ち回りをただ眺めていた。

剣が唸る。スライムが散る。また剣が唸る。

あっという間だった。

最後の一体が床に落ちて、溶けた。

水音だけが残った。

「……すげえ」

思わず呟いた。

「うん」

リーゼロッテも、小さく頷いた。

ニッグが長剣を下ろした。

その瞬間だった。

ぼとっ。

ぼとっ。

「…………」

ニッグの両腕が、揃って床に落ちた。水たまりに沈む。ぽちゃん、という、やけに間の抜けた音がした。

ニッグは自分の肩口を見た。

腕がない。

次に床を見た。

腕がある。水に浸かっている。

拾おうとした。

腕がないので、拾えなかった。

「…………」

俺は固まった。リーゼロッテも固まった。

ニッグは床の腕と自分の肩を、ゆっくりと見比べていた。困っているのかいないのかわからない顔で。

沈黙が、三秒続いた。

「……腕が落ちそうなら言え!!」

俺は思わず叫んだ。

我ながら何を言っているんだという感じだが、他に言葉が出てこなかった。

ニッグがこちらを見た。

「ニ……」

「ニッグじゃない! もっと早く言えって話だ!」

「言えないでしょ、喋れないんだから」

リーゼロッテが呆れた声で言いながら、しゃがんだ。水たまりから両腕をひょいと拾い上げて、ニッグの肩口に押し当てる。ぐちゅ、という音とともに、右、左、くっついた。

ニッグがぱたぱたと腕を動かした。確認している。

「……毎回こうなるのか、コイツ」

俺が呟くと、リーゼロッテは立ち上がりながら言った。

「全力で戦うとそうなるんでしょ。たぶん」

「それで剣を振るう気になれるな……」

「なれるんでしょ、本人が」

ニッグは何事もなかったように前を向いていた。

(……なんかすごいな、色んな意味で)

俺はため息をついた。

「次、腕が落ちそうになったら——せめてこっちを見ろ。目で合図しろ」

ニッグがこちらを見た。

「ニ……グ」

「そう、ニッグ」

伝わっているのかいないのか、わからなかった。

でも、まあ。

「行くか」

通路の奥へ、また三人で歩き出した。

───────────────────

それからしばらく、マッドクロウラーを数体相手にしながら二層を進んだ。

マッドクロウラーは名前の通り泥に近い色をした芋虫型の魔物で、単体ならさほど強くないが、放置すると壁から際限なく湧いてくる厄介な相手だった。先手を取って潰す、その繰り返し。

ニッグはこの戦闘では腕を落とさなかった。手加減しているのか、スライム戦が本当に限界だったのか。どちらかはわからない。

「……随分、奥まで来たな」

「まだ半分もいってないよ」

「そうか」

足元の水が、少しずつ深くなっている気がした。靴底が濡れないのは俺だけだ。

壁の発光が変わり始めたのは、そのころだった。

白かった光が、じわりとオレンジ色に染まっていく。まるで石の内側で、小さな夕陽が沈んでいくような——それがゆっくりと、ゆっくりと薄れていって。

やがて。

消えた。

暗闇が、通路を満たした。

一拍おいて、今度は壁の別の部分から、青白い光が滲み出してきた。月明かりに似た、冷たく静かな光だった。

「……切り替わった」

リーゼロッテが静かに言った。

「夜だ」

俺は通路の奥を見た。

さっきまでと同じ石畳。同じ柱。同じ大理石の壁。

でも、空気が違う。

張り詰めている。まるで何かが、こちらを値踏みしているような——

「今日はここまでにするか」

「賢明だね」

三人で、壁際に体を寄せた。

ニッグが無言で壁に背を預ける。リーゼロッテが鎧の傷んだ箇所を黙って確かめている。

青白い光が、通路を静かに照らしていた。

───────────────────

【執念深きトオル】

Lv:20

HP:60/60

MP:106/120

───────────────────

(夜の敵は動きが速い、か)

俺はそっと、通路の暗がりを見つめた。

何かがいる気配は、まだある。

ただ——今は、動かない。

夜が、静かに続いていた。

──つづく──

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