さよなら、わが師匠。ボクは『女の子』で生きていく!!
「う……む。怪我はないか、お嬢さん」
十数人の兵士が一瞬で散った。血のついた鞘を納めた強面の剣聖・ラスティーソード伯爵。
彼は急にそわそわと視線を泳がせ始める。
目の前には、へたり込む金髪の美少女――レイリア。
かつて自分を地獄の稽古で鍛え上げたあの厳格な師匠が、女体化してしまった自分の可憐さに耳まで赤くして狼狽えているのだ。
(まさか、師匠が僕に萌えてる……そんなはずは)
「は、はい……助けていただき、ありがとうございます……♡」
男の心を必死に隠し、咄嗟に上目遣いで可憐な高音を出す。
過保護すぎる師匠に身を護られながら、一同は朝靄の寄る交易都市へと辿り着いた。
◇
「それがしはここで失礼する。……我が主君、レナース皇子殿下を探さねばならん」
「皇子様は亡くなられたと耳にいたしましたが……」
試すような問いに、伯爵の頬の傷が震えた。
「破言だ! あのお方はワシが手塩にかけて鍛えた男、生きておられる! 必ずやお救い出し、この二刀で帝国を奪還してみせる!」
武骨な忠臣の、偽りのない咆哮。胸がぎゅっと締め付けられるレイリア。
(師匠……! 僕はここにいる! あなたの目の前に……!)
だが、言えるはずがない。
魔法で「美少女」に変えられた姿など見せられないし、これ以上巻き込めない。
(でも、このままだと、この人は、僕という幻影を追って死ぬまで戦ってしまう)
(……僕が、終わらせなきゃ!)
カツン!
レイリアはスカートに隠していた短剣を抜き、地を滑るように肉薄した。
金髪とドレスの裾が朝光に躍動する。華奢な少女の体から繰り出されたのは
――上段からの斜め払いと見せかけ、咽喉へ突き刺す極秘伝の変幻突。
――『鳳閃剣 プラズマフェニックス』。
かつて伯爵が、愛弟子であるレナース皇子「ただ一人」に叩き込んだ二刀流の奥義!
「むっ――これは!?」
ギリギリで刃を弾き返した伯爵だが、その場で凍りついた。
見た目はどこからどう見ても、可憐な街の少女。
だが今の踏み込み、癖、呼吸……すべてが『あのお方』そのものだ。
「ま……まさか貴方様は……!? その技、しかし……そんな……!?」
混乱と歓喜で声を震わせ、ガチガチの手を伸ばしてくる師匠。
レイリアの瞳からぽろぽろと涙が溢れ出した。
落ちた剣には目もくれず、金髪を揺らして毅然と顔を上げる。
姿も声も可憐な少女。
けれどその瞳には、帝国の正統なる後継者の決意が宿っていた。
「……今までありがとう、伯爵」
ぽろぽろと涙を零しながら、最高に可憐な笑みを浮かべる。
「でも――レナースなら、もう死んだわ。だから……もう探さないで」
「レナース様あぁぁーー!?」
悲痛な叫びを背に、くるりとドレスの裾を翻す。
男としての誇りを胸に、美少女の姿で生き抜く――そう覚悟を決めたのだ。




