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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
戦士 ドレイク
65/78

俺の長所なんだけど

エディルとドレイク。

至近距離。

拳と拳が、ぶつかる。


――ドンッ!!

黒炎を纏った拳。

風を纏った拳。

互いに、容赦はない。


エディルの黒炎は、しつこく燃え続ける。

一度触れれば、絡みつくように焼き続ける。


ドレイクの風は、鋭い。

拳の速度を極限まで引き上げ、

その一撃一撃に、見えない刃を宿す。


ぶつかるたび。

空気が、裂ける。

互角。

一歩も、引かない。


「どっちが殺したのか聞いてんだろ!!」

ドレイクが、吠える。


「お前、身体はでけえ癖に」

エディルが、吐き捨てる。

「そんな小さいこと気にしてんじゃねえよ!!」


拳が、めり込む。

殴る。

殴り返す。

距離ゼロの、殴り合い。

煽り。

そして、また殴る。


その最中。

ふと。

ドレイクの動きが、止まる。


「……あの女」

低く。

「別に、何されてもいいだろ」


「……あ?」

エディルの表情が、歪む。

だが。

拳は、止まる。


ドレイクが、続ける。

「ノヴァもアイリーンも、死んだんだぞ」


「……だから、何だ」

エディルの声が、低く沈む。


「生きてるなら」

「犯されても、いいだろ」


空気が、凍る。

「……あの二人は」

「二度と、戻ってこねえんだぞ!!」

ドレイクが叫ぶ。


次の瞬間。

ドレイクが、踏み込む。


――ドンッ!!

拳。


そして。

間髪入れずに。

圧縮された風が、放たれる。

――バギィッ!!


エディルへ、直撃。

「……っ!!」

ガードの上から、身体が軋む。

吹き飛ばされる。

床を削りながら、滑る。


だが。

止まらない。

ゆっくりと、顔を上げる。


「……だから」

息を吐く。

「なんで、お前が」

立ち上がる。


「仲間について語る?」

睨みつける。


「その手で、魔界滅ぼしたんだろ?」

一歩。


「笑いながら」

一歩。


「命踏みにじりながら」

一歩。


「何もない顔で」

黒炎が、膨れ上がる。


「今度は、ユキノにまで手ぇ出すってのか!!」


――ゴォッ!!

黒炎のブレスが、放たれる。

一直線に、ドレイクへ。


だが。

「……甘い」

風が、渦を巻く。


――ズァァァッ!!

黒炎が、散る。

かき消される。

火と風が、ぶつかり合い。

空間そのものが、歪む。



(おい……今、最大火力出したんだけど)

掻き消された黒炎を見て。

エディルの思考が、一瞬止まる。



次の瞬間。

「鬱陶しい炎だな」


ドレイクの足元に、風が集まる。

――消える。

一瞬で、距離を詰められる。


「――ッ!!」

腹に、叩き込まれる一撃。


今度は。

魔法が、乗っている。

内側から、抉られるような衝撃。


「……ぐあっ!!」

膝から、崩れ落ちる。

息が、できない。

そのまま。

顔を、掴まれる。

強引に、持ち上げられる。


「その面……」

低く、呟く。


「潰してやる」

指に、力が込もる。

骨が、軋む。

視界が、歪む。


(……ああ)

(死ぬのか)

ゆっくりと。

意識が、遠のいていく。



――その頃。

ユキノ。

冷たい床。

同じように、拘束された身体。


だが。

空気が、違う。


(……気持ち悪い)


視線を感じる。

三人。

収容所の職員。

ニヤついた顔で、こちらを見ている。


(なんなの……こいつら)

嫌悪が、込み上げる。


「なあ」

一人が、口を開く。

「あんた、あの男の女か?」


「……は?」

即答。

「違う」


はっきりと。

迷いなく。

その瞬間。


三人が、笑う。

「……じゃあいいか」

「好きにしていいって言われてるしな」


空気が、変わる。


「え、どういう――」

言い終わる前に。

距離が、詰められる。


「――っ!」

顔を背ける。

だが、逃げ場はない。

押さえつけられる。


(やだ)

(無理)

(気持ち悪い)


身体を捩る。

だが、拘束は外れない。


笑い声。

近い。

息がかかる。


「ねえ」

別の男が、髪を掴む。

無理やり、顔を上げさせられる。


「何したい?」

歪んだ笑み。


(やめて)

(来ないで)

(触らないで)


心の中で、叫ぶ。

声にならない。


(助けて)

(助けて)

(助けて)


涙が、滲む。




一方、そんなことは、知らないエディル。

意識が、ゆっくりと沈んでいく。

視界が、暗くなる。

音が、遠ざかる。



――走馬灯。

魔界での記憶。

笑っていた日々。

何も起きていなかった頃。

平和だった時間。


そして。

すべてが、壊された日。

焼け落ちた大地。

奪われた命。

消えない、屈辱と怒り。


(……)

最後に、浮かぶのは。

ユキノ。

笑った顔、怒った顔、呆れた顔、復讐を誓った真剣な顔。


(……俺が、死んだら)

(ユキノも――死ぬのか)


胸が、締め付けられる。

だが。

次の瞬間。


(……いや)

(死ぬのは、勘弁だ)


思考が、反転する。


(復讐、終わってねえ)

(……ユキノ、守れてねえ)


瞼の奥で、何かが弾ける。

止まりかけていた意識が、引き戻される。


――ドクン。

心臓が、強く鳴る。


――ドクン。

もう一度。

身体の奥から、何かが溢れる。


魔力。

かつて。

魔界にいた頃と、同じ感覚。


「……なんだ」

ドレイクが、眉をひそめる。

「まだ、生きてたのか」

その手の力が、わずかに緩む。


だが。

次の瞬間。

エディルの身体が、変わる。


傷が、塞がる。

歪んだ骨が、元に戻る。

肉が、再生する。

溢れ出す、魔力。

空気が、震える。


「……っ」

ドレイクの目が、わずかに細まる。

異変を、察知する。

エディルの身体から。

抑えきれない何かが、噴き出す。


そして。

――角。

頭に、二本。


――翼。

背中から、黒い翼が広がる。

空間を、覆うように。

影が、落ちる。


それは。

もはや。

先ほどのエディルではなかった。




ドレイクが、わずかにたじろぐ。

目の前の存在が。

さっきまでのエディルではないと、本能が告げる。


だが。

次の瞬間。

エディルが、口を開く。


「……おい」

低い声。

「いつまで、顔掴んでんだコラ」

空気が、反転する。


――ドンッ!!

至近距離。

躊躇のない蹴り。


「――っ!」

ドレイクの身体が、浮く。

ガードは、間に合わない。


そのまま――

一直線に、吹き飛ぶ。

――バキィッ!!

壁に、叩きつけられる。

亀裂が、走る。

粉塵が、舞う。

静寂。


その中心で。

エディルは、ゆっくりと手を払う。

掴まれていた顔を、振り払うように。


「……俺の、唯一の長所なんだけど」

一歩、踏み出す。

「台無しにするのやめてくれる?」


黒い翼が、わずかに揺れる。

影が、伸びる。

目が、光る。

その姿は――

悪魔。

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