↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アーリーアクセス版】タイクーンの刀狩り~天下人の記憶を持つ少年は、世界の武器を狩り集める~  作者: Kissaki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/16

第四話「デュアルワンネス」③

「待てって!」


 ロディが追いついたとき、イスカは吹き抜けになった広間の中央まで進んでいた。


 崩れた天井から夕方の光が差し込み、床には折れた柱が何本も転がっている。


「イスカ、その剣を置け」


 イスカが振り返った。


「嫌だ」


 返事が早い。


「お前なあ。さっき自分で怪我してるのも忘れてただろ」


「忘れてない」


「じゃあ、その肩はなんだよ」


 布を巻くことすら忘れていた傷を指すと、イスカは一瞬だけ黙った。


 背後からドムが歩いてくる。


「貸せ」


「え?」


「《ノクス》だ」


 ドムはそのまま手を伸ばした。


 イスカが半歩退き、《ノクス》を構える。


「ドム!」


「話して手放す顔ではない」


「だからって取り上げる奴があるか!」


 ロディの抗議を無視して、ドムが間合いへ入った。


 イスカが先に動いた。


 黒い刃を突き出す。ドムは身体をずらしてかわし、そのままイスカの手首へ手を伸ばした。


 だが、掴まれるより早く刃が跳ね上がり、柄頭がドムの掌を掠める。


 ドムの手が止まった。


 イスカはその隙に距離を取ったが、追撃はしなかった。


 二人とも剣を下ろさない。


「……やれる」


 イスカが呟いた。


「何がだ」


「今の動き、見えた」


 口元が上がる。


「おい、イスカ」


 ロディの声を聞いているのかも怪しい。


 ドムが腰の刀を抜いた。


 その瞬間、イスカの笑みが深くなった。


「来い」


「馬鹿!」


 金属音が広間に響いた。


 二度、三度と刃がぶつかる。


 速さはドムが上だった。イスカが振るより先に刀が入り、《ノクス》の軌道を潰していく。


 イスカの腕が押し戻された。


 それでも下がらない。


 ドムが肩口へ刀を振る。イスカは避けるどころか、さらに一歩踏み込んだ。


「なっ――」


 刃がイスカの服を裂く。


 同時に《ノクス》がドムの脇腹へ向かう。


 ドムは舌打ちして身を捻った。


「こいつ……!」


 ロディにも分かった。


 まともにやればドムが勝つ。


 なのに、やりにくい。


 イスカは自分が斬られることを勘定に入れていない。ドムが殺すつもりなら終わっている場面でも、構わず身体ごと入ってくる。


「ドム、右!」


 ロディが《煌日》を抜いて駆け込んだ。


 イスカがこちらを見る。


 一瞬、驚いた顔をした。


 それからドムとロディを順に見て、息を弾ませながら笑った。


「二人か」


 黒い剣を握り直す。


「……いいな」


「よくねえよ!」


 ロディが斬り込む。


 《煌日》を受けた《ノクス》が鈍い音を立て、衝撃がロディの手首まで返ってきた。横からドムの刀が入り、イスカが身体を沈める。


 二人で挟めば終わる。


 そう思った直後、イスカがロディへ体当たりしてきた。


「ぐっ!」


 押された先には折れた柱がある。


 足を取られたロディへ、イスカが剣を振り上げた。


 ドムが割って入り、《ノクス》を弾く。


「邪魔だ!」


「助けたんだろうが!」


「ならば邪魔になるな!」


「腹立つな、お前!」


 言い返しながら、ロディは立ち上がった。


 またイスカが来る。ドムが正面から受けた。


 今度はロディが飛び込まない。一歩引いて、二人を見る。


 ドムが押す。イスカがずらす。逃げた先へ回ろうとすると、こちらを牽制してくる。


 剣だけ見ていても駄目だ。


 ロディは広間へ視線を走らせた。


 崩れた壁。柱。奥へ続く回廊。


 その先に、頭の欠けた石像が見えた。


 左右に細い柱が二本。


 どこかで見た。


「あ」


 さっきの壁画だ。


 二振りの剣が再び同じ人物の手にあった、あの絵。その背後にも、頭の欠けた像と二本の柱が描かれていた。


 最初から欠けていたのか、絵の時代ですでに壊れていたのかは分からない。


 ただ、同じ場所に見える。


 ロディはイスカを見る。


 次に石像を見る。


「ドム!」


 ドムは振り返らなかった。


「行け!」


 ロディは走った。


 ◇


 石像の足元まで来て、ロディは舌打ちした。


「ねえじゃねえか」


 剣どころか台座すらない。


 壁画では像の前まで床が続いていたはずだ。


 今は半分が崩れ、石材が穴を塞いでいる。


「……ん?」


 遠くで、また刃のぶつかる音がした。


 崩れた床の奥から風が来る。


 ロディは膝をつき、石の隙間へ手を入れた。


 小さな破片を退ける。


 下に空間があった。


「当たりであってくれよ……!」


 身体を横にして潜り込む。


 埃とカビの臭いが鼻を突き、咳き込みながら降りた先は小さな部屋だった。


 天井の一部が落ち、石材に埋もれた棚が見える。


 剣は見当たらない。


 頭上から、かすかに金属音が響いた。まだ続いている。


 ロディは棚の陰へ目を凝らす。


 崩れた棚の下から、何かが突き出していた。


 一本の柄だ。


 ロディは石をどかし、引き抜く。


 《ノクス》とよく似た形の剣。


 ただし、刀身は白銀だった。


「見つけた!」


 ロディは白銀の剣(ルクス)を掴んで来た道を駆け戻った。


 広間へ飛び込む。


「ドム!」


 イスカが振り向いた。


 その足が止まる。


 ほんの一瞬だった。


 ドムの刀を受け、イスカは二歩下がった。


「……痛っ」


 イスカが肩へ目をやる。


 その顔が初めて歪んだ。


 ロディが《ルクス》を握り、一歩踏み込む。


 イスカがこちらを見た。


 さっきまで浮かんでいた笑みが消えている。


「来るな」


「やっぱりこいつか」


 ロディがさらに距離を詰める。


「来るな!」


 イスカが《ノクス》を振り上げる。


 だが、踏み込まない。


 ドムの刀が横から叩きつけられた。


 甲高い音とともに、《ノクス》が宙を舞う。


 黒い剣は床へ落ち、何度か跳ねて《ルクス》のすぐそばまで滑ってきた。


 イスカが追おうとして、一歩目で膝をつく。


 肩を押さえた。


 荒い呼吸が漏れる。


「……なんだよ、これ」


 ロディは足元の二振りを見た。


 白銀の剣と黒い剣。


 ずっと別々の歴史を歩いてきた二本が、今は手を伸ばせば同時に届く場所にある。


 ドムが刀を鞘へ戻した。


「終わりだ」


 ロディも《煌日》を納める。


「ったく。最初からこうやって戦えりゃ楽だったのにな」


「お前が遅い」


「探してきたの俺だぞ!」


 イスカだけが答えなかった。


 イスカは床に片手をついたまま、自分の血で濡れた掌を見つめていた。


「なぁ、イスカ。怖がれるなら、まだお前だろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。