湖水地方 ふたりの女の出会い
「ちょっと! そこ、ロープの結び方が甘いよ! 次の波で解けたら、荷物が全部沈んじゃうじゃない!」
声のした方に視線を向けると、一隻の小舟の上で、見事に舵棒を操る若い女の姿があった。
レイリアと同年代だろうか。日焼けした健康的な肌に、動きやすそうな麻のシャツと短いパンツ。
水飛沫を浴びて濡れた髪をざっくりと括り、手際よく太いロープを杭に括り付けている。
その無駄のない洗練された動きに、レイリアは思わず目を奪われた。
剣の軌道を見るのとは違う、生活に根ざした者だけが持つしなやかな躍動感。
ふと、女が顔を上げた。
レイリアの神秘的な碧色の瞳と、女の健康的なコバルトブルーの瞳が、真正面からぶつかり合う。
「……あんた、見ない顔だね」
女は船縁に足をかけると、猫のような身軽さで桟橋へと飛び移ってきた。鼻の頭に小さな傷をつくった彼女は、レイリアの服装を上から下へとじっくり検分する。
「城の上等なお嬢様が、こんな魚臭い桟橋に何の用? 綺麗なドレスが泥だらけになるわよ」
「用なんてない。私はただ、湖の風を吸いに来ただけよ。それと……あなたの船さばきが、あまりに見事だったから見とれていただけ」
レイリアが胸を張って答えると、少女は一瞬驚いたように目を丸くし、それから破顔した。豪快で、太陽のように眩しい笑顔だった。
「ふうん、口だけのお嬢様かと思ったら、見る目はあるじゃない。あたしはミリィ。この港の船乗り頭の娘さ」
「私はレイリア。よろしく、ミレイユ」
差し出されたミレイユの手は、つぶれた豆と小さな擦り傷だらけで、驚くほど硬く、そして温たかかった。握手を交わした瞬間、互いの掌を通じて言葉以上の親近感が伝わってくる。
「レイリア、か。いい名前だね。よし、気に入った! お城の退屈さに嫌気がさして逃げてきたんだろ?」
「まあね。その舟に乗せてよ。沖からこの領内の地形を見てみたいんだ」
「ダメよ。お嬢様の観光に付き合ってられるか。お屋敷に帰って、お菓子でも食べてな」




