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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
聖職者 アイリーン
59/78

それでも戦えるかい?

アイリーン撃破後の、明朝。

王都。

勇者一行の部屋。


ドレイクは、ゆっくりと目を覚ます。

(……今日は、俺一人か)

天井を見上げながら、ぼんやりと思う。


(レックスとマリンは、二日前から合同任務)

(……アイリーンは――)

少しだけ、記憶を辿る。

(昨日の夕方から、やけに楽しそうに出ていったな)


ベッドから起き上がる。

肩を回す。

(……だりぃ)


今日の予定を思い出す。

書類仕事。

王都兵とのミーティング。

(クソつまんねえな)


露骨に顔が歪む。

戦うことは好きだ。

だが、こういう“仕事”は性に合わない。


その時。

バンッ!!

扉が、乱暴に開かれる。

「ドレイク様!!」


「うわ、なんだよ。びっくりすんだろ」

反射的に眉をひそめる。


だが。

入ってきた王都兵の様子で、すぐに察する。

息を切らし。

顔色が、明らかにおかしい。


(……ただ事じゃねえな)

文句は、飲み込む。

「……なんかあったのか?」

低く、問いかける。


「それが……アイリーン様が……」

言葉が、途切れる。


――嫌な予感。

「はっきり言え」


「……死亡、されました」


空気が、止まる。

「……は?」


一瞬。

理解が、追いつかない。


「テンガン地区の教会で……」

「信者の一人の女と、男に……」

そこまで聞いて。

ドレイクの思考が、止まる。


(……アイリーンが、死んだ?)


あの女が?

ありえねえ。

あいつは――


「……チッ」

小さく、舌打ち。

感情が、整理できない。

だが。

身体は、もう動いていた。


「場所は」

「テンガン地区の教会です!」

「行くぞ」

迷いはない。

ドレイクは、そのまま部屋を飛び出す。


向かう先は――

テンガン地区の教会。



ドレイクは、部下と共に馬へ跨る。

向かうは――テンガン地区。


王都からの距離。

どれだけ急いでも、四時間はかかる。

それでも。

手綱を強く握る。


「行くぞ」

短く言い、馬を走らせる。

風が、頬を打つ。

景色が、流れる。

だが――

頭の中は、止まったままだった。


(……嘘だろ)

(嘘って、言えよ)

(あいつが、殺されるはずねえだろ)

(しかも……信者に?)


