ミチルがセーラー服を着ちゃった話 後編
今回のテーマは「海」
海と言えば、海兵隊。憧れた海軍将校!
そんな夢見る前世持ちのペルスピコーズ法皇・エーデルワイスの決定に当のミチルはと言えば……
「ええー! 兵隊さんなんてイヤだよお、怖いよお」
平和ボケした令和の日本を生きたミチルに、曽祖父の憧れは理解できない。
「何!? 海軍将校の白い軍服はダメなのか!?」
その格好良さは、令和のイマドキっ子には理解できない。
「ヤだよお。動き難そうだし、肩も凝りそう。悪目立ちもしそうだよお!」
「むむう……眩い白が映える軍服、輝く金糸の肩章のカッコよさがわからないとは」
まさにジェネレーションギャップ!
エーデルワイスはちょっとショックを受けていた。
「もっとさあ、動きやすいのがいいよ。水兵さん……っていうとさあ、うん?」
水兵、と言い直したおかげでミチルの脳裏にある童謡が浮かぶ。
カ、モ、メ、の……というアレである! 教育番組の童謡コーナーのアニメーションが浮かぶ。
「ああっ! セーラーがいい!」
ミチルは唐突に思い出した。たしかメンズのイマドキファッション雑誌(タイトルは覚えていない)に、セーラー襟のシャツが流行っているとあった事を。
セーラー服と言うと女子のイメージが大きいが、雑誌に掲載されたセーラーシャツは可愛く、かつカッコ良かった。セーラーの襟もパーカーに似た趣きでちょうど良いと思った。名案過ぎると、ミチルは自分に酔う。
「か〇〇の水兵さん、のアニメで見たセーラー服(メンズ用)がいいよ! そういうの出来ない?」
「ミチルよ。その歌も戦前だが?」
曽祖父のつっこみは、なんだか恨みがましい!
「いいのォ! インスピレーションをもらっただけでしょぉおお!!」
なんだかんだ言って、結局エーデルワイスもミチルには逆らえない。
たじたじと引きながら頷いた。
「わ、わかった。西洋の水兵服だな、やってみよう」
「やったー! じいちゃん、大好きー!」
ミチルは両手を上げて大喜び。こういう事をするので、マゴはズルい。
大好き、のワードはかなり効いたようで、エーデルワイスはさらにやる気がみなぎった。
「誰か! 知っているテイラーとデザイナーを全て集めよ! 見積もりを提出させよ、コンペティションを開く!」
「あ、あれ……? なんかすごい大がかりになってない?」
ミチルは今更怖気付く。だが、暴走溺愛オジジはもう止まれなかった。
「採用されたデザイナーには法皇から勲章を与えるッ!」
……とか何とか、だいぶヤバめの発言をしながらエーデルワイスは執務室を出て行った。
「セーラー服って、なんだ?」
エーデルワイスとミチルの話題に一切ついていかれなかった、六人のおバカメンは目を瞬かせて棒立ちのまま。
王子の身分を持つ事から、一番ファッションに詳しいと思えるエリオットでさえ、この調子であった。
「ふっ、我は知っているぞ」
ミチルが幼少期の頃からその生態を夢で逐一観察していた、不可抗力ストー〇〇のチルクサンダー。彼だけが辛うじてその単語を知っていたようだ。
「セーラー服とは、就学中の女児が着ている学生服だ」
えええっ!
途端にざわつく一同、注目ワードは「女児」「学生服」である。
「ミ、ミチル、男の娘、なる……ッ!?」
豪商のおぼっちゃまがなんでそんなプロ級ワードを知ってるの、と言わんばかりの発言がルークからもたらされた。
「なるかあ!!」
思いがけないワードセンスを見せられて、同い年のルークには基本甘いミチルだったが、力一杯つっこんでしまった。
「ミチル、もちろんスカート、ない! でも、キュロット、オーケー?」
「オーケー、なああぁい!!」
ふざけるな、オレは「メンズ用」って強調したぞ!
男女平等が叫ばれる世の中だけど、坂之下ミチルはオトコです!
女装はしません、スカートは履きません、キュロットもギリ女装認定です!!
