サロンの毒蛇女たちと『令嬢』デビューした元皇子 中編
ギィ……とサロンの扉が開く。
濃厚な薔薇の香りと甲高い女たちの声が押し寄せてきた。
「あら、あれが噂の拾われ令嬢?」
「おかわいそうに。立ち振る舞いも怪しいんじゃなくて?」
刺さる嘲笑の中、レイリアは滑らかに足を進めた。
背筋を伸ばし、裾を揺らさず歩く。血の出るような淑女レッスンの成果だ。
「ロゼリア公爵夫人。お招きにあずかり、至上の光栄にございます」
完璧な角度のお辞儀。
中央のソファーに座る公爵夫人が、興味深そうに目を細めた。
「顔をおあげなさい、レイリアさん。……噂通り、可愛らしいお人形さんね」
夫人は手元のテーブルを示した。
「さあ、お掛けなさい。ちょうどお茶が入ったところですの」
通されたのは末席。
しかも目の前のカップに注がれたのは、香りのしない冷めた薄茶だった。
(二番出し……いや、三番出しの出涸らししか。格下扱いというわけか)
「あら、お気に召さなかったかしら?」
隣に座る子爵令嬢のマリエルが、扇子で口元を隠してクスクスと笑う。
「田舎のお屋敷では、もっと濃厚な薬草茶でもお召し上がりになっていたの?」
(わかりやすい嫌がらせだな。だが――)
レイリアは可憐な笑みを絶やさず、細い指先でそっとカップを持ち上げた。
一口含み、上目遣いでごくわずかに首を傾げてみせる。
「いいえ、マリエル様。素晴らしいお心遣いに感動しておりましたの」
「……はい?」
「このお茶、西方の『アルテの白葉』でしょう? 一番抽出では苦味が強すぎるため、あえて低温でじっくり抽出するのが最高の嗜み……王都の流行に流されず、このような伝統的な淹れ方をご存じとは、さすが公爵夫人ですわ」
――完全にハッタリである。
だが、知識のない貴族に確かめようもない。
公爵夫人は一瞬驚き、すぐに満足げに微笑んだ。
「あら……ええ、そうなのよ! よくお分かりになりましたわね、レイリアさん。あなた、とても教養がおありですのね」
嫌がらせを「高度なおもてなし」へとすり替えられたマリエルが、屈辱で顔を真っ赤にする。
サロンの空気が一変し、全員が「ただの田舎娘ではない」と息をのんだ。
(よし、第一段階クリア――)
手ごたえを感じたその時、朗々とした低い声が響いた。
(えっ……この声。まっ、まさか奴がなぜ、こんなサロンへ?)




