湖畔の攻防1 騎馬軍団の来襲
朝靄の湖畔。
肩に舞い降りた一羽のホシムクドリ・アギルから、焦燥に満ちた念話が届く。
『レイリア、来たよ! 帝国の騎馬軍団だ! 東の街道を埋め尽くして向かってくる!』
「帝国の……レオンハルトの部隊なの?」
『間違いなさそうだよ。あの黄金の軍旗……『ライオンハート』だ! 森をなぎ倒す勢いで進軍してる!』
レイリアは白銀の胸甲に手を当て、冷たく息を吐いた。
「……大地も、民も、傷つけさせてなるものですか」
遠くから地鳴りが響く。
怯え、逃げ惑う領民たちの悲鳴。
(この人たちを……絶対に死なせるわけにはいかない)
レイリアは足早に桟橋へ向かった。そこには、船団を率いる親友ミレイユがいた。
「作戦は中止よ。今すぐ船団を退げなさい、ミレイユ!」
「……は? 土壇場に来て何言ってんだよ、レイリア!」
作業用のロープを投げ捨て、ミレイユが詰め寄ってくる。
「『挟み撃ち』の作戦だろ!? あんた達が陸で引きつけて、あたしたちが湖から水門を開けて泥濘に叩き込む! 油と火矢で射ち抜くって、さっき決めたじゃないか!」
「状況が変わったのよ。敵の先鋒は『ライオンハート』……帝国屈指の重装騎兵部隊よ。あんな怪物たちを浅瀬に引き込めば、一息に踏みつぶされるわ」
「だからって——!」
「それに……私たちの戦いに、あなたたちを巻き込むわけにはいかない」
「……は?」
ミレイユの顔から血の気が引き、次の瞬間、激しい怒りが爆発した。
「巻き込めない……!? 武器を持たない領民は引っ込んでろってか!? アタシたちが何のために今日まで訓練してきたと思ってんだよ!」
「戦場で命を懸けるのは、騎士の務めよ!」
「綺麗事を並べるんじゃないよ!」
ドオン!とミレイユが怒りに任せて桟橋を蹴りつける。
「アタシたちの生まれ育った湖を、家と家族を守りたいから立ち上がったんだ! それなのに……守られるだけの置物みたいに沖へ逃げろだなんて……!」
ミレイユの声が揺れる。
「アタシたちは、あんたの何なんだよ!? ただの哀れな領民かい!? ……友達じゃなかったのかよ、レイリア!」
胸を刺す親友の叫び。
レイリアは鉄手袋の両手で、ミレイユの肩を激しく掴み返した。
「友達だからだ!!」
静まり返る湖畔。
「友達だから……あなたを死なせるわけにいかないのよ! 昔、嵐の日に分け合って食べたリンゴの味を忘れたことなんて一度もない! あなたも、この民も、私にとって何物にも代えがたい宝なの! 泥に塗れて死ぬかもしれない戦場に、どうして送り出せるというの!?」
「レイリア……」
「頼むから……私に、あなたを失う絶望を背負わせないで」
その切迫した静寂を、絶望的な報せが引き裂いた。
「報告! 敵騎兵団、想定の倍の速度で防風林を突破! すでに第一集落まで肉薄しています!」
早すぎる。民を船に逃がす猶予すらない。
「くそっ、レイリア、あたしたちも——」
「下がって、ミレイユ!」
レイリアは愛馬ミルキーウェイの背へと飛び乗った。
「全騎士、抜剣! 我が背に続け——!」
「待ちなさいよ、レイリアぁぁぁ!」
悲痛な叫びを背に受けながら、レイリアは白馬を爆発的に加速させ、平地に布陣を始めた。




