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性転換したばかりの女体なのに……ドレスを脱ぐの?!

篝火(かがりび)が照らし出す検問所。「次だ! 止まれ!」


兵士たちの荒々しい怒号が飛ぶ。


ナディールは気品ある仕草でレイリアの背を押し、付き添いの使用人を装って進み出た。

「随分と物々しい検問ですこと」


「宰相閣下のご命令だ。皇子が女装して潜伏しているという情報がある……おい、そこの娘。奥の天幕へ入れ。身体検査だ」


有無を言わさぬ手つきで、レイリアは粗末な天幕へと押し込まれた。


                 ◇


待っていたのは、凄みを漂わせた中年の女検分役だった。爬虫類のような瞳が、レイリアを品定めするように舐め回す。


「ずいぶん上等な服だね、脱ぎな。骨格と胸、下半身を調べる」


「……!?」

カッと顔に血が上る。男の誇りが拒絶を叫んだが、ここで暴れれば命はない。

レイリアは震える指で、着せられたばかりの象牙色のドレスの紐を解いた。


重みのある絹が足元へ滑り落ち、篝火の影が揺れる天幕の内に、透き通るような白い裸身が晒される。

華奢な鎖骨、丸みを帯びた腰のくびれ、そして膨らんだ無防備な胸。

皇族が他人に肌を見せることなどない。ましてや、女になっばかりの身体。


女検分役の無骨で冷たい掌が、躊躇なくレイリアの肌に触れた。


(くっ……! やめろ……触るな……!)




やがて、検分役は興味を失ったように息を吐き、手を離した。


「……合格だよ。骨格の細さも、皮膚の吸い付くような柔らかさも、間違いなく生粋の女だ。胸も詰め物じゃない。男の骨組みなんざ微塵もないね」


「そうでしょう? 私の大事な”お嬢様”ですの」


天幕の入り口で待ち構えていたナディールが素早く入り込み、レイリアにドレスを着せ直す。


「おい、メイド。まさか、あんたが”女装の皇子”じゃあるまいな。一応、調べさせてもらうよ」


「仕方ありませんわね」


ナディールは息を整え、胸をなで下ろした。

魔法は完璧だったのだ。


これで、関所を越えられる――そう確信した、まさにその瞬間だった。



天幕布が、乱暴に跳ね上げられた。


「おい検分役! 例の皇子は見つかったか――!?」

踏み込んできたのは、関所を預かる野蛮そうな騎士だった。

怒鳴り散らそうとした男は、着替えを終えたばかりのレイリアと視線が交錯した途端、言葉を失って立ち尽くした。


乱れた黄金の長髪の間から覗く、潤んだ緑色の大きな瞳。

屈辱に赤く染まった頬と、象牙色のドレスの胸元から覗く無防備な胸元。

そこには、荒くれた男たちの欲望を一瞬で狂わせるに足る、あまりにも鮮烈で無垢な美少女が立っていた。



「うっ、なんと美しい娘だ」

男の濁った瞳に、ねっとりとした粘つく光が灯る。

「商人の娘にしては……おいおい、嘘だろ。こんな街道に、これほどの極上の上玉が転がっていようとはな」


「な、何を……」

レイリアは本能的な恐怖に背筋を凍らせ、後ずさった。だが男は下品な笑みを浮かべ、土足で近寄る


「おい。この娘は俺の屋敷で引き取ってやる。関所を通る特別通行税の代わりだ。俺が、可愛がってやるよ」


「なんと……滅相もございません!」


「黙れ! 関所の掟は俺が決めるんだよ!」


太い剛腕が伸び、レイリアの細い手首を万力のような力でつかみ上げた。


「ちっ……! 離せ!」

だが、あまりにも頼りなく弱々しい抵抗でしかなかった。

筋肉が落とされた少女の細腕では、大男の腕力に対して微動だにさせることができない。

(嘘だろ……!? 力が……力が入らない……!?)



男の太い指先が、レイリアの柔らかい手首に無慈悲に食い込む。

「ハハッ、威勢がいいな! 泣きそうな顔もたまらん。おい、大人しく来い!」


「離せと言っている! 無礼者、僕を誰だと……」


『皇子だ』と叫びそうになった言葉を、レイリアは間一髪で飲み込んだ。


引き寄せられた拍子に、男の硬い革鎧に自身の柔らかな胸が押し潰される。

鼻を突く酒と脂の饐えた悪臭。全身を駆け巡る圧倒的な嫌悪感と恐怖。


男の心を持ったまま、女の肉体の絶対的な無力さに組み伏せられる屈辱に、レイリアの視界が歪んだ。



その時だった。


「ピピピィッ――!」


闇を切り裂くような鋭い鳴き声とともに、灰色の小鳥――アギルが弾丸のように飛来した。


小さな嘴で男の鼻の頭を激しく突き、バタバタと羽を羽ばたかせて視界をふさぐ。


「うわっ、痛え!? なんだこのムクドリめ!」


「今よ、レイリア!」

男の拘束が緩んだ一瞬の隙を見逃さず、ナディールがレイリアの腕を引っ張った。


二人は混乱する関所の兵たちの間をすり抜け、夜霧の立ち込める出口へ向かって必死に駆け出す。

アギルも男の顔面を突き、レイリアの肩へと舞い戻ってきた。


(逃げ切る……! ここさえ抜ければ……!)


レイリアはふわりとしたスカートの裾をたくし上げ、懸命に石畳を蹴った。


だが、隣を走るナディールの足取りが急激に乱れ、彼女はその場に膝をついてしまう。

その額には油汗が浮かび、顔色は死人のように青ざめていた。


「ナディ……? どうしたんだ、どこか痛むのか」


「申し訳ありません。禁忌の魔導に……全魔力を使いすぎ……」


「そんな……!?」



背後からは、鼻から血を流した番頭の、怒狂した咆哮が轟いた。


「野郎ども、あの女たちを逃がすな! 手足をへし折ってでも捕まえろ!」

十数人の衛兵たちが一斉に抜刀し、包囲網を敷いて迫り来る。


「ええぃ、ここを通せ!」

レイリアは退路を塞ぐ兵士の一人へ向け、かつて騎士たちから叩き込まれた体術

――相手の重心を崩す鋭い肘打ちを放った。

男としての経験と直感が導き出した、寸分の狂いもない完璧な軌道。


――しかし。


ごす、と鈍い音が響いたのはレイリアの側だった。


柔らかく華奢な肘は、兵士の分厚い胸当てに虚しく弾かれ、衝撃でレイリアの小さな足腰が泳ぐ。


「ハッ、なんだその甘い突きは! 遊んでるのか、お嬢ちゃん!」



兵士は馬鹿にした笑みを浮かべるや、レイリアの細い両手首を易々と片手で束ね上げ、地面へと強引に組み伏せた。


「きゃっ……! 離せ……、離せと言っている!」冷たい石畳に押し付けられ、象牙色のドレスが乱れる。

(嘘だ、鎧の隙間を狙ったというのに!? 攻撃が何ひとつ通らない!)


鍛え上げた筋力も、慣れ親しんだ重心も、剣の間合いも失っている今のレイリアには、重厚な武具の壁と男たちの圧倒的な暴力に抗えなかった。


「観念しな、可憐な娘さん。隊長にたっぷりと可愛がってもらうんだな!」





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