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異世界転「生」できませんでした。-俺YOEEEけどたくましく生きて行きます。-  作者: 六六-B
踊り子の泉編

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見えない敵

 ──真実は、目に見えるものの中にあるとは限らない。

 アフロディオンの言葉が、頭の中で反響し続けていた。

 目に見えないもの。

 見えない──。

(まさか)

 トオルは迫ってくる魔力弾を転がって避けながら、思考を回した。

 整理しろ。落ち着いて、整理しろ。

 観察スキルが通らない。あのスキルはこれまで、ゴブリンにも、レイスにも、リッチにも、魔族のゴールにさえ通った。それが今、十数体全員に対して完全に空振りしている。

 ホーリーライトが当たっても消えない。

 ナイフが刺さっても手応えがない。

 ベリルのヒートスラッシュも、当たった瞬間に一体が消えてまた別の一体が現れた。

 全部、同じ答えに繋がっていないか。

(本体が、最初からこの中にいないとしたら)

 観察スキルが通らないのは、見るべき対象がそこにないから。

 ホーリーライトが効かないのは、実体がないから。

 ナイフに手応えがないのは、刺すべき肉体がないから。

 全部が幻影で、本物は──

(最初から、見えないところにいる)

 確信が、腹の底から湧き上がってきた。

 透明化だ。

 ゼルの本体は透明化して、この場のどこかに潜んでいる。分身を囮にして攻撃しながら、自分は姿を隠したまま高みの見物を決め込んでいる。

 だとすれば、全てに説明がつく。

 問題は──どこにいるかだ。

 トオルは自分のスキルを思い返した。

 透明化。かつて囁きの森で、人間の傭兵たちを翻弄したあの夜。暗闇の中で姿を消して、連中の背後に回り込んで、ダークボールを叩き込んだ。

 あのとき、自分はどう動いていたか。

 透明になると、気配が消える。足音が消える。魔力の波紋が消える。ほとんど完全に、存在を隠せる。

 しかし。

 完全には、消えない瞬間があった。

 攻撃する直前だ。

 魔力を練り上げる瞬間、どれだけ抑えようとしても、わずかに気配が滲み出る。意識を集中していなければ気づかない程度の、本当にかすかな揺らぎ。

 でも──あの夜、自分はその揺らぎに気づかれなかった。相手が気づかなかっただけで、揺らぎそのものは確かにあったはずだ。

(意識を向ければ、掴める)

 トオルは目を閉じた。

 周囲の喧騒を、全部遮断する。

 ゼルの分身たちの嗤い声。四方から降り注ぐ魔力弾の轟音。ベリルの怒声。アリアの詠唱。リーゼロッテの鎧が鳴る音。バッツの素早い足音。

 全部、ノイズだ。

 全部、捨てる。

 その奥の奥。

 泉の空気の中に、静かに意識を沈めていく。

 ──ある。

 わずかな、魔力の揺らぎ。

 分身たちが放つ派手な魔力とはまるで質の違う、息を潜めるように小さな気配。しかし確かにそこにある。生きていて、動いていて、次の攻撃を今まさに準備しようとしている。

 泉の右岸。およそ三メートルの空間。

 そこに、本物がいる。

(捕まえた)

 トオルは目を開けた。

 同時に、全身に力が満ちるのを感じた。

「リーゼロッテ」

 静かに、しかしはっきりと呼んだ。

「わかった」

 リーゼロッテの返事は、それだけだった。言葉の意味を全部理解した上での、短い返事だった。

 トオルは息を吸い込んだ。

「全員──右の泉岸、三メートル! 今だ!」

 その瞬間、全員が動いた。

 リーゼロッテが真っ先に跳んだ。

 首なし騎士の巨体が、音もなく宙を舞う。透明な虚空、トオルが指定した一点めがけて、全体重を乗せたドロップキックを叩き込む。

 ドゴッ。

 鈍く、しかし確かな手応えの音がした。

「なっ──」

 ゼルの声が、初めて動揺した。

 分身たちの動きが、ほんの一瞬、止まった。

 その輪郭が、揺れ始めていた。

 ──つづく──


1日2本ペースで進めたいなぁ〜〜

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