出会い
再開したけどみんなまた読んでくれるかな…
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来た道を戻りながら、トオルは考えていた。
エルメシアを捕まえる。それが試練のはずだ。しかし捕まえようとすると消える。追いかけると迷う。どこを探しても見つからない。
そもそも、どうやって捕まえるんだ。
(わからん)
噴水の前まで戻ってきた。カップルはまだ言い争っていた。さっきより声が大きくなっている気がした。
トオルは噴水の縁に腰を下ろした。
腰を下ろした、というより、座った姿に変身した。実際には石には触れていない。それでも、なんとなくそういう気分だった。
雑踏が流れていく。
誰も気にしない。
(リズは今どこにいるんだ……)
その時だった。
隣に、人の気配がした。
ゆっくりと視線を向けると、噴水の縁に腰かけた金髪の少女がいた。羽のついた靴を、ぶらぶらと揺らしている。
「一人は心細いかい?」
エルメシアだった。
悪戯っぽい笑みは消えていた。ただ静かに、トオルの隣に座っていた。
「……どうせ偽物なんだろ」
トオルは前を向いたまま言った。
「まあね」
エルメシアはあっさりと認めた。
しばらく、二人とも黙っていた。雑踏の音だけが続いている。
「出会いはね、人を救うんだよ」
エルメシアが、静かに言った。
「君はリーゼロッテと出会って、二人で旅をしてきた。君は彼女の存在に救われたよね」
トオルは答えなかった。
「彼女もまた、君との出会いに救われたんだ」
風が吹いた。
噴水の水面が揺れた。
トオルは少し間を置いてから、前を向いたまま言った。
「……そうだな」
不貞腐れたような声だった。しかし否定はしなかった。
「仲良くしてやってね」
エルメシアがそう言った瞬間、隣の気配が消えた。
振り返ると、誰もいなかった。噴水の縁に、羽のついた靴の跡さえなかった。
トオルはしばらくその場に座っていた。
雑踏が流れていく。カップルがまだ言い争っている。子供が走り回っている。
そこへ。
見慣れた白金の鎧が、人波の中から現れた。
「あ」
「あ」
二人の声が、同時に重なった。
リーゼロッテがトオルの前まで来て、腰に手を当てた。
「……どこ行ってたの」
「それはこっちのセリフだ」
「迷子になってたんだよ、アタシが」
リーゼロッテが自信満々に親指を自分に向ける。
「俺もだ」
少し間があった。
それから二人して、同時に息をついた。
リーゼロッテが噴水の縁に並んで立った。
「で、どうする。エルメシアは?」
「捕まらない」
「だね」
「追いかけても無駄だった」
「うん」
トオルは腕を組んだ。
雑踏の中で、男たちが集まって何か話していた。一人が上着のポケットをごそごそと探っている。タバコを取り出した。しかし火がつかない。マッチを探しているようだった。
「ないな……」
「誰か持ってないか?」
「俺も切らしてて……」
トオルはその様子をぼんやりと眺めた。
それから、何の気なしに立ち上がった。
男たちに近づいて、指先に小さな鬼火を灯した。
「どうぞ」
男たちが目を丸くした。しかしタバコの先を差し出してきた。
鬼火が、タバコに触れた。
ぽっ、と火がついた。
「ありがとう、嬢ちゃん。魔法使いか?」
「まあ、そんなところです」
「助かったよ」
男の一人が煙を吐き出しながら、ふと言った。
「そういえば、エルメシア様を探してるんだろ? 試練の子たちだよな」
トオルは少し目を丸くした。
「……わかりますか?」
「この街じゃ有名だからな。さっき広場でハズレ引いてたろ、見てたぞ」
男は笑いながら続けた。
「エルメシア様にはな、この町のどこかにお気に入りの場所があるって聞いたぞ。地元の人間しか知らないような、奥まった場所らしいが」
トオルは振り返った。
リーゼロッテを見た。
リーゼロッテもトオルを見た。
二人とも、しばらく黙っていた。
「……ありがとうございます」
「いいってことよ」
トオルは男たちに頭を下げて、リーゼロッテのところへ戻った。
「ねえ」
「うん」
「今、火を貸したから、教えてもらえたよね」
「そうだね」
「思い返すと困ってる人たちが多かったよな・・・
雑貨店の老店主も、広場のカップルも」
「困ってたね」
「俺たち、完全に素通りしてた」
「してたね」
二人は顔を見合わせた。
「……戻るか」
「戻ろう」
トオルとリーゼロッテは、来た道を引き返し始めた。
──つづく──
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