黄金の剣よ、わが手に還れ
黄金の閃光は、単なる光ではなかった。
剣の魔力回路がアルティスから吸い上げた気力を極限まで圧縮し、衝撃波として解き放ったのだ。
ガキィィンッ!
絶叫のような金属音が響く。
部隊長が振り下ろした戦鎚の分銅が、飴細工のようにひしゃげ、ひび割れた。
「な、なんだと!?」「退け~!!」
「逃がすかよ、吠えろ~我が黄金の光」
咆哮と共に、二度目の脈動。
魔力の奔流が戦鎚を粉砕し、分厚い銀の胸当てを紙切れのように叩き割る。
巨漢の身体が宙を舞い、向こうの石壁に激突して動かなくなった。
――勝敗は決した。
青い錬金炎を背に立つアルティスの鬼神のごとき姿に、残された漆黒の騎士たちは完全に戦意を喪失。武器を捨て、ひしゃげた扉の向こうへ雪崩を打って逃げ出した。
静寂が戻る。
熱を持った刃から、黄金の粒子が星のように瞬き、虚空へ溶けていく。
「見事な立ち回りだ。"投資先"としては申し分ないね」
足音もなく、背後に気配が降り立った。
振り返るより早く、細い指がアルティスの頬の煤を無遠慮に拭う。
「……おい」
「ひどいものだ。焦げた服、むき出しの殺意」
初対面を無視した至近距離。
赤紫の瞳を細めるクロードの美貌が、残火の照り返しの中で妖しく際立つ。
アルティスは剣の柄でクロードの胸元を押し返した。
「あんたの毒のせいだろ。毒が回りきらないうちに斬ってやる……それとも今度は、俺から剣を奪ってみるか?」
「冗談はよせ。とんだ野良犬だ、正面から"狂犬"と噛み合う趣味はないんでね」
肩をすくめたクロードは、小さなガラス瓶を投げてきた。
「解毒剤だ。ここで死なれちゃ、俺の帳簿が丸損になる」
ひんやりとした液体を喉に流し込むと、痺れが嘘のように引いていく。
元・帝国直属の暗殺者でありながら、帝国を深く憎むクロード。
その狂信的な反骨心を満たすには、アルティスの強引で傲慢な立ち振る舞いこそが、何より痛快で魅力的だった。
「帝国の犬どもを丸焼きにするとはねぇ。黄金の狂犬、嫌いじゃないさ」
「褒め言葉として受け取っておく。……出るぞ、すぐにやつらの増援が来る」
「ご案内しよう。帝都の地下はこの私の庭だ」
クロードの先導で、二人は隠し通路へ足を踏み入れた。
◇
迷路のような地下水路を抜け、長い螺旋階段を上り詰める。
重い鉄格子を押し上げた先は、もと居た裏路地だった。
澄んだ冷気が肺を満たす。
ビロード色の夜空には幾つかの星。
だが東の地平線からは、朝焼けの光が帝都の尖塔群を黄金色に縁取り始めていた。
「これで俺たちは立派な共犯者だ。皇帝の懸賞金、きっちり私のギルドで運用させてもらうぜ?」
「好きにしろ。だが、まずは反乱軍を立ち上げる資金と情報が先だ。影の会計頭の手腕、見せてもら
『黄金の剣』を鞘に納める。チャキリと硬い音が響いた。
手の中にある確かな重み。これこそが、果てしない戦いへの最高の切符だ。
「承知したよ、アルティス。まずは契約成立の祝いといこうじゃないか」
クロードは昇りはじめた太陽を目を細めて見つめ、楽しげに笑った。
「密輸したばかりの最高級の茶葉がある。帝国崩壊を企てながら飲む紅茶の味は、きっと格別だぜ?」
アルティスは小さく鼻で笑い、朝露に濡れた石畳を力強く踏み出した。
◇
「話はだいたいのみ込めた。しかし、本気か」
クロードが冷静な表情を消すのは珍しい。
アルティスとレイリアをじっと眺めていた。
「クロード、早速で悪いが手を貸してほしい。よろしく頼む」
レイリアは、クロードの手を取った。
「あなたが何者かまだ信じちゃいないが、この話が本当かどうか、やってみればわかる。
城の内部の様子は五年前とは違います。この私が案内しましょう」
「じゃあ、行くか。ライオスの首をもらいに」
アルティスが隠れ家の扉を勢いよく開く。
月夜に照らされた皇城が、目前にそびえていた。




