気配
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棍棒が、顔面に迫っていた。
《霊体化》。
風切り音だけが耳を掠めて、棍棒は俺の頭をすり抜けた。コボルトが勢い余って前のめりになる。その後頭部に、ダークボールを叩き込んだ。
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【スキル発動:《ダークボール(Lv7)》】
【MP:117 → 114】
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どさり、と倒れる。
《実体化》。着地した足の裏に、苔の湿った感触がある。
「まだいるぞ!」
リーゼロッテの声が飛んだ。
茂みが、左右から同時に割れた。四体。いや、五体。錆びた短剣、骨で作ったような棍棒、中には槍を持った個体まで混じっている。バラバラに吠えながら、こちらへ向かってくる。
(統率が取れてない……でも、数がある)
リーゼロッテが正面から二体を迎え撃つ。鎧の拳がコボルトの胴体に炸裂して、一体が木の幹に叩きつけられた。もう一体が短剣を振るう——リーゼロッテがそれを腕で受けて、そのまま地面に叩き落とす。
ニッグが右の二体へ向かった。剣を抜く。ぎしぎしとした普段の動きが、刃が鞘を離れた瞬間に消えた。流れるような一閃が、二体をまとめて薙いだ。
残りの一体が、ニッグの背後へ回り込もうとしていた。
(死角だ)
俺は右手を構えた。狙いを定める。コボルトは速い。動いている相手の急所を——
(喉)
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【スキル発動:《マジックアロー》】
【MP:114 → 108】
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青白い矢が指先から飛んだ。ダークボールとは比べ物にならない速さだった。矢はニッグの肩口をすり抜けて、コボルトの喉を正確に貫いた。
コボルトが声も出さずに倒れる。
ニッグが振り返った。地面のコボルトを見て、それから俺を見た。
「……ナイスタイミングだろ」
ニッグは何も言わなかった。ただ前を向いて、剣を構え直した。
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【執念深きトオル】
Lv:20
HP:60/60
MP:108/120
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静寂が戻った。
木々の合間に、獣の死臭が漂う。俺は周囲を見渡しながら、息を整えた。
「……これで何体目だ」
「十四」
リーゼロッテが短く答えた。鎧の表面に引っかき傷がついている。
「にしても、おかしくないか」
「何が」
「コボルトって、もっとこそこそ逃げるだろ。こんなに正面から突っ込んでくるか?」
リーゼロッテが鎧の肩をわずかに動かした。
「……言われてみれば」
俺は倒れたコボルトを見た。
死に際まで、吠えていた。こちらを警戒しているというより——何かから必死に逃げようとしているような、そんな目をしていた気がした。
(追い立てられてる?)
「この森、何かいるな」
「いるね」
リーゼロッテが静かに言った。
「コボルトが逃げ出すくらいの何かが、奥にいる」
ニッグが、森の奥を見た。濁った眼が、じっと闇の方向を向いている。
風が吹いた。木々が揺れる。葉の擦れる音に混じって、遠くから何かの気配がする。獣の唸り声ではない。もっと、重い。
俺は《鑑定》を走らせた。
何も引っかからない。遠すぎる。
(……でも、確かにいる)
「急ごう」
リーゼロッテが先頭に立った。
「狂乱の酒宴は、この森を抜けた先か?」
「たぶんね」
「たぶん、って」
「地図だとそうなってる。でも、この森が普通の森かどうかは……」
リーゼロッテが足を止めずに続けた。
「着いてみないと分からない」
俺は木々を見上げた。
空が見えない。昼間なのに、光が届かない。苔の張りついた幹が、どこまでも続いている。
(嫌な森だ)
「ニッグ、腕は大丈夫か」
ニッグが両腕をぱたぱたと動かして確認する。
「ニ……グ」
「そうか」
三人で、また歩き出した。
足元の苔が、ぐちゃりと音を立てる。
遠くで、また何かが動いた気がした。
──つづく──
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