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異世界転「生」できませんでした。-俺YOEEEけどたくましく生きて行きます。-  作者: 六六-B
旅人の辻編

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歓声と

ブックマーク、レビューとかしていただけるとやる気に繋がります!本当にお願いします!やる気にね、繋がるんですよ!やる気はやっぱね、出たほうがいいですからね!ぜひね!お願いしますね!!


 路地を抜けて大通りに戻った瞬間、どっと歓声が上がった。

「やったぞ! 試練突破だ!!」

「嬢ちゃんたち、やるじゃないか!」

「エルメシア様の試練を突破したのは何年ぶりだ!?」

 気づけば大通りの両側に人だかりができていた。市民たちが手を叩き、口笛を吹き、思い思いに声を上げている。噴水の前で言い争っていたカップルも、雑貨店の老店主も、酒場から出てきた旅人も、みんな笑顔でこちらを見ていた。

「おめでとう、嬢ちゃんたち!」

 タバコの男が、にかっと笑いながら親指を立てた。

 トオルは少し呆気に取られて、それから思わず笑った。

「……ありがとうございます」

 リーゼロッテが隣で、静かに頭を下げた。

 歓声が、また一段と大きくなった。

 子供たちが駆け寄ってきた。わあわあと声を上げながら、リーゼロッテの鎧を触ろうとする。

「こら、兜には触るな」

 リーゼロッテが低い声で言うと、子供たちはきゃあと笑いながら逃げていった。

 市場の母親が、布に包んだ何かを差し出してきた。

「これ、道中のお供にどうぞ。大したものじゃないけど」

 パンと干し肉だった。

「……ありがとうございます。でも俺、食べられなくて」

「騎士様に」

「私ももらえないんですが」

 母親は少し困った顔をして、それから笑った。

「じゃあ、次に出会った旅人にでも渡してあげてください」

「……そうします」

 トオルはそれを受け取ろうとした。すり抜けた。

「……あ」

「私が持ちます」

 リーゼロッテが拾い上げた。

 母親がくすくすと笑った。


 タラリアを出たのは、夕暮れが終わりかけた頃だった。

 城門をくぐると、街の喧騒がすっと遠のいた。振り返ると、オレンジ色に染まった街並みが見えた。

「……賑やかな街だったな」

 トオルが呟いた。

「そうだね」

 リーゼロッテが頷く。

「エルメシアらしい試練だったよ。ああ見えて、あの人は一番人間が好きなんだ」

「そうなのか?」

「ひとところに留まらないのも、どこにでも現れるのも、全部人間を見ていたいからだよ。旅人の英雄ってのは、そういうことだと思う」

 トオルはその言葉を、しばらく頭の中で転がした。


 街道を進むにつれて、人通りが減っていった。

 石畳が途切れ、土の道になる。木々が深くなる。空は群青色に変わり始めていた。

 しばらく黙って歩いた。

 風が吹いた。木々がざわめいた。

 トオルは《幽幻》を解いて、霊体に戻った。人型を保つのにも集中が要る。人気がなければ、こちらの方が楽だった。

「次は双子の霊廟か」

「詩人の湖畔と狩人の水面。どっちから行くか、辿り着いてから考えよう」

「エルメシアが言ってたな。あそこに番人がいるって」

「そうだね。どんな奴かはわからないけど」

「まあ、なんとかなるだろ」

「根拠は?」

「今まで何とかなってきた」

 リーゼロッテが肩をすくめた。

 また沈黙が続いた。虫の声が聞こえ始めていた。

 どれくらい歩いたときだろう。

 ふと、トオルは足を止めた。

 何かが、おかしかった。

 虫の声が、止んでいた。

 風も止んでいた。木々のざわめきも消えていた。街道が、しん、と静まり返っている。

「リズ」

 低く呼んだ。

「……わかってる」

 リーゼロッテの声も、自然と低くなっていた。

 二人は足を止めて、周囲に意識を向けた。

 気配がある。

 一つ。しかし重い。ずしりとした、禍々しい気配だった。今まで相手にしてきた魔族とは、また毛色が違う。

 木々の向こうで、何かが動いた。

 黒い靄が、じわりと広がってきた。地面を這うように、低く、ゆっくりと。草が枯れていく。土が変色していく。その靄が触れた場所から、静かに色が失われていった。

(瘴気……だが、今まで見たものと違う)

 トオルは観察スキル──いや、今は鑑定だ──を走らせた。しかし靄そのものには何も引っかからない。発生源がまだ見えていないからだ。

 木々の間に、人影が現れた。

 ゆっくりと、街道に出てくる。

 細身の男だった。体中に黒い紋様が走っている。肌は蒼白で、まるで血が通っていないように見えた。顔には表情がない。ただ、眼だけが赤く、燃えるように光っていた。

 足音がしなかった。

 それが不気味だった。あれだけの体格の男が、完全に無音で歩いてくる。草も踏まない。土も鳴らさない。まるで空中を漂っているように、するりと街道に立った。

 男は立ち止まった。

 赤い眼が、静かにトオルたちを捉えた。

 値踏みするような、しかし焦りの一切ない視線だった。

「……魔物と幽霊か」

 低く、感情のない声が響いた。

「気配でわかっていた。随分と遠くから、こちらを見ていたな」

 トオルは答えなかった。

 男は続けた。

「英雄の霊廟を巡る旅人か。ならば、ここで止まってもらわなければ困る」

 淡々としていた。怒りもなく、焦りもなく、ただ事実を述べるように言った。

 それが、今まで相手にしてきた魔族とは違った。ゴールは力を誇示した。ダントンは高圧的だった。ゼルは挑発的だった。

 この男は、静かだった。

 静かで、冷たかった。

「……名前は?」

 トオルが問うた。

 男は少し間を置いた。

「名乗る必要があるか」

「ない。でも聞いた」

 また間があった。

「……ガルム」

 それだけ言った。

 次の瞬間、ガルムの体から黒い魔力が溢れ出した。じわりとではなく、一瞬で。街道全体を覆うような、重い魔力の圧だった。

 木々がざわめいた。

 草が一斉に伏せた。

 トオルは思わず半歩退いた。

「行くぞ、リズ」

「ああ」

 リーゼロッテが拳を構えた。

 ガルムは動かなかった。

 ただ、赤い眼だけが、静かに光り続けていた。

 ──つづく──

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