VSニンゲン
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ぬるりと空気が揺れた。
木々の間を進んでいた俺は、不意に背筋をなでるような視線を感じ、すっと木陰に退く。
足音は──一つ。だが、それが先遣隊なのか、はぐれ者か、あるいは他に何人いるのかは分からない。
(人間か……?)
木の隙間から見えるのは、一人の男。軽装の鎧に身を包み、剣を提げている。周囲を警戒しながら森を進んでいたが──
「……火の玉?」
こちらに気づいたようだった。剣を抜き、こちらに向かってくる。
(……やるしかないか)
ふよ、と浮上しながら、俺はゆっくりと身を潜める。
──人間を、殺す。
その事実が、今さらのようにのしかかってくる。
いや、俺はもう人間じゃない。魔物だ。
それに、この男が何者かは分からないが──剣を抜いて近づいてくる時点で、俺にとっては“敵”だ。
「……来るなよ」
呟くと同時に、《影移動》で男の背後へと滑り込む。
《祟り》、発動。
「ッ……!?」
突然、霊的な痛みに襲われた男が、苦悶の声を漏らす。
(効いてる……!)
さらに、左右へ《ダークボール》を1つずつ展開。逃げ道を塞ぐように。
男は素早く距離を取り、剣を振りかざして構え直す。
「物理が通らねえってことか……だったら」
彼の剣が、赤く光を帯びる。
《スキル:ヒートスラッシュ》
剣が燃え上がり、轟音とともに振り下ろされる──!
(まずい!)
避けきれず、俺の左手に炎が直撃した。
──バチン!
「ぐぅッ……!」
左手が吹き飛ぶ。視界が赤く染まり、HPがゴッソリ削られた。
――――――――――
【HP:6/20】
――――――――――
(炎属性付き……物理じゃなく、魔法ダメージだ!)
痛みと熱に耐えつつ、再び《影移動》。男の背後へと回り込むと、再度《祟り》を放つ。
「ぐっ……またか……!」
男が苦しげによろめいたその瞬間、俺は足元にダークボールを展開──。
ズガァン!
爆ぜる闇の衝撃波が男の足をすくい、彼は剣ごと地面に倒れた。
もがきながら、男は呟いた。
「……まさか、火の玉風情に……!」
やがて彼の意識は遠のき、そのまま動かなくなった。
*
──終わった。
人間との初めての戦闘。
怖くなかったわけじゃない。
でも、俺は……「今の俺」は、魔物として生きている。
襲ってくる相手には、やり返すしかない。
(もし、無関係の人間だったら……?)
ちらりと、そんな考えが脳裏をよぎる。だが──戦いは、待ってくれない。
静かにステータスを確認する。
――――――――――
【レベル:4 → 5】
【HP:20】
【MP:54】
【新スキル獲得:《透明化》】
――――――――――
「……これは」
新たなスキル、《透明化》。
これまでの戦い方に、さらに選択肢が加わった。
そして、戦闘中に仕掛けた影からの奇襲と霊的干渉──それこそが、このスキル獲得の“きっかけ”だったのかもしれない。
(これが、人間との戦い……)
俺は左手が徐々に再生していくのを確認しつつ、森の奥へと向かって浮かび始めた。
新たな出会いと、より強い敵を求めて。
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