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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
戦士 ドレイク
73/78

本当に守りたかったものは

(俺は……)

(何を守れたんだ)


とどめを刺され。

ドレイクは、薄れゆく意識の中で考える。


生前も。

この世界でも。

何一つ――守れなかった。


(最後のチャンス、くれたのに)


あの声を思い出す。

――お前が最も望むものを与える。

――強く生きろ。


(……無駄にした)


いや。

違う。

守りたかったもの。


弟たちでもない。

後輩でもない。

孤児院の子供達でもない。

勇者一行でもない。

全部、違う。


(……俺が守りたかったのは)

少し間。

(俺自身だ)


守れない自分が。

壊れないように。

それだけだった。


(……情けねえな)


その言葉を最後に。

ドレイクは、意識を手放した。




「……やっと終わったか」

エディルは、倒れたドレイクを見下ろす。

しばらく、動かない。


やがて。

「……はぁ……」

大きく息を吐く。

「……疲れた……」


全身に、どっと疲労が押し寄せる。

覚醒したとはいえ。

消耗は消えない。

回復も、まだ遅い。

本当なら。

今すぐ、倒れ込みたい。


だが。

「……ユキノ」

その名前が、先に出る。


視線を上げる。

収容所だった場所。

原型は、ほとんどない。

瓦礫。

崩壊。

この中で――


(……生きてるのか)


一瞬、不安がよぎる。

振り払う。

足を踏み出す。


その時。

「……エディル?」

声。


顔を上げる。

崩れた壁の向こう。

ユキノが、立っていた。


「何その頭……」

目を見開く。

「てか、翼まで……」

少し呆然としたまま。

「……悪魔みたい」

その言葉。


だが。

エディルは――

(……生きてる)


それだけで。

十分だった。

(よかった……)



次の瞬間。

身体が、勝手に動く。

走る。

痛みも。

疲れも。

全部、無視して。


そして――

抱きしめる。

強く。

離さないように。


「ちょ、ちょっと!」

ユキノが戸惑う。

「やめてって!」

抵抗する。


だが。

離さない。

「……よかった」

声が震える。


「……生きてて……」

ぽつり。

そして――

涙が、落ちる。


(……あ)

ユキノは思い出す。

以前も、同じことがあった。

アイリーンを倒した後。

あの時も。

同じように、抱きしめられた。

あの時は――

振りほどかなかった。


ーエディルはいつも自分のために行動を起こしてくれた。


本気で。

自分の無事を願っていた。


捕まった自分のために。

仇を討とうとしてくれた。


姿が変わっても。


ユキノは胸の奥が熱くなる。


(……ありがとう)

心の中で、呟く。

そして。

そっと。

エディルの背中に腕を回した。




そのまま。

抱きしめ合う二人。


(……これが)

ユキノは、エディルの角と翼を見る。

(魔族の本当の姿なんだ)

少しだけ、見入る。


その最中。

エディルが、ぽつりと口を開く。

「……何もされてないか?」


「え?」


「だから、その……」

言葉を選ぶ。

視線が少し逸れる。

「乱暴なこと、とか……」


「……それは」


ユキノは思い出す。

拘束されていた時。

男たちの視線。

近づいてくる距離。

唇に残る、不快な感触。

値踏みするような目。

身体を見られたこと。


一気に蘇る。

嫌悪。

不快感。

それが、そのまま表情に出る。


「……」

エディルの目が、変わる。

さっきまでの安堵が消える。

涙も止まる。


低く。

「……何された」


「いや、その……」

ユキノは視線を逸らす。

言いづらい。


「言えって」

一歩、踏み込む。

声が少し強くなる。

逃がさない。


「……」

少しの沈黙。

やがて。

ユキノは、観念する。


「……キス、されて」

小さく。

「……身体も、見られた」

沈黙。

一瞬。

空気が止まる。


そして――

「……は?」

エディルの目に、火が灯る。

怒り。

一気に燃え上がる。


「――ふざけんな!!」

叫ぶ。

拳が震える。



そして――

「俺だってキスしてねえのによ!!!」



「何言って……」

ユキノは、少し呆れたように言う。

だが。

違和感。

エディルの様子が――おかしい。


いつものような、ただの怒りじゃない。

全身から。

魔力が、溢れ出している。

空気が歪む。

周囲の温度が、一気に上がる。

目は血走り。

口元からは、黒炎が漏れる。

牙が覗く。

拳は、今にも何かを壊しそうなほど握り締められていた。

そして。

背中の翼が――大きく広がる。


先程、勇者一行と対峙した時よりも。

さらに、鋭く。

さらに、禍々しく。


(……炎の悪魔)

ユキノは、そう感じた。


その時。

瓦礫の奥。

崩れた壁の向こうから。

数名の職員が姿を現す。

満身創痍。

だが、まだ動いている。


タルタロスは、ほぼ壊滅状態。

逃げ出した収容者を抑えるために動いていたのだろう。

それでも。

エディルとユキノを見つけると――


「捕らえろ!」

叫ぶ。

魔法が、放たれようとする。


その瞬間。

「……ふざけんなよ」

低い声。

空気が、凍りつく。


「てめえら――」

一歩、前に出る。

「誰の女に手ぇ出してんだ!!」


――ゴォォォッ!!

黒炎のブレスが、吐き出される。

視界を焼き尽くす熱量。

一瞬で、周囲が燃え上がる。


「っ!?」

職員たちの足が止まる。


その隙。

エディルは、迷わない。

ユキノの手を掴む。

「こっちだ!」

引き寄せる。


そのまま――

抱き上げる。

「え、ちょ――!」

ユキノが声を上げる。


次の瞬間。

エディルの翼が、大きく羽ばたいた。

地面が遠ざかる。

一気に、空へ。


「うわっ!ちょっと!」

慌ててエディルにしがみつくユキノ。

落ちないように。

必死に。


エディルは、そのまま飛び続ける。

荒い呼吸。

魔力も、かなり消耗している。


「……殺してやりてえけど」

ぼそっと。

吐き捨てる。

少し間。

「……俺も、限界」

ぶっきらぼうに言い放つ。


それでも。

飛ぶのはやめない。

戦うより。

今は、逃がす方が優先。


エディルは、そのまま高度を上げる。

タルタロスを離れ。

遠く。

さらに遠くへ。


二人は――

その場を離脱した。

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