旅は道連れ世は情け
再開したけどみんなまた読んでくれるかな…
執筆最後まで続けるモチベください
ブックマークとか評価とかコメントとか待ってまーす
まず向かったのは、広場だった。
噴水のそばに、カップルはまだいた。声はさっきより少し小さくなっていたが、二人とも腕を組んで、互いに背を向けて立っていた。完全に冷戦状態だった。
「……まだやってる」
トオルが呟く。
「行こう」
リーゼロッテが先に歩き出した。
二人の前に立つ。カップルがぎょっとして振り返った。
「な、なんだ」
「ちょっといいですか」
リーゼロッテが、腰に手を当てて言った。
「さっきからずっと言い争ってますよね。道に迷ってるんですか?」
「……まあ、そうだけど」
男の方が、ばつが悪そうに答えた。女の方はまだ横を向いている。
「どこに行きたいんですか」
「西区の宿屋なんだが……地図が古くて、新しい道と合わなくて」
「私が案内しますよ」
リーゼロッテはあっさりと言った。
男が目を丸くした。女もそっと振り返った。
「え、いいのか?」
「いいですよ。この街は知ってます」
リーゼロッテは二人の間に立って、それぞれの肩を軽く押した。
「ほら、二人とも並んで。喧嘩してる場合じゃないですよ。道に迷ったのは地図のせいで、お互いのせいじゃないでしょう」
男と女は、しぶしぶ並んだ。
リーゼロッテに先導されて、三人が歩き出す。
トオルは隣を歩きながら、リーゼロッテの背中を見た。
(……こういうの、得意なんだな)
自然だった。まるで昔からずっとやってきたことのように、淀みなかった。
西区の路地の入口まで送り届けると、カップルは揃って頭を下げた。
「ありがとう、助かったよ」
「ええ、本当に。……あと、ごめんなさい」
女が、男に向かって小さく言った。
男も「俺もだ」と頷いた。
リーゼロッテが、また腰に手を当てた。
「エルメシア様のこと、何か知りませんか。お気に入りの場所があるって聞いたんですが」
カップルは顔を見合わせた。
「エルメシア様か……確か、この街の東の方に、古い路地があってね」
「そこに小さなカフェがあるって聞いたことがあるよ。あまり人が来ない、静かな場所らしい」
「東の路地のカフェ……」
「詳しい場所はわからないけど、参考になれば」
「十分です。ありがとうございます」
次は路地だった。
細い路地の奥、石壁の前で、小さな子供が泣いていた。膝を抱えて、しゃくりあげながら。
「迷子か……」
トオルがしゃがみかけたとき、リーゼロッテが先に子供の前に屈んだ。
「どうした。お母さんは?」
子供はリーゼロッテを見上げて、一瞬固まった。全身鎧の騎士が突然しゃがんできたのだ。普通に怖い。
しかし次の瞬間、わっとまた泣き出した。よほど心細かったのか。
「お、おお、泣くな泣くな」
リーゼロッテが少し慌てた。
「お母さんはどこで会えなくなったの?」
「…………いちば……」
「市場か。わかった」
リーゼロッテはしゃがんだまま、子供を見た。それから、トオルを見た。
「肩車する」
「え」
「背が高い方が探しやすい」
リーゼロッテはすっと立ち上がり、子供に背を向けてしゃがんだ。
「おいで」
子供はおそるおそる、リーゼロッテの肩によじ登った。
リーゼロッテがゆっくりと立ち上がる。子供の頭が、大人の身長の倍近い高さになった。
「見える? お母さんいるか?」
「……うん! あっち!」
「よし」
リーゼロッテが歩き出す。
トオルは隣を歩きながら、兜をちらりと見た。
「……兜、大丈夫か?」
「動かさないで」
「わかってる」
子供がリーゼロッテの頭をつかもうとする。
「そこ触らないで」
「触らないように」
二人で素早く子供の手を誘導した。
市場の入口まで来ると、血相を変えた女が飛び出してきた。
「この子! どこ行ってたの!!」
子供がリーゼロッテの肩から飛び降り、母親に抱きついた。
「すみません、迷子になっていたので」
