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日没近し、黄金の剣が質流れ。急げ、アルティス

死臭の漂う熱風。

アルティスは泥濘へ背中から飛び込んだ。


直後、真上で「ガチィッ!」と恐ろしい牙が噛み合わさる。

耳元を掠める風圧。

巨獣の爪が、先ほどまで彼がいた空間をえぐり取っていた。



「ピィーッ! ピピピピピ!」


上空から弾丸のごとく急降下したのは、相棒の小鳥アギルだ。

魔熊の喉笛——分厚い毛皮の右側にある"円形の古傷"を、鋭い嘴で突き立てる。


「そこか……レイリア! 喉笛の右、古い傷跡だ! そこなら通る!」


アルティスは足元の泥を両手で跳ね上げた。

視界を奪われ、狂乱した魔熊が二本足で立ち上がる。


「こっちだ、毛玉野郎!」


あえて後ずさり、なぎ倒された倒木の裏へ滑り込む。

声と泥の感触だけに反応した魔熊が、巨体を投げ出してきた。


ドスーーン!!


太い倒木がへし折れ、足元をすくわれた魔熊がバランスを崩す。

無防備な喉笛が、天に向かって晒(かも)された。


「そこだぁ——行け!」


アルティスの声が響く。

泥まみれのドレスをひるがえし、レイリアが宙へ高く跳躍していた。


その右手には細長剣(バスタードソード)。

残る全魔力を、鋭い切っ先の一点のみに凝縮させている。

青白く発光する極小の熱量。


「灰燼と化せえぇぇ、怪物!!」


青い彗星となった細剣が、寸分の狂いもなく魔熊の古傷へ突き立てられた。

刃は肉を溶かしながら深々と食い込む。


ズシュゥゥゥ~!!


圧縮された極限の炎が体内へ直接注ぎ込まれ、内側から命を焼き尽くす。

巨獣の口と鼻から黒煙が噴き出し、そのまま沈黙した。


「……ふぅ。お姫様、見事な一撃だ。ペチャンコにならずに済んだぜ」


「誰がお姫様よ。武器もないのに囮になるなんて馬鹿ね」


泥と煤で汚れたレイリアが、ふっと口角を上げる。

その瞳には、かつての皇子の覇気が宿っていた。


「ピッピ!」

「おうアギル、一番手柄だ。後で上等な木の実を奢るよ」



空を見上げると、光は毒々しい赤から深い紫へ変わり始めていた。


「ヤバいな。急ごう、日没まであと少しだ」


過酷な死線を乗り越えた二人の間には、確かな信頼が結ばれていた。


森を抜けた瞬間、視界が急激に開ける。


崖の下に広がる巨大な盆地。

堅牢な城壁、無数の尖塔、中央にそびえ立つ壮麗な城。

沈みゆく夕陽が、その巨大な都市全体を黄金色に染め上げていた。


ステラルプス帝国の帝都・セントラル。

かつてレイリアが君臨するはずだった場所であり、取り戻すべき目的地。


アルティスは不敵に笑い、一歩を踏み出した。


「さあ、俺の剣を取り返しに行こう。そして、あんたの帝国を奪い返すための、最初の一歩だ」


挿絵(By みてみん)



誤字脱字報告、ありがとうこざいます。

アルティスティス→アルティス、訂正いたしました。

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