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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
聖職者 アイリーン
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アイリーンという女

――愛牢。

アイリーンの人器、アイアン・メイデンの名。

人器は、持ち主の望みや思想、自身のルーツを映し出す。

――この禍々しい形が生まれたのには、理由があった。





「ごめん、別れて」

「……なんで?」

それは、あまりにもありふれた言葉から始まった。


生前のアイリーン。

まだ中学生ほどの年頃。

黒髪の、どこにでもいるような少女だった。


ただ――

その“愛し方”だけが、少し違っていた。


「なんでって……」

男子は、面倒そうに頭をかく。

「メール多いし、毎日電話とか……正直キツいんだよ」


「好きなら、毎日声聞きたいじゃん」

アイリーンは、当然のように返す。

「連絡だって、したいもん」

悪気は、ない。

むしろそれが“普通”だと、本気で思っている。



「だからさ!」

男子の声が、少し荒くなる。

「俺だって塾とか部活あんの!」

「全部無視してんじゃん!」

「それに毎日弁当とか……」

言葉を詰まらせる。

「もういいって言ってんのに、それも無視して……」

積み重なっていたものが、溢れ出す。

「……お前、重すぎ」

はっきりと、言い切った。


「本当に無理」

そのまま、振り返ることなく歩き去る。


――足音だけが、遠ざかっていく。


残されたアイリーンは、ただ立ち尽くしていた。

(……何が、ダメなの?)

理解できない。

“好き”だから、やっているだけなのに。

それの、どこがいけないのか――

分からなかった。




それから――

彼女は、同じことを繰り返した。

好きだから、連絡する。

好きだから、会いたい。

好きだから、尽くす。

ただ、それだけ。


――なのに。

返ってくるのは、決まって拒絶だった。


「重い」

「しつこい」

「無理」


その言葉を、何度も、何度も浴びせられる。

気づけば。

アイリーンの噂は、静かに広がっていた。


――“あの子はやばい”

誰も近づかない。

男子も、女子も。

目が合えば逸らされ、

話しかけようとすれば、距離を取られる。

教室の中にいても――

そこに“居場所”はなかった。


(……何がダメなの)

(人を愛することが、そんなに罪なの?)


分からない。

誰も、教えてくれない。




月日は流れ――

高校入学。

環境を変えれば、何かが変わるかもしれない。

そう思ったわけではない。

ただ。

あの場所に、もう居たくなかった。

だから、知り合いが一人もいない高校を選んだ。

過去を、切り離すように。


(……ここなら)

(やり直せるかもしれない)


胸の奥で、静かにそう思う。

――だが。

彼女はまだ、“何も分かっていなかった”。





高校に入学して、しばらく経った頃。

「入学式で見たときから、一目ぼれしました……」

突然の言葉だった。

「俺と、付き合ってください!」

目の前の男子は、真っ直ぐにそう告げる。


――告白。

それも、アイリーンからではなく。

初めてだった。

いつもは、自分から想いを伝えては――拒絶される側だった。


だからこそ。

その言葉は、あまりにも新鮮で。

そして、嬉しかった。


相手は別のクラスの男子。

顔と名前を、かろうじて知っている程度。

それでもいい。

――“自分を好きだと言ってくれる人”。

それだけで、十分だった。


「……私でよければ、お願いします」

小さく頷く。

その瞬間。

胸の奥に、あたたかいものが広がった。


(……やっと)

(私も、普通に……)

そんな淡い期待を、抱いた。

――こうして。

アイリーンは、高校生活でやり直すことが―




出来なかった。





それからも、アイリーンは変わらなかった。

相手の男子に、尽くす日々。


これまでなら――

その重さに耐えきれず、すぐに別れを告げられていた。

だが。

今回の相手は、違った。

少し無骨で、不器用で。

それでも――拒絶しなかった。


手をつなぐ。

抱きしめる。

言葉にして、想いを伝える。

そして、キス。

恋人として触れ合うことが、

当たり前の日常になっていく。


(……ちゃんと、愛せてる)

アイリーンは、そう思っていた。


それから、しばらくして。

男子の家へ遊びに行く。

家には、誰もいない。

部屋には、二人きり。

「……今日、いい?」

男子は、少しだけ顔を赤らめて言った。


その意味は――すぐに分かった。

胸が、強く脈打つ。

初めてのこと。

怖い。


でも――

(この人を、ちゃんと愛したい)

その想いが、恐れを上回る。

「……いいよ」

小さく頷く。

距離が、ゼロになる。

触れ合いが、深くなっていく。

二人は、重なった。

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