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異世界転「生」できませんでした。-俺YOEEEけどたくましく生きて行きます。-  作者: 六六-B
囁きの森編

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囁く巨木のグリゴロ

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挿絵(By みてみん)


──何かが、近くにいる。


森の空気が変わった。冷たく、重く、ひどく静かで、耳鳴りのように「無音」が響いていた。


「……これは」


トオルは木々の合間でふわりと浮かび、進むのを止めた。


この気配、魔物とも人間とも違う。だが確かに“何か”がいる。しかも──とてつもなく大きな存在が。


森を進んでいくと、霧が少し晴れた。視界の奥に、巨木が現れる。


「……でかっ……!」


それはただの木ではなかった。いや、木であることに違いはないのだが──


あまりにも太く、あまりにも根深く、そして何より、あまりにも“顔”をしていた。


(……ただのトレントじゃない。でかすぎる……もしかして、森の主か?)


幹に浮かぶ顔のような凹凸、風が吹けば枝葉がざわめき、何かが語りかけてくるようだった。


──そのとき。


《…………キミは……魔物か、それとも……迷える魂か……》


脳の奥に、直接響くような声が届いた。


「う……うわっ!? 脳内ボイス……!?」


思わず後退しそうになったが、火の玉に足はない。ぐらりと揺れて浮いたまま、トオルはその場にとどまる。


見上げるその巨木は、まさに森そのもの。存在しているだけで、周囲を支配しているような気配がある。


《……囁く巨木……この森を守るもの……わたしの名は……グリゴロ……》


その声音は柔らかく、それでいて重々しく、木の年輪のように幾重にも積もった“時”を感じさせた。


「お前が……この森の長老か」


《……久しい……魔物と話すのは……いや……キミは……ただの魔物ではない……なつかしい……気配……》


(なつかしい? 俺が?)


ふと、胸の奥にざわりと何かがよぎった。だが、それが何かは分からない。


「今の俺は“しつこいトオル”。ただの火の玉だよ」


グリゴロの枝がわずかに揺れ、葉がさやさやと囁く。


《……その名、大切に……名を持つ者は……まっすぐだ》


(この森の樹……なんか、いいやつかもしれない)


トオルは少しだけ距離を詰めた。グリゴロは敵意を持っていない。それは確かだった。


《……キミは……なぜ、この森に?》


「通りすがりだよ。だけど──なんとなく、この森……人の匂いがする。気のせいじゃなきゃいいけど」


《……“静かの源泉”……それを、奪おうとする者が……まもなく、この森へ……》


「静かの源泉?」


《……森の最奥……静寂と魔力の泉……それが……我らの命の根……》


森の命の根──それを奪おうとしているのが、人間なのか。


「……だったら」


トオルはすうっと目を細めた。目はないけど。


「共闘ってのも……ありかもしれないな」


《……よい……ならば……願いがある……》


その言葉とともに、グリゴロの周囲の木々から、フォレストウルフが一匹、また一匹と現れた。


(……なるほど、“森の軍勢”ってことか)


《……トオルよ……森の声を……ともに守ってはくれぬか》


「……承った、長老」


火の玉と巨木。まるで世界の端と端みたいな存在が、共に戦う。


森の静けさの中で、新たな戦いの準備が、静かに始まりつつあった──。

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