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異世界転「生」できませんでした。-俺YOEEEけどたくましく生きて行きます。-  作者: 六六-B
狂乱の酒宴編

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狂乱の酒宴

いつも読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク・応援・感想、全部作者の栄養になっています。よろしければぽちっとしていただけると泣いて喜びます。それではお楽しみください!


最初に気づいたのは、音だった。

ズン、ズン、ズン。

地面の底から響いてくるような低い振動。森の木々が、微かに揺れている。

「……何か聞こえるな」

「うん」

リーゼロッテが前を向いたまま答えた。

三人で、足を止めずに進む。

ズン、ズン、ズン。

次第に、別の音が混じり始めた。歓声。笑い声。何かが弾ける音。楽器の音。それらが折り重なって、遠くからでも波のように押し寄せてくる。

木々の合間から、明かりが漏れ始めた。

焚き火ではない。もっと広い、もっと賑やかな光だ。オレンジ色が、木の幹を照らしている。

「あっちだ」

三人で、明かりに向かって進んだ。

───────────────────

森が、唐突に途切れた。

一歩踏み出した瞬間、視界が広がった。

人だった。

人、人、人、魔物、人、魔物、魔物、人——どこまでも続いている。タラリアと同じくらいの広さの空間に、ありとあらゆる者たちがひしめき合っていた。

屋台が並んでいる。串焼きを頬張りながら笑う人間の隣で、ゴブリンが酒の樽に顔を突っ込んでいる。芸人が火を吹いていて、その周りで子供と魔物が一緒になって歓声を上げている。楽器を演奏する者、踊り狂う者、地面に寝転がって空を見上げている者。

コボルトが人間の肩を組んで歌っていた。

オークが屋台の主人と値段交渉していた。

「……なんだこれは」

俺は思わず呟いた。

「百年続いてるって、こういうことか」

リーゼロッテが静かに言った。

ニッグが「ニ……グ」と言った。

───────────────────

喧騒の中心に、それはあった。

巨大な切り株だった。ステージのように、周囲より一段高くなっている。その根本が、一際盛り上がっていて、周りの群衆が特に激しく騒いでいた。

「きっとあそこにディオネイアがいるはず」

リーゼロッテが言った。

「行くか」

三人で、人混みの中に踏み込んだ。

───────────────────

最初に気づいたのは、空気だった。

甘くて重い匂い。酒と果物が混ざったような、どこか心地いい匂いが、空気ごと全身に染み込んでくる。

(……ふわっとする)

気のせいかと思ったが、もう一歩踏み込むと、またふわっとした。

気のせいじゃなかった。

「リズ、なんか頭が軽くないか」

「え? そう? でもなんか……楽しくない? なんかこう……ふふ……」

(あ、もう来てる)

俺も人のことは言えない。足元がふわふわする。周りの歓声が、なんだか心地よく聞こえてくる。まあいいか、という気分が、じわじわと広がってくる。

(まあいいか、じゃない)

「リズ、しっかりしろ、目的を……」

「してるしてる! ねえトオル、あの屋台、なんか美味しそうじゃない?」

「食えないだろ俺たち」

「そうだった! あははは!」

(会話が噛み合ってない)

群衆の波が、ざぶんと押し寄せてきた。踊り狂う者たちが、こちらの存在など気にも留めずにぶつかってくる。右から、左から、後ろから。

「ちょ、待て——」

「わあ! なにこれ! 楽しい!!」

「楽しくない!!」

ざぶん、ざぶん、と人波が押し寄せる。リーゼロッテが揉みくちゃにされながら、楽しそうに鎧を揺らしている。

「リズ! リズ!!」

呼んでも返事がない。

鎧の背中が、踊り狂う群衆の中に飲み込まれていく。

「リーゼロッテ!!」

消えた。

俺は人波の中で、一人になった。

(何が起きてるんだ!?!?)

頭がふわふわする。周りが賑やかすぎて、何も考えられない。リズはどこだ。ニッグはどこだ。切り株のステージはどっちだ。

何もかもがごちゃごちゃで、何もかもがどうでもいいような気がしてくる。

(どうでもよくない! どうでもよくないぞ!!)

分かってはいるのに、足が止まる。

その時。

肩を、ポンと叩かれた。

振り返った。

ニッグが、いた。

いつものぎしぎしとした動きが、消えていた。背筋がしゃんと伸びている。濁った眼が、澄んでいる。そして——爽やかに、微笑んでいた。

「トオル嬢」

聞いたことのない声だった。

低くて、落ち着いていて、どこか懐かしいような声だった。

「ようやく、自己紹介ができる」

ニッグが、胸に手を当てた。

「私の名はザカリアス・ネメシウス・インノケンティウス」

一拍。

「さる王国の、聖騎士団長だった男だ」


──つづく──

最後まで読んでいただきありがとうございました。

感想やコメントをいただけると、続きを書く力になります。ブックマーク・応援もとても励みになっていますので、よろしければぜひ。また次回お会いしましょう!

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