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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
戦士 ドレイク
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ドレイクという男 2

少年院で、一年余りを過ごした。


遅れていた勉強。

倫理。

社会性。


一通りは教え込まれた。

だが。

ドレイクにとっては、どうでもよかった。

守れなかったから。

それだけで、十分だった。


やがて。

出所の日。


「これからは、真っ当に生きろよ」

そう言われて、外へ出される。


久しぶりの外の空気。

街並み。

人の声。


すべてが――どこか遠い。

居心地が悪い。

馴染めない。


(……真っ当って、なんだよ)

心の中で呟く。

(どうやって、生きるんだよ)


元々、社会とは断絶して生きてきた。

少年院で何を教えられても。

それは、ただの知識でしかなかった。


実感はない。

使い方もわからない。

一人で放り出される。

頼れる親戚がいるのかも分からない。

学歴はない。

職もない。

倫理も、道徳も。

どこか他人事のままだった。


気づけば。

足は、自然とそちらへ向かっていた。

半グレの集まり。

名前も知らない連中。


だが。

そこには、似たような人間がいた。


過去を持った連中。

まともじゃない連中。


だからこそ。

居心地がよかった。

何も気にしなくていい。

誰も、咎めない。


そして。

暴力で、すべてが通る。

それが、分かりやすかった。

拳でねじ伏せればいい。

それだけでいい。


ある日。

「お前、やるじゃん」

軽く言われる。


別の日。

「お前がいると心強いな」

笑いながら、肩を叩かれる。


その言葉が。

やけに、残った。


認められる。

必要とされる。

それが、初めてだった。


ドレイクは、初めて思った。

ここなら。

自分がいてもいいのかもしれないと。




いつの間にか。

ドレイクは、その組織の中で一定の地位を持つようになっていた。


自然と、後輩もできる。

いつでも。

後輩たちは、無条件で慕ってきた。


「うわ……さすがです!」

「俺、一生ついていきます!」


まっすぐな目。

純粋な尊敬。

それは、歪んだ世界の中にある関係だったが。

ドレイクにとっては――違った。


どこか、懐かしかった。

(……似てる)

ふと、思う。

(あいつらも……)

頭に浮かぶのは、弟や妹たちの顔。

小さかった頃の姿。

(あいつらも、でかくなったら……)


視線の先にいる後輩たちを見る。

(こんな感じになるのか)


自然と。

重ねていた。

弟や妹と。

だから。

守る対象だった。

もう、失いたくないものだった。


――だが。

そんな日常は、突然終わる。



敵対している別の半グレ組織。

その連中との衝突。


喧嘩――

そんな軽い言葉じゃ足りない。


完全な、争いだった。

拳。

鉄パイプ。

何でもありの無法地帯。

叫び声と、衝撃音が入り乱れる。

ドレイクは、いつも通り前に出る。


殴る。

叩き潰す。

力でねじ伏せる。

それが、自分の役割だった。


だが。

その最中。

視界の端で。

何かが引っかかった。


慕っていた後輩。

一人。

押されている。

明らかに劣勢。


(……まずい)

ドレイクが目を向けた瞬間。

状況は、崩れた。

囲まれる。

一瞬で。

逃げ場がなくなる。


「やめ……っ」

声が上がる。

だが。


間に合わない。

殴られる。

蹴られる。

何人にも囲まれ。

一方的に叩き潰されていく。


リンチ。

止まらない。

止められない。

ドレイクは一瞬、動きが止まる。


(またか)

頭の奥で、何かが軋む。

過去と、重なる。

守れなかった、あの日。

泣いていた妹。


伸ばせなかった手。

(……やめろ)

歯を食いしばる。

拳を握る。

だが。

一瞬の遅れが――

致命的だった。


そのまま。

ドレイクも劣勢に回る。

数で押される。

囲まれる。

拳。

蹴り。

鉄パイプ。


何でもありの暴力が、一方的に叩き込まれる。

反撃が、追いつかない。

体が軋む。

意識が揺れる。


その時。

背後から、気配。

振り向く間もない。


――ゴンッ。

鈍い音。

レンガ。

頭部に、叩きつけられる。

視界が白く弾ける。


一瞬だった。

力が抜ける。

膝が崩れる。

そのまま。

倒れ込む。


(……また、守れなかった)

ぼやける意識の中で。

それだけが、浮かんだ。




暗闇。

何もない空間。

音も、光もない。

その中で。

ドレイクは、ゆっくりと目を開けた。


「……どこだ、ここ」

さっきまでの喧騒はない。

血の匂いもない。

ただ、黒。

見渡しても、何もない。


その時。

声が響いた。

どこからともなく。

重く、低い声。


――お前が望むものは何だ。


ドレイクは、わずかに目を細める。

(……望むもの?)


考える。

今までの人生。

頭の中に浮かぶのは――

泣いていた妹。

守れなかった背中。

崩れていった命。


(……力だ)

自然と、答えは出ていた。


(守れるだけの力)

もう二度と。

目の前で、失いたくない。

もう二度と。

泣かせたくない。

(……もう、懲り懲りだ)

沈んだ感情の底で、呟く。


その瞬間。

声が、再び響いた。


――ならば、与えよう。


静かに。

確かに。


――お前が最も望むものを。

一拍。

――強く生きろ。


その言葉と同時に。

暗闇が、崩れる。

意識が、引き裂かれる。

落ちる。

深く。

どこまでも。


そして――

ドレイクは、この世界へと転生した。

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