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帝都へ、街道の冒険

「ああもう、冗談じゃねえ! この鉄くずは、三回振っただけで刃こぼれしやがるんだ!」


濁った金属音が、鬱蒼とした針葉樹林に響き渡る。

アルティスは悪態をつきながら、ひん曲がった長剣の腹で、頭上から振り下ろされた野盗の斧を強引に弾き飛ばした。

「だから、あれを取り戻しに行くのでしょ、アルティス」

「付き合わせて、すまないな……姫さま」



帝都へ旅立って、三日。

アルティスとレイリアは、街道に現れる野盗たちと遭遇した。


「ずいぶん、治安も乱れたものね」


手首に伝わる鈍い痺れ。

柄に巻かれた安物の革はすでに手汗と泥で湿って滑りやすく、剣の重心は控えめに言って最悪だった。質屋の親父が「おまけ」で寄越したなまくら刀では、革鎧ごと肉を断つことなど到底不可能だ。泥濘に足を取られそうになりながら、アルティスは体捌きだけで野盗の追撃を躱し、空いた隙に相手の膝裏へ強烈な蹴りを叩き込む。


「文句を言っている暇があるなら、手を動かしなさい。アルティス」


凛とした声と共に、真紅の軌跡が薄暗い森を奔った。

血飛沫を上げて倒れ伏す野盗たちの中心で、レイリアはドレスの裾を優雅に翻していた。

上等なシルクの布地はすでに跳ね上げた泥と返り血で汚れきっているが、彼女の纏う気高さまでは汚せていない。細身の刀身に炎を這わせた魔法剣が、薄闇の中でチリチリと熱を放ち、周囲の湿った空気を焦がしている。


侯爵令嬢の豪奢なドレスなど、この泥濘の森では足枷でしかないはずだ。


しかし、彼女の踏み込みに一切のブレはない。華奢な令嬢の皮を被っていながら、その一撃の重さと無駄のない洗練は歴戦の騎士を思わせる。



「そのお姫様みたいななりでよく言うぜ、レイリア様よ!」

アルティスは軽口を叩きながら、背後に迫っていた別の野盗の顔面に、なまくら刀の柄頭を叩き込んだ。鼻骨の砕ける鈍い音。


「ピィッ! ピリリリッ!」


頭上の枝葉を縫うように、一羽の小鳥が舞い降りてきた。

青灰色の羽を持つアギルだ。レイリアの肩に止まると、その小さな嘴で主の耳たぶを小突いて急かすように鳴く。


「……なんだと? もう西の尾根に日が掛かってる?」


レイリアたちは空を仰いだ。幾重にも重なる針葉樹の隙間から、毒々しいほどに赤い夕陽が差し込み始めている。

思わず舌打ちが漏れた。


「おいおい、冗談じゃないぜ。日没までに帝都の質屋に滑り込まねえと、俺の『黄金の剣』が他の客に買われちまう!」


遊び人として自堕落な日々を過ごす中で手放してしまった、己の半身。

レイリアという規格外の主の「帝国奪還」に付き合うには、こんな鉄くずの代用品ではなく、かつて自分と共に死線を潜り抜けたあの剣がどうしても必要だった。


急がなければ。日没まで、残された時間は少ない。


「なら、こんな小悪党の相手で足踏みしている場合ではないわね」


レイリアが冷たく言い放ち、剣先から放たれた炎の波が、前方から迫っていた三人の野盗をまとめて薙ぎ払った。


熱風がアルティスの前髪を激しく揺らす。


だが、異変はそこで起きた。

普通なら、これだけの絶望的な戦力差を見せつけられれば、野盗の群れは蜘蛛の子を散らすように逃げ出すはずだ。しかし、残った数名の男たちは、血走った目でアルティスたちを取り囲んだまま、一歩も退こうとしない。


いや、違う。

アルティスは目を細めた。野盗たちの視線は、自分やレイリアに向けられていない。


彼らはしきりに背後の暗がり——森のさらに奥深く——を気にしながら、ガチガチと歯を鳴らしているのだ。


泥に塗れた男の一人が、半狂乱になって叫んだ。


「ど、どいてくれ! そこを塞がれたら、俺たちが、俺たちが食われちまう!!」


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