帝都の後宮へ ドレスで潜入ミッション 〜美形スパイはドレスが踏めない〜
「よし、メイクは完璧だな」
手鏡を覗き込み、暗躍のスパイ・クロードは、満足げに微笑んだ。
鏡に映るのは、紫の瞳を輝かせた流麗な金髪の"絶世の美女"。
「ウィッグを着けるとパッと変わるな。ふふ、我ながら美しすぎだな。よし、次はドレスか!」
後宮の衣裳部屋に忍び込んだクロードは、忍び着から豪華絢爛なフリルドレスに着替える。
胸元にはパットを詰め、ウエストをぎゅっと絞り、パニエでスカートをふんわり膨らませる。
(うわぁ……! すごい、ドレスって着るだけでこんなにテンション上がるのものなのか)
憧れのリボンとレースに包まれ、思わずクルッと一回転。
ふんわり広がる裾。甘い香水。爪には桃色のネイル。
(……最高だ。女装、最高すぎる)
「それにしても豪華というより悪趣味、これ後宮というより、娼館だよな」
女装のクロードは手近の部屋から、確認しながら進む。
「よし、目的は先帝の妃・リリィ様の捜索! いざ――うん、なんだ?」
歩き出した瞬間、ドレスの長い裾をヒールで思いっきり踏んづけた。
「きゃっ……と、とと!?」
派手な音を立てて倒れ込むクロード。
(し、身長が高すぎてドレスの丈がギリギリなんだよな……猫背になっちまう!?)
ドサッ!!
「……誰だ、そこで怪しい動きをしているのは!」
「ちっ!?」
大きな音を聞きつけた後宮の宦官たちが、ドカドカと押し寄せてきた!
「な、なんだこの大柄で異常にスタイルの良い美人は!?こんな側室の女いたか」
「待て、歩き方がギコチなさすぎる! スカートの裾を自分で踏んでいるぞ!」
「あ、たた……。ちょっと待ってください、これ歩くの難しすぎませんか!?」
地声で叫んでしまい、宦官たちがハッとする。
「男……!? 変装した侵入者だ! 捕まえろー!」
「わー!?男ってあんたらも男じゃん。 待って待って、ドレス破れるから引っ張らないでぇぇ!」
あっけなく取り押さえられるクロード。
美貌は完璧だったのに、ドレスの着こなしスキルがゼロだった……!
「よし、吐け! お前は何者だ! さては、奪還軍の手先だな。目的はリリィ様か!?」
「あ、はい……リリィ様って無事なんですか……?」
縄で縛られながら上目遣いで尋ねると、若い宦官が急に顔を赤くした。
「む、無事に決まっているだろう! リリィ様はすでに別の塔へお移りになり、穏やかに過ごされている! お前のような怪しい奴が近づける場所にはおらん!」
「えっ、別の塔に!? 命に別条はないんですね!?」
「当たり前だ! ……って、なぜ教えさせるんだ!」
(やった……! リリィ様は生きている! 目的達成!)
情報は手に入った。あとは脱出するだけ!
「さて、縄を解いて逃げ……」
「待て! この美しいドレス姿を縄で縛るなど……なんだか罪悪感が……」
「そうだな、いくら男とはいえ顔が可憐すぎる……少し縄を緩めてやろう」
うっとりした顔で縄を緩める宦官たち。
(……えっ、萌えてる? 俺の女装姿に萌えてるの!?)
「ありがとうみんな! ドレス姿を褒めてくれて!」
キュッとウインクを一発。
「ぐはっ……!?尊い」
兵士たちが鼻を押さえて悶絶した隙に、クロードは縄をスルリと解いた!
「それじゃ、お邪魔しましたーっ!」
「あ、待て! 転ぶぞ!」
「大丈夫! 脱ぎ捨てればいいんだから!」
クロードはペチコートとパニエをバサッと脱ぎ捨て、ミニ丈のペチパンツ一丁(上はドレスのビスチェ)に変身!
足元は高すぎるヒールを脱ぎ捨て、裸足で廊下をダッシュ!
「脚が軽ーい! スイスイ走れるーっ!」
「な、なんという美しい生脚……!」
「追いかけたいが、目が眩んで追えん……!」
背後で倒れていく宦官たちを置き去りにし、クロードは後宮の壁を軽やかに飛び越えたのだった。
月明かりの下、後宮の外へ脱出した。
「ふぅ……! リリィ様が無事だと分かったし、大収穫だな!」
ビスチェとミニパンツ姿のまま、夜風を浴びて笑う。
ふと自分の手元を見ると、可愛らしいピンクのネイルと、フリルのついた袖口のレース。
「んふふ……やっぱりドレスって可愛いなぁ。今度はもっと裾を踏まない練習をしてから着ようか」
「ミッション完了……なんてな!」
そして新たな「女装ドレスの着こなし特訓」という密かな野望を胸に、美形スパイは夜の帝都へと消えていくのだった。




