湖畔の攻防4 一騎打ち
森を突き破り、平原へとなだれ込んできた『ライオンハート』。
突破はしたものの、その隊列は縦に伸びきり、満身創痍だった。
「全軍、突撃!」
丘の上から、レイリアの透き通る号令が響く。
わずか三十余騎の精鋭を率い、白馬ミルキーウェイが駆け下りる!
「迎え撃て! 槍衾を作れ!」
だがその時、戦場に異様な轟音が割り込んだ。
「——止まれ! 止まってくれグラニぃぃぇぇ!」
明後日の方向から、爆走する黒馬が一匹。シャルクだ。
完全に正気を失ったグラニの暴走突撃が、迎撃線を作ろうとしていた敵の側腹へ直撃した!
ドォン!
「ぐわっ!?」
「馬が……うわあああ!」
連鎖的に弾き飛ばされる重騎兵たち。誰も予測できなかった奇跡的な戦場の乱数!
「……感謝するわ、シャルク!」
生じた亀裂を、レイリアは見逃さなかった。
白馬が風を切り、敵陣の中央へ。
「レイリアぁぁぁ!ここで会ったが百年目……だぜ」
「レオンハルト!」
真紅の巨馬と白馬が交錯する。
レオンハルトの黄金の長剣が、豪風を伴って振り下ろされた!
ガギィィィン!!
激しい火花。
重く、鋭く、苛烈なレオンハルトの太刀筋。
しかし、レイリアはそれを力で受け止めず、刃を斜めに傾けて流麗に受け流す。
(力に頼る太刀筋には、必ず隙が生まれる!)
足元の泥濘が、レオンハルトの巨馬の蹄をほんの数ミリ滑らせた。
「終わりです、レオンハルト!奥義、リフレクト・フェニックス!」
閃光のようなカウンターの刺突!
相手の攻撃力が強ければ強いほど、威力は倍返しになる。
パキィン!
精密に撃ち抜かれたのは、漆黒の胸甲を留めていた金属パーツ。
留め具を砕かれ、全体重をかけていたレオンハルトのバランスが崩れる!
「ぐ……!?」
愛馬から転げ落ち、泥土に叩きつけられるレオンハルト。
跳ね起きようとしたその喉元に、冷え冷えとした刃が突きつけられた。
「動かないで。勝敗は決しましたわ」
静寂が平原を支配する。
泥にまみれたレオンハルトは、喉元の刃を見つめ、深く息を吐いた。
「……見事だ、レイリア」
彼は剣を手放し、堂々と首筋を晒した。
「俺の完敗だ。……首を刎ねるがいい。敗軍の将として受け入れよう」
そして、一切の恐怖を見せず、力強く言い放った。
「だが……部下たちと、愛馬たちには手を出さないでくれ。罪があるなら俺ひとりだ。彼らを見逃してやってくれ」
部下と愛馬のために自らの命を差し出す姿。
そこに"無能の皇子"の面影は微塵もなかった。
レイリアは静かに目を細めると、剣をゆっくりと鞘に収めた。
カチリ。




