ミチルがセーラー服を着ちゃった話 前編
新しい戦闘服が必要だ。
ミチルはいよいよその決意を固める。
懐かしのパーカーはラーウスに置いてきてしまった。簡単に取りにはいけないし、今更アレを着るのもなんか違う気がする。
オレはもう、この世界で生きるって決めたんだ。ラブラブ伴侶たちとも誓い合った。
もう、おんぼろパーカーに……帰らないと決めた場所に、未練はないっ!
「じいぃーちゃぁあーん!」
愛しのヒマゴが呼んでいる。
エーデルワイスはあの声の調子はおねだりだなと理解した。さすが法皇。
「ええーじいーちゃーん!!」
法皇の執務室の扉。そんなテンションでノックもせずに、ズバンと開ける者はこのペルスピコーズにはいなかった。
エーデルワイスの周りは、クソ真面目な部下しかいないからである。
「なんだ、ミチル」
だが、そんなペルスピコーズの秩序を乱す……もとい、ぶっ壊す者が現れた。それがヒマゴのミチルである。
何が欲しいかによるが、エーデルワイスはミチルの希望は出来るだけ叶えてやりたいと思っている。
だが、こちらからウェルカムで聞くのは躾にならない。厳しい溺愛オジジは、努めて迷惑そうに顔をしかめてみせた。
「あのね、オレ、服が欲しいんだ!」
なるほど。色気付いたのか。エーデルワイスは胸の内ですでにバッテンマークを付けている。
ミチルは伴侶を六人持つ、奇跡の総受けプルケリマである。オトコがそれだけいれば、自分を着飾りたくもなるだろう。
だが。
「今の法衣服で充分だ。教会にいる以上、贅沢は許さん」
……というのはもちろん建前で。
ミチルが今以上にエロ♡可愛くなったら、六人の婿達(※不本意)がどうなるか。
興奮して〇〇〇で×××の♡♡♡だから、ミチルの♡が大変な事になる。
「いや、でもさあ、オレは近いうちにイケメン達の故郷を回るって言ったじゃん! こんな白くてダボダボローブみたいなの、動きにくいし悪目立ちするよぉ!」
「ん? ああ、そっちの件か」
つい先日、ミチルとイケメン達に島移住が勧められた。
だがミチルはその前にちゃんと自立したいと駄々をこねる。何にも出来ないのに楽園では暮らせないと言うのだ。
これにうっかり感動したエーデルワイスは、それならイケメン達の故郷を巡って心の整理をつけてこいと進言した。
ミチルが言っているのは「その件」だった。
決して「カレピを悩殺したいの〜ん、うっふ〜ん」的な件ではなかった。
世界の教会ペルスピコーズを統べる法皇でも、ヒマゴ可愛さに判断力が曇る事がある。
「ふむ。ペルスピコーズの外に出るには、確かに別の服装の方がいいだろう」
「新しい服、買ってくれる!?」
ミチルは期待で目をキラキラさせていた。
〇山か〇参道あたりのオシャレブランドショップでも考えていそうなテンションである。
だが、ここは異世界カエルラ=プルーマ。
そしてミチルの服装に口を挟まずにいられない重要人物が六人いる事を忘れてはならない。
「ミチルが新しいコスチュームにお色直し♡するだってええええッ!?」
ミチルのそれを遥かに超える勢い、ズバッターンと執務室の扉を開ける六人の影。
彼らもまた、堅苦しい教会に吹き込んだ新しい暴風である。
「むうう、純白のワンピース(私の天使風)を希望したい!」
「いやいや、健康的にTシャツとホットパンツだ! アンダーシャツなし&生足天国っ」
「生足は賛成だけどよ、ここはミニスカメイドだろ! 絶対領域は絶対欲しい!」
「ふっ、若者は愚か。儂くらいになるとシースルー浴衣だ。帯は緩く結ぶのがいい」
「ぼく、自分で作れないくらいのフリフリつけてください! かわいい、かわいいのね!(ロリータ系)」
「……へそ出し踊り娘が良い(アラビアン風)」
暴風はスケベ妄想の雪を降らせて、執務室に雪崩れ込んだ。
ぽんこつナイト ジェイ・アルバトロス
ホスト系アサシン アニー・ククルス
小悪魔プリンス エリオット・ラニウス
毒舌師範 ジン・グルース
優しいバーサーカー ルーク・プルクラ・ループス
孤独なヴィラン チルクサンダー
見目麗しい世界最上のイケメン達が、目を血走らせて己の欲望を訴えている。
「おまい達ぃいいいッ!!」
そんな六人のイケメンを完全に尻に敷く、全ての支配者。それがミチル。
妄想&欲望むき出しのカレピ達を怒鳴りつける。
「希望を言うのはいいけど、六分の四が女装てふざけてんのかあ! その他二案も性別不詳じゃねえかあ!」
「シウレン、こうなったら全部着よう!」
ジンは涙を流して豪語した。年長者の毒舌師範は誰よりも涙もろい。皆の全力妄想に感銘を受けた様である。
「バカじゃないのっ! どいつもこいつも、変態衣装を提案しやがってえ!」
「そんなあ、ミチルゥ! 俺は普通だよお!」
アニーは果敢にも支配者に反論を試みた。だが、当然受け入れてはもらえない。
「おまーはまたオレにシャツを支給しないつもりだろうがあ! 透けるって言ってんだろお!」
ピンクの♡♡が見えちゃう、なんて真っ平ゴメンです。
ミチルはかつての恥ずかしウェイター服を思い出して、さらに憤怒していた。
「どれも却下に決まっているだろうがあ、ドグサレ婿ドモがぁああッ!!」
出ました、法皇お得意のバリバリゴッシャンの術です。
カミナリ親父さながらの雷を本当に落とす、法皇の新魔法に認定されています。
「そんなイメ♡ラのようなプレイは許さんぞぉお!」
エーデルワイスは自分の最初の思考を完全に棚上げして怒る。
彼は六人のドグサレ婿に怒っているだけではない。六人のドグサレ婿と同じ思考だった自分にも憤っているのだ。
「にゃー! じいちゃん、落ち着いてえええっ!」
「はあ……はあ……っ!」
見た目は十四歳の少年だが、エーデルワイスは二百年以上生きている。老骨に鞭打った新魔法はなかなか疲れるのだ。
「まったく、お前たちの阿呆思想にはついていけん」
法皇は完全に棚に上げている!
「ワタシのマゴの服装は、ワタシが決める!」
「おお……」
ミチルをはじめ、その場の全員が固唾を飲んで注目した。
「そもそもこの発端は、孤島インスラ=アルカーヌによる。舞台は海」
「ほおお……」
「ミチルはペルスピコーズを出て、婿ドモの故郷へ渡る。海を越えると言っても良い」
「ふおお……」
勿体ぶった言い方で、ミチルと六人の婿たちを焦らしつつ、なんだかんだノリがいい曽祖父は高らかに宣言した。
「此度のテーマは海! 海と言えば海兵である……ッ!!」
「……ん?」
「ワタシは本当は海軍部隊に配属されたかった! 海軍将校に憧れていたのだァアア!!」
「思考が戦前だったー!!」
ミチルは曽祖父の秘められた夢を知る。
いや、それ、オレと関係ないじゃん!
ペルスピコーズ法皇エーデルワイス。その前世はミチルの曽祖父、坂之下充。
彼は海兵さんを夢見るオトコだったようだ……




