影の皇子、ユリウス 覚醒 ②
兄レナースを死に追いやった叔父ライオスを討ち取り、この荒れ果てた帝国に再び秩序を取り戻すこと。そして、兄が愛した民を、これ以上の血から救うこと。
だが――
そのためには、ユリウス自身が「冷酷な皇帝の影」にならねばならなかった。
処刑場を後にし、教会派の厳重な護衛に囲まれながら、ユリウスは馬車へ向けて歩き出す。
沿道に群がる民衆から、声が上がる。
「ユリウス様! 白百合の皇子様!」
「どうか、どうか我らをお救いください!」
絶望に満ちた瞳で自分を見上げる民たちの姿。
ユリウスは足を止めず、ごくわずかに優しげな笑みを口元に浮かべて見せた。
それは、数年かけて完璧に作り上げた「理想の皇子」の貌だった。
その時。
カツン、と静寂を切り裂くような金属音が、雨の音をかき消した。
馬車の影、死角となっていた路地裏から、数条の黒い影が飛び出してきた。
ただの盗賊や暴徒ではない。全身を泥でくすんだ漆黒のプレートアーマーで包み、手には帝国軍の幅広剣を構えている。
「ライオスの刺客――魔導騎兵か!」
護衛の騎士が叫ぶ間もなく、黒い刃が疾走した。
鮮血が雨を染める。
首を跳ね飛ばされた騎士が倒れ、枢機卿が悲鳴を上げて石畳に転がった。
「ユリウスの首を獲れ! ライオス陛下に捧げるのだ!」
刺客のリーダー格と思われる大男が、血濡れた大剣を構え、一直線にユリウスへ向かって突き進んでくる。圧倒的な殺気。
教会の軟弱なお飾りの騎士たちでは、束になってかかっても止められない。
「ユリウス様、お逃げください!」
教会の聖職者たちが乱動し、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
ユリウスは――逃げなかった。
淡い灰青色の瞳に、沈着な冷気だけが宿る。
細身で華奢な体に重すぎる白銀の長衣をなびかせ、ユリウスは静かに右手を伸ばした。
倒れた護衛の騎士の手から、一振りの剣を引き抜く。
かつて天才と謳われた兄レナースから教わった、剣の握り方。指の配置、重心のかけ方。
血に染み付いた記憶が、瞬時にユリウスの身体を動かした。
「失せなさい。この国を蝕む虫ケラども」
ユリウスは冷徹な声を放ち、美しく繊細な顔立ちに、氷のような殺意を宿した。
しかし、漆黒の鎧兵たちは怯まない。
リーダー格の大男の大剣が、ユリウスの首筋を狙って振り下ろされる――。
つづく




