壊れず、続きますように
一方、エディルとユキノ。
人目を避けるため、古びた宿屋に身を潜めていた。
軋む床。
薄暗い部屋。
最低限の設備だけが整った、簡素な空間。
「……なあ、俺思うんだけど」
ベッドに寝転びながら、エディルが口を開く。
「どうしたの?」
ユキノは荷物を整理しながら、手を止めずに聞き返す。
「勇者たちってさ」
少し間を置く。
「本当に“選ばれた人間”なんじゃねえか?」
「……は?」
ユキノが顔を上げる。
エディルは、そのまま続ける。
「前に俺、この話は否定した」
「くだらねえって思ってた」
「でも」
「アイリーンの時、改めて感じた」
「あいつらの魔力……普通じゃねえ」
「何か裏があるとしか思えねえ」
思い出す。
あの異様な力。
わずかに、身体が強張る。
「……魔界もそうだ」
「たった五人で、一気に壊滅させた」
「あんなの、ありえねえ」
拳を握る。
「何と引き換えにしてる?」
「何が、あいつらの力の“動力源”なんだ?」
静かに。
だが確実に、疑念を積み上げる。
「……仮に、力が増幅されてるとしても」
「使い方が、おかしい」
「……あれは、間違ってる」
最後は、少しだけ声が弱くなる。
「……そうだね」
ユキノも、静かに頷く。
短い同意。
だが、それで十分だった。
エディルは、しばらく黙る。
天井を見たまま。
そして、ぽつりと。
「……人を、人とも思わねえ」
「そのためなら、平気で命を踏み台にする」
言葉が、少しずつ重くなる。
「そんな連中が、許されていいわけねえ」
一度、目を閉じる。
「特別な奴ら?」
鼻で、笑う。
「上等だ」
ゆっくりと、身体を起こす。
「俺が――叩き潰す」
低く。
確かに、言い切る。
その瞳には、迷いがない。
エディルは、改めて誓う。
勇者一行への――復讐を。
「……私だって、いるからね?」
ユキノが、まっすぐに言う。
「いつも守ってもらってばかりだけど」
「私だって――戦える」
その目に、迷いはない。
静かに、燃えている。
(……いや)
エディルは、心の中で否定する。
(守ってもらってるのは――俺の方だ)
(俺一人だったら、とっくに死んでた)
(ユキノがいたから、ここまで来れた)
言葉には、できない。
できるはずがない。
だから。
「女を庇うのが俺の信条だからな。大丈夫だ」
「でた、信条理論」
「女に対しては信条多くなるのは性分だ」
「一つに絞ったら?」
いつもの軽口。
ユキノが、くすっと笑う。
その笑顔を、横目で見る。
(……本当に)
(お前だけは、失いたくない)
(絶対に、死なせない)
(何があっても、守る)
エディルは、そっとタバコに火をつける。
「ねえ、同室でタバコやめて」
「うるせえ。寝る前に吸うのも信条だ」
「もう何でもありなの?」
向かいのベッド。
ユキノが「くさい!」と騒ぐ。
それでも。
この時間は、穏やかで。
――平和だった。
煙を吐く。
ゆっくりと、天井を見上げる。
(……どうか)
(これが)
(壊れず、続きますように)
静かに。
誰にも聞こえない声で。
エディルは、そう願った。




