ナンパなら大歓迎
「そこの二人、ちょっといい?」
後ろから、不意に声がかかる。
反射的に振り向く二人。
そこには、杖を持った女が二人立っていた。
魔導師。
一人は長身。
ピンク色のロングヘアを風になびかせ、勝ち気な目をしている。
もう一人は小柄。
青色のショートボブで、どこか内気そうな雰囲気。
――そして、どちらも美人だった。
エディルとユキノは同時に警戒する。
だが。
エディルだけ、ほんのわずかに鼻の下が緩んでいた。
(……こいつ)
ユキノは一瞬だけ横目で睨む。
すぐに視線を戻す。
「……誰ですか」
低く問いかけるユキノ。
ピンク髪の女は、軽く肩をすくめた。
「怪しい者じゃないよ」
口元に笑み。
「私はシェリー」
隣の少女を軽く指す。
「この子はルリア」
ルリアは少しだけ会釈をする。
「……よろしく」
小さな声。
そのまま、シェリーが一歩だけ距離を詰める。
視線が、壁へと流れる。
貼られた手配書。
そして――二人へ。
「あなたたち」
一拍。
「この手配書の子でしょ?」
空気が、一瞬で張り詰める。
エディルの表情が変わる。
さっきまでの緩さが消え、
即座に警戒へと切り替わる。
「お姉さんたち、何の用?」
エディルは軽い調子で口を開く。
「ナンパだったら大歓迎なんだけど……」
軽口。
だが、その目は笑っていない。
完全に警戒している。
シェリーはその様子を見て、くすりと笑った。
「ナンパだったらよかったんだけどね」
「……じゃあ何だ」
エディルの声が低くなる。
空気が一段、張り詰める。
シェリーは一歩も引かず、口を開いた。
「勇者一行、潰してるんでしょ?」
一拍。
「……次はマリン?」
核心。
その一言で、空気が凍る。
エディルとユキノの視線が鋭くなる。
明確な警戒。
その時。
「シェリー」
隣から、ルリアが小さく声をかける。
「二人とも、怖がってる……それやめて」
シェリーは一瞬だけ肩をすくめる。
「あー、ごめんごめん」
軽く笑ってから。
今度は少しだけ、声のトーンを落とした。
「安心して」
「私たちも、勇者一行には疑問を持ってる」
そのまま、続ける。
「王都の平和を守るって言いながら」
「厳しい制約ばっかり増やして」
「その裏で、不祥事だらけ」
視線が、わずかに鋭くなる。
「……そしてマリン」
一拍。
「私たち、あの子と同級生だったの」
ユキノがわずかに反応する。
シェリーは続ける。
「あの子も、何か隠してる」
「絶対に」
その表情は、さっきまでの軽さが消えていた。
真剣そのものだった。
「何かって?」
ユキノが、不安そうに問いかける。
シェリーは軽く肩をすくめた。
「まあ、ここで立ち話する内容じゃないかな」
少しだけ視線を周囲に流す。
「ついてきてほしい」
そう言って、手で招く。
「こっち」
ルリアも、小さく頭を下げた。
「……お願いします」
ユキノは一瞬、視線をエディルへ向ける。
「……どうする?」
小声で確認する。
エディルは少しだけ考える素振りを見せて―
「行こう」
即答だった。
「ほんとに?!」
ユキノの声が上ずる。
「もし連行されたらどうするの?」
だがエディルは、まったく動じない。
「美人の言うことは絶対だ」
堂々と言い切る。
(このクソ男……)
呆れるより先に、怒りが込み上げる。
ついでに、ほんの少しだけ――嫉妬。
その様子を見て、シェリーは苦笑する。
「まあまあ」
軽く手を振る。
「安心してって」
「少なくとも、ここで兵に突き出したりはしないよ」
一歩だけ先に歩き出す。
「とりあえず、ついてきなよ」
ルリアもその後ろに続く。
エディルとユキノは顔を見合わせ――
そのまま後を追った。
四人はフルールの街外れ。
人気の少ない森へと向かっていく。
フルールからしばらく歩き。
人の気配が完全に消えた、森の奥。
そこに――
一軒の木造の家が建っていた。
こじんまりとしているが、手入れはされている。
「ここだよ」
シェリーに促され、中へ入る。
扉を開けると――
中には三人の人影。
まず目に入ったのは、金髪のショートカットの女。
杖を持っているあたり、魔導師だろう。
そして――こちらも美人。
その隣には。
少し身なりの貧しい、若い男女が一組。
どこか怯えた様子で、こちらを見ている。
「お、なにそのメンツ」
金髪の女が、軽い調子で口を開く。
「もしかして、お尋ね者の二人?」
陽気な声。
シェリーが頷く。
「そうそう」
「この子はジュリ。私たちと同じ魔導師で、同級生」
軽く肩をすくめる。
「ちょっと軽いけど、まあいい奴」
「ちょっとって何よ」
ジュリは不満そうに言いつつも、どこか楽しげだ。
そのままシェリーは、奥の男女へ視線を向ける。
「それで、この二人は――」
一拍。
「タルタロスに収容されてた人たち」
空気が、わずかに重くなる。
「エディル……でいいんだよね?」
シェリーが確認する。
「あなたがぶっ壊してくれたおかげで、逃げられたって」
「そのあと、逃げてるところをジュリが見つけて」
「とりあえず今、ここで匿ってる」
説明が終わる。
若い男女は、少し緊張した様子で――
深く頭を下げた。
「……ありがとうございました」
小さな声。
エディルは一瞬だけ目を細める。
そして。
ユキノと顔を見合わせ――
つられるように、二人も頭を下げた。




