色欲のゼル
再開したけどみんなまた読んでくれるかな…
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評価とかコメントとか待ってまーす
「なっ──」
ゼルの声が、動揺で裏返った。
分身たちの動きが、ほんの一瞬、止まった。その隙を、全員が見逃さなかった。
「ベリル!」
「おうっ!」
ベリルが地を蹴った。リーゼロッテのドロップキックで輪郭が浮かび上がった空間めがけて、炎を纏った斬撃を叩きつける。
「ヒートスラッシュ!」
轟音と共に炎が弾けた。今度は手応えがあった。幻影ではない、確かな肉体を捉えた感触。ベリルの顔に、初めて確信の色が浮かんだ。
「アリア!」
「はいっ──ホーリーライト!」
アリアの白い光が、続けざまに直撃する。今まで効かなかったその光が、今度は違った。ゼルの体が光を受けて、ぐらりと揺れた。
「くっ……!」
ゼルが初めて、苦痛の声を漏らした。
バッツがすでに動いていた。影から滑り出るように現れ、三本のナイフを指の間に挟んで構える。狙いを定める時間など一秒もなかった。感覚だけで投げた。
三本とも、命中した。
「っ──あなたたち、やるじゃない……!」
それでもゼルは嗤っていた。片膝をつきながら、口元の笑みだけは崩さない。赤黒い魔力が揺らめき、まだ分身たちが周囲に残っている。
しかし。
その笑みに、焦りが混じっていた。
トオルは静かに前に出た。
周囲の喧騒が、不思議と遠くなる感覚があった。分身たちの嗤い声も、泉の水音も、全部が遠ざかっていく。
ゼルと、トオルだけが、その空間にいるような気がした。
「終わりだ」
低く、静かに言った。
霊体の手を、ゆっくりと伸ばす。
ソウルタッチ。
魔族の、核心へ。
指先が触れた瞬間、ゼルの体が内側から光を帯びた。
「……っ──あ」
ゼルの声から、妖艶さが消えた。
残ったのは、ただの──驚きだった。
十数体いた分身が、砂が風に散るように、一体また一体と消えていく。泉の周囲を埋め尽くしていた幻影の群れが、音もなく、跡形もなく、消えていく。
最後に残ったゼル本体が、ゆっくりと仰向けに倒れていった。
泉の岸に背中をつけ、空を見上げながら、それでも口元だけは笑っていた。
「……まさか、本当に見破るなんてね」
かすれた声だった。
「透明化を見抜いたのは……初めてよ」
「俺も使えるからな」
トオルは静かに答えた。
「……なるほど。そういうことね」
ゼルは小さく笑った。今度は挑発でも妖艶さでもない、どこか純粋な、負けを認めた笑いだった。
「悔しいけど──きれいな負け方だったわ」
その言葉を最後に、ゼルの体が光の粒子となって、泉の水面へと溶けていった。
静寂が、戻ってきた。
白く淡い光だけが、泉の水面から静かに立ち上っている。
トオルはしばらく、その光を眺めていた。
誰も、すぐには喋らなかった。
ベリルが剣を鞘に収める音がした。アリアが深く息を吐く声がした。バッツが肩の力を抜いて座り込む気配がした。リーゼロッテが、静かにトオルの隣に立った。
やがて。
泉の中心から、水面を歩くように、アフロディオンがこちらへ向かってくる足音がした。
トオルが振り返ると、美の英雄は穏やかな笑みを浮かべてそこに立っていた。
そして、静かに両手を広げた。
「──合格だよ」
その声は、戦いの前とは打って変わって、柔らかく、温かかった。
「偽物に惑わされず、真実に辿り着いた。それが僕の試練の、唯一の答えだ」
アフロディオンがゆっくりとトオルに近づいてくる。
その手が、トオルの霊体にそっと触れた。
──つづく──
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