旅人の英雄エルメシア
ブックマーク、レビューとかしていただけるとやる気に繋がります!本当にお願いします!やる気にね、繋がるんですよ!やる気はやっぱね、出たほうがいいですからね!ぜひね!お願いしますね!!
東区は、大通りから一本入るだけで、別の街のように静かだった。
石畳の細い路地。蔦が絡まった石壁。どこかから花の匂いがする。人の声が遠くなる。
「ここか……」
トオルが周囲を見回した。
「二つ目の角、だったね」
リーゼロッテが先を歩く。一つ目の角を曲がる。二つ目の角を曲がる。
あった。
路地の突き当たりに、小さなカフェテラスがあった。石造りの外壁に、蔦が這っている。丸いテーブルが二つ、外に出ている。看板も出ていない。知らなければ絶対に気づかない場所だった。
そのテーブルの一つに。
金髪の少女が座っていた。
羽のついた靴を組んで、片手に本を持って、もう片手でティーカップを傾けている。こちらに背を向けていても、それがエルメシアだとわかった。
トオルとリーゼロッテは、顔を見合わせた。
どうする、と目で問う。
行くぞ、と目で答える。
二人は足音を殺して近づいた。
テーブルの後ろ、一メートル。
エルメシアはまだ本を読んでいる。
五十センチ。
ティーカップが、テーブルに置かれた。
三十センチ。
エルメシアが、ゆっくりとページをめくった。
トオルが手を伸ばした。
「捕まえた」
エルメシアの肩に、手が触れた。
すり抜けなかった。
エルメシアが本を閉じた。振り返ることなく、ただカップを持ち上げて、お茶を一口飲んだ。
「……お見事」
静かな声だった。
それからゆっくりと振り返った。悪戯っぽい笑みは消えていた。代わりに、穏やかな、どこか満足そうな表情があった。
「座って。お茶でも飲む?」
「飲めないですけど」
「そうだったね」
エルメシアが指を鳴らすと、テーブルの上にカップが二つ増えた。リーゼロッテの前に一つ、トオルの前に一つ。
リーゼロッテがカップを持ち上げた。兜の中に傾ける。どういう仕組みかわからないが、飲めているらしい。
トオルはカップをじっと見た。試しに持ち上げようとした。すり抜けた。
「……やっぱり飲めない」
「匂いだけ楽しんで」
エルメシアが笑った。
三人分の沈黙が、路地に広がった。どこかで鳥が鳴いた。夕暮れの光が石畳を染めている。
「試練の答えを聞きたい?」
エルメシアが言った。
「聞かせてください」
「最初に言ったよ」
トオルは少し考えた。
「……旅は道連れ、世は情け」
「そう」
エルメシアはカップを両手で包むように持ちながら、続けた。
「君たちはアタシを追いかけることに必死で、最初は目の前の人たちが見えていなかった。でも気づいた。助けた。繋がった。それがこの試練の全てだよ」
「……結論を先に言ってたんですね。試練の内容じゃなくて、答えを」
「結論ファーストがアタシのやり方だからね」
エルメシアはにやりとした。
「機を逃すな、宝を掴め。出会いこそが旅人にとっての宝だよ。どんな場所でも、どんな相手でも、目の前の人間と繋がれる者だけが、本当の意味で旅ができる」
トオルは黙って聞いていた。
リーゼロッテも、カップを持ったまま動かなかった。
「君たちは合格だよ」
エルメシアが立ち上がった。本を脇に抱えて、羽のついた靴を鳴らした。
「授けよう」
その手が、トオルの胸元に触れた。
光が流れ込んでくる。踊り子の泉の時とは違う、軽くて素早い光だった。まるで風のような。
頭の中に、音が響く。
──《観察》が《鑑定》へと昇格しました。
「鑑定……」
「人を見る目、物を見る目。観察より深く、本質まで見通せる。君の旅に必要なものだと思ってね」
トオルは自分の手を見た。
「もう一つ」
エルメシアが続けた。
「君が次に進化するためには、次の霊廟で待つ魔物を倒すことが必要だ」
「次の霊廟……詩人の湖畔と狩人の水面か」
「そう。双子の霊廟には、それに相応しい番人がいる。そいつを倒すことが、君の次のステップになる」
エルメシアはそれだけ言って、踵を返した。
路地の奥へ、すたすたと歩いていく。
「待って、エルメシア!」
トオルが呼び止めた。
エルメシアが振り返る。
「また会えますか」
少し間があった。
エルメシアは、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「さあね。アタシはいつでもどこにでもいるから」
そう言って、角を曲がった。
足音が消えた。
路地に、トオルとリーゼロッテだけが残った。
夕暮れが、石畳をオレンジ色に染めていた。
「……行こうか」
リーゼロッテが空になったカップをテーブルに戻しながら言った。
「ああ」
トオルは立ち上がった。立ち上がった姿に変身した。
二人は路地を抜けて、大通りへと戻った。
タラリアの街は、まだ賑やかだった。
──つづく──
ブックマーク、レビューとかしていただけるとやる気に繋がります!本当にお願いします!やる気にね、繋がるんですよ!やる気はやっぱね、出たほうがいいですからね!ぜひね!お願いしますね!!




