↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
40/64

禁断の罠、漆黒の猟犬 後編

水攻めを破られた『モンブラン山城』。

重々しい鉄の城門が、嫌な音を立てて開いた。


姿を現したのは、モンブラン軍の陣頭に立つのは若いが切れ者である騎士団長ティガス。

鋭い眼光を放つその青年は、銀の甲冑を纏い、長槍を手に討伐軍を静かに見下ろしていた。


「――ここまで辿り着くとはな、“赤狼”ジョアン! だが、我が主モンブラン伯を討たせはせん!」


「待ちなさい!」


凛とした叫びとともに躍り出たのは、レイリアだった。

シャルクの馬から飛び降り、疾風のごとき身こなしでティガスの眼前に舞い降りる。


「レーク侯爵家が令嬢、レイリア・フォン・レーク! ティガス殿、我が剣とお手合わせ願います!」


「レーク家の小娘だと……!」


ティガスの長槍が、目にも留まらぬ速さで突き出された。

隙のない、洗練された一撃。


だが、レイリアの碧の瞳は、その軌道を完全に見切っていた。


「舞え、わが剣(つるぎ)――『雷光・輪舞(ロンド・オブ・プラズマ)』!」


レイリアは最小限の足さばきで槍尖をかわすと、まるで踊るように華麗にバスタードソードを操る。


――キーーン!


鋭い金属音が響く。

残像を伴う一閃がティガスの長槍をすり抜け、その首筋――喉元わずか数ミリのところでピタリと止まっていた。


「……見事だ、レークの姫」


ティガスは息を呑み、静かに槍を引いた。


「これほどの腕を持つ者が、なぜ帝国の謀反人ライオスに加担する……!」


「勘違いなさらないで!」


レイリアはすっと剣を引き、気高く言い放つ。


「ジョアン大将軍もわたくしたちも、ライオスの手駒などではありません! 真実と大義のためにここへ来たのです!」


その言葉に応じるように、後ろから歩み出たジョアンが重々しく頷いた。


「ティガス。俺たちが伯爵を討ちに来たと思うか? ライオスは俺たちを戦わせ、共倒れにさせるつもりだったのだ。……伯爵は無事なのか?」


ティガスは目を見開き、愕然と表情を歪めた。


「やはり、そう……だったのか。主君モンブラン伯は、城内の玉座の間に囚われている。皇帝が放った近衛暗殺部隊と、冷酷な『黒鋼の処刑者』に占拠されているのだ! 我らを戦わせるための人質として……!」



「シャルク、ガルド! 城外の敵を抑え、負傷者の手当てを! レーク家の陣を整えなさい!」

レイリアが矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「承知いたしました!」ガルドが頼もしく頷き、シャルクも「任せてください」と鋭い顔つきで槍を構え直した。


「レイリア殿、レヴン、ディムース! 俺と城内へ潜入する!」


「了解です!」


          ◇


ティガスの案内で、静まり返った廊下を駆け抜ける。

絨毯には血痕が残り、皇帝直属の刺客たちがうごめいていた。


だが、レヴンとディムースの無音の射撃、そしてレイリアの電光石火の突きが、一瞬で道を切り拓いていく。


――そして。


一番奥にある重厚な扉を叩き破ったジョアンの目に、非情な光景が飛び込んできた。


玉座の間の真ん中。

拘束され、血を流している老将――モンブラン伯爵。

その背後に佇むのは、全身を黒漆の魔導甲冑で包んだ異形の男だった。


皇帝ライオス直属の冷徹なる暗殺執行官――『黒鋼の処刑者』。

不気味な静寂を纏い、巨大な両刃斧を手に伯爵の背後に立っている。


「……来たか、ジョアン・ルブラルプス」


兜の奥から、歪んだ冷酷な声が響く。


「谷底で死ぬはずだった貴様らがここまで来るとはな。……だが無駄だ。モンブラン伯から『先帝暗殺の密約書』は回収した。これでライオス陛下の即位に疑義を挟む者は消える」


血を吐きながら、モンブラン伯爵が叫んだ。


「ジョアン……騙されるな! ライオスは先帝を自らの手で殺し、その罪を隣国へなすりつけようとしている! 戦争を引き起こすためにな……!」


「喋りすぎだ、老いぼれ」


『黒鋼の処刑者』が巨斧を高く掲げた。

伯爵の首を跳ね飛ばさんとする死の一撃――!


「させるかぁぁぁ!!」


――ズドォォォン!!


爆風のような踏み込みで割り込んだのは、ジョアンだった。

赤狼の毛皮をなびかせ、全身の闘気を乗せた大剣が、処刑者の巨斧を真っ正面から受け止める!


バチバチと火花が飛び散り、石造りの床に亀裂が走った。


「ぐっ……なんという重圧だ!」


人間離れした魔導甲冑の怪力に対し、ジョアンは己の肉体と覚悟だけで押し返していた。


「大将軍! 援護いたします!」


レイリアが風のように踏み込んだ。

閃光の突きが、甲冑の関節――魔力を循環させている首元のすき間を正確に突き抜く!


バシィィィン!


「なんだと……!? この甲冑の僅かな隙間を射抜くだと!?」


処刑者の声に初めて動揺が混じる。


「今だ、ディムース!」


レヴンの叫びと同時に、太い鉄矢が処刑者の膝裏を正確に撃ち抜いた。

ガクリと体勢を崩す暗殺官。


「ライオスに伝えろ……! 部下たちの血と、帝国の誇りを踏みにじった罪、その命で償わせるとな!」


ジョアンの瞳が、赤狼のごとき紅蓮に燃え上がる。

大剣を深く引き込み、全身の質量と魂を乗せた閃光の一撃――!


「『狼牙・断鋼斬(ファングス・スラッシュ)』――――!!」


赤き闘気を纏った大剣が、真っ向から空間を切り裂く。

激しい破壊音とともに、漆黒の魔導甲冑が胸から斜めに両断された。


――ズドォォォン!


黒煙を吹き出しながら、暗殺官が膝から崩れ落ちる。


「ふぅ……ふぅ……」


ジョアンは大剣を床に突き立て、荒い息を吐いた。

汗と返り血を拭いながら顔を上げると、救出されたモンブラン伯爵と、静かに剣を納めるレイリアの姿があった。


「お見事でしたね、大将軍」

レイリアが微笑む。


「……礼を言う。皆の助けがあったからこそだ」


ジョアンは武人らしい不器用な笑みを浮かべ、しっかりと首を縦に振った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。