第10話 バイプレイヤーの役割
コンコンコン……
うふ。うふふ。むふふっ♡
ミチルの夢は終わらない。
大変に満足♡してしまった夜の余韻に、ずっと浸っていたい。
寝返りを打つと、ジェイの胸の中にすっぽり。
昨夜の熱い肌が、少し冷えて心地よい。
コンコンコン……
「ああん、ジェイぃ……♡」
逞しい胸板に擦り寄って。
ミチル、至福の絶頂。
そんな変態、オレだけかと思うじゃん?
でも……
「ミチル……」
変態の伴侶は変態。
寝ぼけながらも、ジェイのおててはミチルの♡♡♡に。
コンコン、コンコンコン!!
「ああん、もう。朝だからダメえ♡」
「ミチル、目覚めの***を……(※言語化自粛)」
ひゃあああ……♡
「お支度の時間でございますッ!!」
招かれてベッドを借りている分際で、朝からそんな変態は許されない。
バタバッターンと扉を開けて、厳しい顔のベテランメイド的なおばさまが乱入!
「どひゃああああッ!」
♡♡脳が突然現実に呼び戻される。
ミチルは仰天しながら飛び起きた。全裸でベッドから落っこちる。
「ミチル! 大丈夫か!」
すぐさまジェイも起き上がった。もちろん全裸で。
「キャアアア!」
おばさまメイドの部下的な、若メイド数人が悲鳴を上げた。
ジェイのジェイがジェイしてるのだから当然である。
「お黙りなさい、配置につきなさい!」
だが、おばさまメイドのカリスマ的指示が飛び、若メイド達は一瞬で「スン」となってわらわらと部屋に入って来た。
その内の二人が全裸のミチルの両腕をガシッと掴む。
「ん?」
別の二人がジェイの両脇に滑りこみ、やはりガシッと腕を掴んだ。
「む?」
そうして、おばさまメイドの大号令が部屋中に響き渡る。
「お支度の時間です!!」
クワワっと目も口も開いて宣言するおばさまメイド。だいぶ怒っている。
何度もノックしたのに、中の客人は応えないどころか再びおっ始めようとするなんて。
だいぶ怒り心頭に発している。
「お支度します!」
「お支度します!」
メイド達はミチル担当とジェイ担当に分かれ、それぞれ別々の支度部屋に連れて行く。
「ふぎゃー! せめてパンツ履かせてえええ!」
しかし、ミチルの嘆きは却下。
時間がないのだ。思う存分ベッドを汚しまくるから。
その汚れたベッドだが……
清掃担当のメイド三人の度肝を抜いた事は言うまでもない。
カエルレウム王宮使用人が代々言い伝える伝説が誕生してしまった。
「ええい! 徹底的に!! お支度しますッッ!!」
ベテランおばさまメイドは実は泣く子も黙る凄腕メイド長なのだが、彼女の長いメイド人生でも未経験のものはある。
そんな現場に遭遇した彼女の無念はいかばかり。
ミチルとジェイは、為すがままでお支度されていったのである……
◇ ◇ ◇
所変わって、こちら荘厳に演出されたパーティー会場。
夜明け前から、クローバーの陣頭指揮で念入りに準備が行われている。
「アレをああして、ココでこうすると、ソレがそうなるだろうから……」
一人でブツブツと計算に余念がない。
そこに近づいて来たのは万年寝不足のラベンダー。昨夜も一晩中雑用をさせられていた。
「本当に上手くいくんでしょうか?」
不安と不眠で青ざめているラベンダーに、クローバーは細い目でニヤニヤしながら頷いた。
「ここまでしたんです。上手くやってもらわないと」
「大臣が、今日、ここで、アルバトロスを襲う確証は?」
後戻りは出来ない。やるしかないのはわかっている。
だが、それでもラベンダーは聞かずにはいられなかった。
自分だったら、陛下も臨席する宴でそんな事は考えもつかないからである。
「……百パーセント」
だが、この魔法顧問は余裕たっぷりに大それた発言をしてみせた。
ラベンダーは更に不安を煽られる。
「何故、そこまで自信を持てるのです?」
その問いに、クローバーはうーんと少し考えてから口を開いた。
「これは将軍にも、陛下にも報告してないんですけど……」
「はあ」
その口から、とんでもない計略が語られる。
「ブッドレア大臣側のアルバトロス暗殺計画を立てたのは私です」
「ええええっ!?」
ラベンダーは思わず大声で反応してしまった。
すると、クローバーはイタズラっぽく笑って人差し指を口元にあてる。
「しいぃ……! 言ったでしょ、私は本来はあちら側の者です。大臣に計画立案を打診されるまでに、私がビールを何杯飲んだと思ってるんです?」
「し、しかし、それではクローバー様は二重スパイではありませんか!」
大変な事を聞いた。
大臣を裏切って将軍についたと思っていたのに、大臣側でも立ち回っていたなんて。
その信用を得るために、こちらの情報も多少は流している事だろう。ラベンダーは目の前の人物にどう接していいかわからなくなっていた。
「いいじゃないですか。私はそもそもこの国の人間ではないし」
「いやいや、貴方は我が国の中枢を知り尽くしている。アルブスにはもう戻れないでしょう?」
「まあ……そうなんですけどねえ」
クローバーは頭をポリポリ掻きながら、のほほんとした口調は崩さなかった。
「私の代にこれが起きてしまったのだから、受け入れるだけです」
「……何がです?」
ラベンダーにはクローバーが何を言っているかわからなかった。
その疑問に答える事はなく、クローバーはふふふと笑う。
「まあまあ、どうぞご心配なく」
全てを知り尽くす男の思考など、一介の部隊長などにわかるはずもない。
「私の目的はリンドウ氏のご子息の命を守ること」
クローバーには独自の立場というものがあるのだと、ラベンダーはこの時思い知った。
「それは、将軍のご希望と矛盾していないと思いますよ」
パーティー開演の時は近い。