「むむう……! ではズボンは七分丈がよいっ!」
「ジェイぃい! お前までなんだあ!」
ぽんこつ朴念仁かと思っていたら、ジェイも立派な二十二歳の男性である。
彼の周りには浮浪者のようなオジサンが沢山いた。彼らからシモネタ教育を受けている事は意外と知られていない。
「ミチルのズボン丈は我々の死活問題なのだ!」
ファーストイケメンであるジェイに、「よく言った」の拍手喝采五重奏。
「ホントはホットパンツがいいんだけど……」
アニーは血の涙を流している。
「できれば膝上絶対領域が欲しいけど……」
エリオットも拳を震わせて悶えている。
「ミチルの白い足、他人に見せる、ジレンマ……!」
ルークもまた悔しそうに歯噛みする。
「だからズボン丈はせめて七分! これ以上は譲れない!!」
ジェイの譲歩案がしつこい!
「なんでお前たちはそんなに偉そうなの!?」
ミチルは後退りながらつっこんだ。
泣きながら主張する伴侶達の剣幕が常軌を逸しています!
「我らにもっとご褒美を! 白い脛♡だけでも見せろぉお!!」
とどめの最年長シモネタが火を吹いた!
「キモいよお……オレのカレピ達がキモイよお……」
なんだかつられてミチルも泣けてくる。
そんな一同に、最後のおバカメン・チルクサンダーから爆弾発言。
「貴様ら、ズボン丈も大事だが、もうひとつ忘れているぞ」
……えっ!?
「セーラーシャツの袖は、半袖以外は認めぬ」
……それだーーーーッ!!
完璧な意見が出揃ってしまった。
六人のおバカメンは決起集会後のような勢いで、エーデルワイスの後を追った。
「祖父殿ー! 発注書はここだー!!」
取り残されたミチルは、涙ぐみながら脱力。
「キモイよお……」
♡ ♡ ♡ 数日後 ♡ ♡ ♡
ペルスピコーズ内、大聖堂にウオォオンと茶色か黄色かピンクかわからない声援が響いていた。
稀代の新進気鋭デザイナー、緑の国ヴィリディス出身・ミラモリス渾身のセーラー服セットアップが届いたのである!
おバカメンの発注書と、エーデルワイスの監修通りの出来栄え。
白地を基調に、襟には青いラインが一本。
シャツは半袖、ズボンはクリーム色で七分丈。ベルトも青で統一感を出す。
完璧過ぎる逸品である。
「わほほーい! 可愛い&カッコよ……カッコよ、え? カッコよさ、は?」
ミチルが思い描いたオシャレブランドのセーラーシャツは確か紺色だった。
悔しい。祖父と伴侶を制御出来なかった。ミチルは心の中で歯ぎしり。
これではただの「可愛い水兵さん」である。
だが。
「ミチルゥウウウ、かわゆいねええええ♡」
という視線を一気に六つも浴びてしまうと、もう何も言えない。
セーラー服は完成してしまった。後の祭りである。
「まだだ」
そして妥協を許さず、更に探求をし続ける法皇が、ラストアイテムを取り出した。
水色の綺麗に光沢が浮かぶスカーフである。
「これを襟に巻きなさい」
「ええー、邪魔じゃない?」
スカーフなんて巻いたら、もうそれは、まんまセーラー服である。機関銃で快感を叫ぶか、ヨーヨーで悪を倒すか。そんな古い映像がミチルの脳裏に浮かんで消えた。
「巻・き・な・さ・い」
有無を言わせない曽祖父の瞳。軽くイっちゃっている。
「はあい……」
ミチルは全てをあきらめた。
真っ白な教会ローブより、真っ白な軍服よりはこっちの方がマシ。
スカーフを受け取って襟に通す。
ふおおおおおおっ!
ラストピースが見事にはまった。イケメン達は興奮の坩堝。
セーラーミチールの爆誕である。
「オレのカレピ達(じいちゃんも)がキモ過ぎるよお……」
ミチルは最後まで涙ぐんでいた。
ちなみに、エーデルワイスが頑なに強要した特製スカーフ。
強力な「オトコ避け」呪文が編み込まれている事は、まだ誰も知らない……




