第11話 新郎と花婿の決死大作戦!
11:00 カエルレウム王宮。大ホールにて。
「お腹空いたぁ……」
つつがなく「お支度された」ミチルは、ホール脇の控え室で待機中。
朝の大寝坊♡ゆえにお支度が押せ押せになり、朝食をとる暇がなかった。
入浴(かなり念入り)から、着替え、そして化粧まで。ミチルはお人形状態である。
「む……」
そこへ新郎登場。華麗なる純白の騎士服に身を包み、胸にはなんだか煌びやかな勲章をいくつもつけたジェイが、ミチルに遅れてやって来た。
「ふわあ……おぉ、ジェイぃい……♡」
その輝く姿にミチルは空腹も、「知らないお姉さん達に支度されてしまった」感も吹っ飛んだ。
目の前のジェイは、ブライダル系モデルも真っ青。そんなのはメじゃないくらいにイケメン過ぎている。
「む、むおお、ミチル……」
そんなイケメン過ぎるジェイの視線は、目の前の花婿さんに釘付け。
「うん?」
実はミチルも負けていない。
凛々しくも輝かしい純白のスーツをまとい、頭には肩までかかるヴェール。そこから覗く可愛らしいお顔の、薔薇色リップが非常に愛らしい仕上がりになっているのだ。
胸にはカエルレウムの象徴、カエルラ・アンゲルスの花をコサージュにして飾っていた。ミチルはこの青い花を初めて見る。おそらく地球にはない花だろう。けれど、どこか懐かしい気もしていた。
「……なんて尊い、ミチル」
ジェイは目から涙、鼻から鼻血が滲みそうになって、慌ててメイド長に拭き取られた。
さすがに純白の衣装を自分の鼻血で汚したら、世界の恥である。
「ジェイも素敵ぃ……♡」
ミチルは朝食を食べていないので低血圧。ゆえに鼻血は免れた。だが、色惚けは止まらない。
「あーもう、何もう、ヤダもう……♡」
時間差で、ミチルは壊れたラジオになってしまったようだった。
「やあやあ、準備が出来たようで何よりです」
ニヤニヤ笑顔のクローバーが部屋の中へと入って来た。後ろにはいつにも増して顔面蒼白のラベンダーがいる。
「わーお、ミチル様。なんてお美しい!」
白々しいお世辞に、ミチルは嫌々愛想笑い。
「……はいはい、それはどうも」
こいつがオレ達を囮に使う諸悪の根源だ。ミチルはジェイの美しすぎる姿に一瞬忘れかけたが、これは喜ばしい式典ではない。
もっと悪いヤツを捕まえるためのミッションなんだ、とミチルは改めて思い直す。
——どうしよう、急に緊張してきた!
だが、クローバーはニヤニヤ顔を崩そうとはしなかった。
「いやあ、私があと五十年若かったらねえ。アルバトロス君に決闘を申し込むかもしれませんねえ」
「はいはい、そうですか。ん? 五十、年?」
軽くあしらおうと思ったら、なんだか聞き捨てならないワードが飛び出している。
「あれ、言ってませんでしたか? 私、今年で七十五歳なんですよねえ」
「でえええっ!?」
ミチルはショックでヴェールが吹き飛ぶほどに驚いた。
クローバーはハンサムで、多く見積もっても三十代前半だと思っていたのに。
おじいちゃんじゃん!
あ、でも、オレのじいちゃんの半分以下かあ。じゃあ若いのかな?
……もう、ワケわかんない!
「いやあ、若作りなんです私。だってその方が楽しいしねえ」
ミチルは混乱している頭で考える。
クローバーの「楽しい」はきっと碌なものではない。性悪な性格だから、ハンサムを悪用していそう。
「まあ私の事はいいじゃありませんか。ミチル様、アルバトロス君、是非頑張ってちょーだい」
どっと疲れる事を言わないでちょーだい。
ミチルは肩を落としてため息をこぼす。
「ところでラベンダー隊長、顔色がおもわしくありません。大丈夫ですか?」
ジェイがそう気遣うと、ラベンダーは少し窪んだ瞳を見開いて呟いた。
「お前……成長したなあ」
「む? 何がでしょうか」
少し鼻声になったラベンダーは、自身の不安を心の中で打ち消してジェイを激励する。
「いや。私の事はいい。お前はミチル様と自身のために最善を尽くしなさい」
「——はっ!」
ピシリと敬礼するジェイに対して、ラベンダーはうっかり泣きそうになる。
涙腺ヤババになってしまったので、口元を抑えて俯いてしまった。
「さて! これから君達は女王陛下の御前に参上するわけなんですが」
パンと両手を叩き、クローバーが部屋の空気を変えようとする。
だがミチルはまた知らない情報に戸惑っていた。
「女王? カエルレウムって女王様なの?」
「あれ、知らなかったんですか? カエルレウムの現在の国王は女性です。クレマチス陛下とお呼びするようにね」
「はーい」
ミチルはあらかじめそれが聞けて良かったと思っていた。
アルブスのオルレア王のような、厳つい「ザ・国王」を想像していたからだ。
緊張に輪をかけて、意外にも女性の国王に遭遇したら、ミチルは大事な舞台で変な態度をとってしまったかもしれない。
「それで、我々は何をすればいいのですか?」
作戦らしい事は一切聞かされていない。ジェイがそう聞いてくれなければ、ミチルはそれも忘れるところだった。
あれよあれよという間に、こんな舞台に立つ事になっている。クローバーに乗せられっぱなしなのだ。
「うーん、別に何も」
そしてクローバーは目を細めながらのデフォルトニヤニヤのまま、そんな事を言う。
「え?」
これにはさすがのジェイも怪訝な顔で聞き返した。
「君たちは二人で陛下からのお祝いを賜ればよろしい。そうしているうちに何か動きがあるでしょう」
ちょっと待って。
「周りには将軍を始め猛者が控えていますからね、大臣が動いた瞬間に全てが終わります」
ちょっと物騒過ぎない? ミチルは段々と不安が増していく。
「我々に、的になれ……と?」
ジェイの例えにミチルは顔面蒼白。
的って!?
そういえば、大臣の部下って弓の達人だったよね。その的って事!?
「だーいじょーぶですよ。君たちは世界を救ったプルケリマとカリシムス!」
待て待て待て。
「飛んでくる矢の一本や二本、軽く弾いてみせなさい」
丸投げされたー! ミチル、絶体絶命!
「……かしこまりました」
ジェイぃいー! かしこまるなあぁあ!
オレ達は一体どうなるんだ、どうすればいいんだあああっ!!
ショッキング過ぎて失神しそうなミチルに、クローバーは右手で真っ直ぐ前を指し示す。
「さあ、お行きなさい」
……お逝きなさい!?
「女王陛下がお待ちです」
……地獄のエンマ様かもしれない!?
ついに、決死のパーティーが始まる!!