信じない。

信じたくない。

ただ、前だけを見て走る。

やがて。

テンガン地区へと辿り着く。


相変わらずの、辺鄙な土地。

人の気配も薄い。

山を登る。

その先に――教会。


見た限り。

異常は、ない。

「……やっぱ嘘だな」

ドレイクは、小さく呟く。

胸の奥に、わずかな安堵。


だが。

「こちらです」

先に到着していた部下が、低く言う。

そのまま案内される。


教会から、少し離れた場所。

広がる、土地。


――空気が違う。

足を踏み入れた瞬間。

焦げた匂いが、鼻を刺す。

地面は、黒く焼け爛れている。

草木は、ほとんど残っていない。

戦闘の跡。

それも――異常な規模の。


そして。

ぽっかりと空いた、大きな穴。

地面が、抉られている。

その奥。

わずかに見える――地下。

例の、空間。


ドレイクは、足を止める。

「……」

さっきまでの“嘘だ”という感覚が。

ゆっくりと、崩れていく。




「ドレイク!」

背後からの声。

振り返る。


――レックスとマリン。

「ドレイク、聞いたよね?」

レックスが、慎重に言葉を選ぶ。


だが。

ドレイクは、何も答えない。

ただ、暗い顔で前を見たまま。


その様子に、マリンが小さくため息をつく。

「……こんなとこで男なんて漁ってるからよ」

地面の穴を指差し、吐き捨てる。


その瞬間。

「うるせえよ!!さっきから!!」

ドレイクが、声を荒げる。


「あら?本当のことじゃない」

マリンは、微塵も怯まない。

「こんなとこで男囲って」

「挙句の果てには殺されて」

「ほんと、バカみたい」


空気が、凍る。

「……てめえ、これ以上言ったら殺すぞ」

低い声。

ドレイクが、マリンの胸ぐらを掴む。


だが。

それでもマリンは、笑う。

「そうねえ」

「アンタは選ばれなかったもんね?」

くすくすと。

わざとらしく。

「選ばれてたら」

「とっくにアイリーンに殺されてるしねぇ?」


ドレイクの手に、力がこもる。

「……うるせえよ」

静かに。

だが、確実に怒りを含んだ声。


「まあ、アイリーンも変なことした報いね」

マリンが、肩をすくめる。


その一言で。

ドレイクの目が、変わる。

「……お前も、似たようなことしてんだろ」


「は?」

マリンの眉が、ぴくりと動く。

「何言ってんの?」

「アンタだって――」


言い終わる前に。

ドレイクが、拳を振り上げる。

「……っ!」


だが、その瞬間。

「二人とも、やめろ!!」

レックスが、声を張り上げる。

強引に、割って入る。

掴まれていた胸ぐらが、離れる。

張り詰めた空気だけが、残る。




「……大声出して悪かった」

レックスが、少しだけ視線を落とす。

「でも」

周囲を見渡しながら、続ける。

「こんなところで揉めてる場合じゃない」


「……わかった」

マリンが短く返す。

「……あぁ」

ドレイクも、それ以上は言わない。


二人が引いたのを確認して、レックスは小さく息を吐く。


「状況を整理しよう」

三人で、改めて周囲を見る。

焼け焦げた地面。

広範囲に渡る破壊。

ただの戦闘じゃない。


「……これ、普通の炎じゃないわね」

マリンが、冷静に呟く。


「ああ」

レックスが頷く。


「教会にいた信者の一人から話を聞いた」

「深夜に戦闘があったらしい」

「黒炎と――氷の魔法」


「……またかよ」

ドレイクが、低く吐き捨てる。


レックスは続ける。

「目撃情報もある」

「銀髪の女と、黒髪の男」

「女は“サクラ”と名乗っていた」

「男は……“エディル”」

一瞬、沈黙。


「サクラって誰?」

マリンが眉をひそめる。

「ユキノなら知ってるけど…」

「それに黒髪のエディルって……誰よ」


レックスが、ゆっくりと口を開く。

「サクラ……おそらく、ユキノだ」

「偽名を使っていたんだろう」

「まさかと思って、さっきの信者に手配書を見せた」

「顔とか全体は隠していたらしいが……」

「目の雰囲気とかが一致していたらしい」


「……へえ」

マリンが鼻で笑う。

「あの女、やるじゃない」

ぶっきらぼうに言い捨てる。


そして。

「問題はもう一人の方だな」

レックスの声が、わずかに重くなる。

「エディル……」


一拍、置く。

「俺の推測だが――」

「そいつは、魔族の生き残りだ」



空気が、変わる。

「魔族って……あの時、全員殺したはずだろ」

ドレイクが、低く言う。


レックスは、頷く。

「確かに、あの時は殺した」

「……ただ」

わずかに視線を落とす。


「一人だけ――最初に相対した炎の魔族」

「妙にしぶとかった奴がいた」

「……そいつが、生きていた可能性はある」

「何らかの形で生き延びて」

「今、俺たちに復讐を始めている――」

静かに、言い切る。


「経緯は分からない」

「だが――」

「ユキノと出会い」

「故郷を奪われた者同士で組んだと考えれば、辻褄は合う」

「……俺たちを、殺しに来る」



沈黙。

数秒。

「……上等じゃねえか」

ドレイクが、口を開く。

拳を鳴らす。

「魔族だろうが何だろうが」

「来るなら相手してやるよ」

その目には、迷いがない。


レックスは、わずかに目を細める。

「……それと、もう一つ」

「気になることがある」

二人の視線が向く。


「ノヴァも、アイリーンも」

「……みんな、自分の“故郷”で戦闘している」


「……つまり」

「奴ら、俺たちのことを調べている可能性がある」

空気が、わずかに重くなる。


「過去」

「経歴」

「……そして」

「俺たちの“正体”をいずれ知るだろう」

静かに、言い切る。


「……それでも、戦えるかい?」


沈黙。

マリンも。

ドレイクも。

言葉を失う。

だが。


「……別に」

マリンが、肩をすくめる。

「それでも、返り討ちにするわよ」

冷たく、言い放つ。


「……そうだな」

ドレイクも続く。

「関係ねえ」

「王都に逆らう奴は、全部潰す」

決意。

迷いはない。


レックスは、二人を見て。

ほんのわずかに、笑う。

「……そうだね」


そして。

勇者一行は。

エディルとユキノを迎え撃つため、

動き出す。

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