私も愛を与えたい
愛の余韻に、浸っていた。
胸の奥が、満たされている。
(これで……ずっと一緒)
そう、信じていた。
「……アイリーン、何してるの?」
後ろから、声。
振り返る。
そこにいたのは――女性。
この孤児院の職員。
自分を拾い、育ててくれ、先生と慕っていた。
この世界での“母親”のような存在。
「あなた……今、何をしたの?」
目の前の光景を見て、言葉を失っている。
理解が、追いついていない。
「……先生」
アイリーンは、静かに口を開く。
その表情に、迷いはなかった。
「私を、愛してくれてありがとう」
その瞬間。
再び、“それ”が現れる。
――愛牢。
逃げる間もなく。
抗う間もなく。
女性の姿は、その中へと消えた。
静寂。
――教会。
闇夜の礼拝堂。
一人、佇む。
(もっと、愛が欲しい)
(愛を、分け与えたい)
(みんなで、幸せになりたい)
それは、祈りのようで。
願いのようで。
そして――
歪んだ決意だった。
(……なら)
(ここを、教会として再始動しよう)
居場所のない者を、救う。
愛を、与える。
共に生活し。
役割を与え。
存在を肯定する。
かつて、自分が与えられたものを――
そのまま、他者へ。
だが。
そこには、決定的な違いがあった。
いつしか。
アイリーンは、教祖として崇められるようになる。
救われた者たちは、彼女に依存し。
彼女だけが、愛を与える存在となる。
選ばれた男たちは。
やがて、逃げられなくなる。
閉じ込められ。
壊され。
それでもなお――
「愛されている」と、思い込まされる。
時には、暴力で。
時には、優しさで。
依存を深めさせる。
(これが、愛)
アイリーンは、それを疑わない。
一度も。
その歪んだ愛情は。
やがて、膨大な魔力へと変わり。
聖職者として。
勇者一行の一人として。
この世界に、迎え入れられることになる。
――そして、現在。
「ね、愛牢」
アイリーンが、優しくその表面を撫でる。
まるで、大切なものを扱うように。
愛おしむように。
「永遠の愛を、与えてあげて」
静かに、言い放つ。
その瞬間。
愛牢が――動く。
一直線に、エディルへ。
棺の口が、ゆっくりと開く。
内側には、無数の棘。
逃げ場のない、終わり。
(……おい)
エディルは、動けない。
疲労が、限界だった。
身体が、言うことを聞かない。
迫る、愛牢。
避けられない。
――その時。
「エディル危ない!!」
ユキノの声が、響く。
次の瞬間。
強い衝撃。
視界が、揺れる。
エディルは、突き飛ばされていた。
「――っ!」
地面に転がる。
顔を上げる。
そこにいたのは――
愛牢に、飲み込まれていくユキノの姿。
「ユキノ……」
声が、震える。
届かない。
間に合わない。
完全に、閉じる。
鈍い音が、響く。
静寂。
「……あらら」
アイリーンが、くすりと笑う。
「そんなに急がなくても」
ゆっくりと、エディルを見下ろす。
「皆、ちゃんと愛してあげますよ?」
その笑顔は、どこまでも穏やかで。
――どこまでも、狂っていた。