「ありがとうございます……! 本当に、ありがとうございます……!」
母親が深々と頭を下げた。
それからはっと顔を上げて言った。
「あの、エルメシア様の試練の方ですよね? 見てましたよ、広場で」
「そうです」
「東区の路地に、カフェテラスがあるんです。エルメシア様がよくいらっしゃるって、この辺りじゃ有名で。石畳の細い路地を入って、二つ目の角を曲がったところです」
「……ありがとうございます」
酒場は、大通り沿いの賑やかな店だった。
昼間から酒を飲んでいる男たちが数人、入口近くのテーブルを占拠している。その隣のテーブルで、旅人風の男が困った顔をして縮こまっていた。
「なあなあ、一杯付き合えよ」
「いや、俺は……」
「いいじゃないかよ、なあ」
絡まれていた。
「行こう」
トオルが先に歩き出した。
リーゼロッテと二人で、酔っ払いたちと旅人の間に入る。
「すみません、この人、私たちの連れなんですよ」
トオルが笑顔で言った。
酔っ払いたちがトオルを見た。リーゼロッテを見た。全身鎧の大柄な騎士に、一瞬ひるんだ。
しかし酒が入っているせいか、すぐに目がトオルに戻った。
「……なんだ、連れって。可愛いじゃないか。まあ座れよ、酌してくれ」
ニヤニヤしながら一人が言った。
トオルは笑顔のまま、少しだけ顔を傾けた。
《幽幻》を、顔だけ解いた。
人の顔が、霧散した。
代わりに現れたのは、青白い光を宿した、輪郭の曖昧な霊体の顔だった。眼窩の奥に、暗い光が灯っている。
「……酌は、できないんですよ」
静かに言った。
酔っ払いたちの顔から、笑みが消えた。
椅子を引く音がした。
数秒後、テーブルは空になっていた。
「……ありがとうございます」
旅人が震える声で言った。
「いえ」
トオルは顔を人型に戻しながら、さらりと答えた。
「エルメシア様のこと、何かご存じですか」
「え? あ、はい……東の方に、路地裏のカフェがあって……」
最後に、雑貨店に戻った。
ベルが鳴る。老店主はまだ棚を漁っていた。さっきと同じ場所で、さっきと同じようにぶつぶつ言っている。
「どこだ……どこにしまったんだ……」
「何を探してるんですか」
トオルが声をかけた。
「薬草じゃよ。センタニアの葉っていうんだが……たしかこの棚のどこかに……」
「どんな見た目ですか?」
「青みがかった細長い葉で、束になっとる。少し光るんじゃが」
トオルはリーゼロッテと顔を見合わせた。
二人で棚を端から端まで見ていく。右の棚、左の棚、奥の棚。
「あ」
トオルが天井近くの棚を見上げた。
一番上の段、奥の方に、青白く光る葉の束が見えた。
「あそこだ」
「届かないね」
リーゼロッテが腕を組む。トオルはにやりとした。
《幽幻》を解いた。
霊体に戻った瞬間、ふわりと浮き上がる。天井近くまで上がって、棚の奥に手を伸ばした。
手がすり抜ける。
「……あ」
「……あ」
老店主が見上げていた。
「……幽霊かい」
「そうです」
「なら、指差してくれ。わしが取る」
「あそこです」
老店主が脚立を持ってきて、トオルが指差した場所から薬草を取り出した。
「あったあった! これじゃ!」
老店主は薬草を抱えて、ほっとした顔をした。
「ありがとうよ。長いこと探してたんじゃ」
「よかったです」
「エルメシア様を探しとるんじゃろ。あのお方なら、東区の路地のカフェテラスにおると思うよ。この時間はだいたいそこでお茶しとる。石畳の細い路地を入って、二つ目の角を曲がったところじゃ」
「……ありがとうございます」
店を出た。
空が夕暮れに染まり始めていた。
「東区の路地のカフェテラス」
トオルが呟いた。
「全員が同じ場所を言ってたね」
リーゼロッテが頷く。
「行くか」
「行こう」
二人は東区へ向かって歩き出した。
──つづく──
再開したけどみんなまた読んでくれるかな…
執筆最後まで続けるモチベください
ブックマークとか評価とかコメントとか待ってまーす




