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異世界転「生」できませんでした。-俺YOEEEけどたくましく生きて行きます。-  作者: 六六-B
踊り子の泉編

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美の英雄アフロディオン

再開したけどみんなまた読んでくれるかな…


執筆最後まで続けるモチベください


評価とかコメントとか待ってまーす



 アフロディオンの手が、トオルの霊体にそっと触れた。

温かかった。

炎のような熱さではなく、日だまりの中にいるような、柔らかい温もりだった。霊体になってから、こんな感覚を覚えたのは初めてだった。

「君たちは本当によくやった」

 アフロディオンが静かに言った。その声には、試練を課していたときの飄々とした軽さはなく、ただ真摯な響きだけがあった。

「特に君だよ、幽霊くん」

 金色の瞳が、真っ直ぐにトオルを見る。

「自分の経験を、あの場で逆さに使った。それは頭で考えてできることじゃない。自分がどういう存在か、ちゃんとわかっているからこそできることだ」

「……買いかぶりすぎだ。必死だっただけだよ」

 トオルは頭を掻こうとして、手が頭をすり抜けることを思い出した。

 アフロディオンがくすりと笑った。

「その正直さも、君らしいね」

 美の英雄は一歩引いて、トオルを眺めるように見た。品定めをするような視線ではなく、何かを確かめるような、静かな眼差しだった。

「君に、授けよう」

 アフロディオンが両手をゆっくりと広げた。泉の水面から白い光が立ち上り、その手のひらに集まっていく。

「その霊体を、思い通りの形に変える力だ。人の目には、君が人間に見える。ただし──」

「他のスキルとは併用できない、だろ?」

 トオルが先に言うと、アフロディオンは少し目を丸くしてから、また笑った。

「察しがいい。そう、君は幽霊だ。姿を変えても、本質は変わらない。何かに触れれば、すり抜ける。それだけは忘れないように」

「わかった」

 光がトオルの霊体に流れ込んでくる。

 温かく、柔らかく、泉の底から湧き出るような光だった。

 頭の中に、静かな音が響く。

 ──《幽幻》を習得しました。

 トオルは自分の手を見た。試しに力を込めてみる。

 霊体の輪郭が、ゆっくりと変わっていく。靄のような体が、人の形を模して、肌の色を持ち、髪が生え、顔ができあがっていく。

 リーゼロッテが、その顔を見て、わずかに息を呑んだ。

 トオルは気づかなかった。

「……おお。これは」

 ベリルが目を丸くして固まっている。アリアが口を両手で覆っていた。バッツが「すげえ……」と呟いた。

「どうだ? 人間に見えるか?」

「見える。普通に見える。むしろ……」

 ベリルが言いかけて、口を閉じた。

「むしろ?」

「いや、なんでもない」

 ベリルはそっぽを向いた。

 アフロディオンがトオルの隣に並び、その顔をしみじみと眺めながら言った。

「百年前にも、同じようにスキルを授けようとした子がいてね」

 トオルが振り向く。

「同じスキル?」

「いや──同じではないか」

 アフロディオンは少し考えるように首を傾けた。

「その子に授けたのは《破幻の太刀》。幻を断ち、精神への干渉を払う剣術だ。君とは、随分と違う」

「……なんで、そいつには剣術を?」

「その子の戦い方に必要だったから。そして何より──」

 アフロディオンは泉の水面に視線を落とした。

「美しい無垢な心で魔と戦おうとする子には、自分を守る力が必要だと思ったんだ。純粋すぎるのは、時として──脆さになるから」

 静かな言葉だった。

 何かを悔いるような、しかし口には出さない、そんな色が滲んでいた。

 トオルはその言葉の意味を測りかねて、しばらく黙っていた。

「……その人は、今どこにいるんだ?」

 問うと、アフロディオンは微笑んだ。

 答えは、なかった。

 ただ、その微笑みだけが返ってきた。

 リーゼロッテが、静かにトオルの隣に立った。その横顔を、トオルはちらりと見た。

 何か、言いたそうな顔をしていた。

 しかしリーゼロッテも、何も言わなかった。

「さあ」

 アフロディオンが明るい声に戻って、両手を叩いた。

「旅の続きがあるだろう。僕の泉に長居は無用だよ」

「……ああ。世話になった」

「またいつでもおいで。君たちなら歓迎するよ」

 アフロディオンは泉の中心へと戻っていく。その背中に、トオルはもう一度だけ声をかけた。

「あの──その人に、もし会うことがあったら」

 アフロディオンが振り返る。

「よくやってるって、伝えてくれ」

 一瞬の間があった。

 それからアフロディオンは、今日一番の笑みを浮かべた。

「──うん。伝えるよ」

 小島の上で、美の英雄が静かに手を振った。

 トオルたちは踊り子の泉を後にした。



 森の出口まで戻ると、ガルデの戦士たちが荷物を纏めて待っていた。

 カロンが御者台から手を振る。

「お疲れ様でした! 終わりましたね!」

「ああ。終わった」

 ベリルが大きく伸びをしながら振り返った。

「俺たちはここまでだな、トオル」

「そうだな」

 あっさりとした言葉のやり取りだった。しかしそれで十分だった。

「お前らはどっちへ行く?」

「南だ。でかい街で名を上げて、ガルデ村に錦の旗を持って帰る。それだけだ」

 ベリルは清々しい顔でそう言った。迷いが一切ない顔だった。

「アリアたちも、それでいいんだな?」

「はい。ベリルさんについていきます」

 アリアがにこりと笑う。バッツはすでに地図を広げて次の街を調べていた。

「トオルちゃん、リーゼさん。達者でね!」

 カロンが馬車の準備をしながら手を振った。

「お前らもな」

 リーゼロッテが短く言った。

「また会おうな!」

 ベリルが大きく手を振る。

「ああ。絶対にな」

 トオルも手を振り返した。

 俺たちはもう、森の前で別れは済ませている。

 これぐらいあっさりした方が、俺たちには合ってるよな。

 馬車が走り出す。土埃が舞い上がる。やがてその姿が木々の向こうに消えた。

 静かになった道に、トオルとリーゼロッテだけが残った。

 しばらく、二人とも黙っていた。

「……行くか」

 先に口を開いたのはリーゼロッテだった。

「ああ」

 トオルは答えて、歩き出した。

 次の目的地──旅人の辻へ。

 二人並んで、道を往く。

 トオルは試しに《幽幻》を解いた。人の姿が霧散して、また靄のような霊体に戻る。

 それから、もう一度だけ振り返った。

 木々の向こうに、踊り子の泉の白い光がかすかに見えた。

(無垢な心、か……)

 アフロディオンの言葉が、まだ頭の隅に残っていた。

 純粋すぎるのは、時として脆さになる。

 それがどういう意味なのか、今はまだうまく掴めなかった。

 ──つづく──


再開したけどみんなまた読んでくれるかな…


執筆最後まで続けるモチベください


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