神託
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光が、走った。
天球全体が、低い音とともに震えた。レールが軋む。太陽の光がじわりと滲んで——月のシンボルに飲み込まれていく。
リングだけが残った。
太陽の縁だけが金色に光って、その中心を月が覆っている。湖畔全体が、昼でも夜でもない奇妙な薄明かりに包まれた。
俺は空中で、その光景を見下ろしていた。
(……できた)
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湖畔に降り立つ。
木陰に、気配があった。
「あら——久しぶりじゃない」
アポーニアが立っていた。昼の光の中にいる時と同じ笑顔で、しかしどこか戸惑ったように天球を見上げている。
対岸の岩の上に、もう一つの気配。
アルタスが立っていた。弓矢を手に、こちらを静かに見ている。その視線がアポーニアに移る。
沈黙。
「…………」
「…………」
二人が、向き合った。
「なんで昼なのよ」
「なんで夜なのに出てる」
同時に言った。
それから互いを見て。
「お前が先に言うな」
「アンタこそ」
「俺は言ってない」
「私も言ってない」
「言った」
「言ってない」
俺は少し後退した。
(……なるほど、双子だ)
リーゼロッテが、鎧の肩を揺らした。たぶん笑っていた。
ニッグが「ニ……グ」と言った。
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しばらくして、アポーニアがこちらに向き直った。
「——まあ、いいか。あなたたちが動かしたんでしょ、シンボル」
「そうだ」
「スカルナイトも倒して?」
「倒した」
アポーニアがにっこりと笑う。
「合格ね」
アルタスが対岸から静かに言った。
「……認める」
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アルタスが岸まで歩いてきた。
弓矢を構える。矢先が青白く光り始める。
「受け取れ」
光の矢が、俺の胸に向かって飛んだ。
当たる——と思った瞬間、衝撃ではなく、光が染み込んでくる感覚があった。
頭の中に、音が響く。
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【スキル獲得:《マジックアロー》】
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「遠距離から、魔力の矢を放つ。狙いを外さない」
アルタスが短く言った。それだけだった。
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アポーニアが前に出た。
微笑みながら言う。
「じゃあ、私が君に授けるスキルは——」
その瞬間。
アポーニアの額に、光とともに紋章が浮かび上がった。
アポーニアが、押し黙った。
「……ど、どうした?」
思わず問いかける。
一瞬だった。
アポーニアの目が、悲しげな色をした気がした。
次の瞬間には、もう太陽のように明るく笑っていた。
「《セイクリッドフレア》。全身から聖なる光を放つスキルよ」
その言葉を聞いた瞬間。
リーゼロッテが動いた。
風のように。音もなく。
アポーニアの首根っこを、鎧の手が掴んだ。
「お前……ッ!」
低い声だった。今まで聞いたことのない声だった。
「自分が何を言ってるか、分かってるのか……!!」
アポーニアが苦しそうに顔を歪める。
(な——)
俺は固まった。
こんなに怒ったリーゼロッテは、初めてだった。
スッ、と。
一本の矢が、二人の間に割り込んだ。
アルタスが弓を引いていた。矢先が青白く光っている。
「……やめろ、リーゼロッテ」
静かな声だった。
「思う所はある……が、このバカ姉の能力は知っているだろう……」
リーゼロッテは動かなかった。
鎧の指が、きつく、きつく、アポーニアの首根っこを掴んでいる。
しばらくの沈黙。
やがて——リーゼロッテの手が、ゆっくりと離れた。
アポーニアが床に崩れ落ちる。ゲホッ、ケホッとむせながら、それでも笑おうとしている。
アルタスが、静かに矢を収めた。
アポーニアが立ち上がった。
服の乱れを直しながら、静かに口を開く。
「そう……私の能力は、神託」
一拍。
「信じて。この先——必要になるの」
リーゼロッテは、わなわなと震えていた。
鎧が、細かく軋んでいる。
それから。
踵を返した。
「行こう、トオル。ニッグ」
冷たい声だった。
「コイツらがこの先の話をしないのは分かってる」
「お、おい、待てよリズ——!」
リーゼロッテはもう歩き出していた。ズンズンと、振り返らずに。
俺とニッグが続く。
(リズはどうしたってんだ……)
階段の手前で、一度だけ振り返った。
アポーニアとアルタスが、並んでこちらを見ていた。
二人とも——寂しそうな顔をしていた。
俺は何か言おうとして、やめた。
前を向いて、歩いた。
──つづく──
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