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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
聖職者 アイリーン
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どこだっていい。

翌日。

差し込む日の光で、ユキノは目を覚ました。

だが、それは朝ではない。

すでに昼前だった。


(こんなに寝たの、久しぶりかも)


普段は早起きのユキノだが、前日の激闘の影響は大きい。

身体のあちこちに残る痛みが、それを物語っていた。

ゆっくりと身を起こし、ふと隣を見る。


――エディルの姿がない。


(……どこ行ったの?)

わずかな不安を抱えたまま、ユキノは洞窟の外へ出た。


すると、入口付近で――

項垂れるように座り込んでいるエディルの姿を見つける。


「……どうしたの?」

ユキノは近づきながら、少し心配そうに声をかけた。


その声に気づき、エディルはゆっくり顔を上げる。

「……タバコがない」

「は?」

間の抜けた声が、思わず漏れる。


「俺の朝はタバコって決めてんのに……くそ……」

本気で落ち込んでいる様子だった。


(ほんとにこいつは……)

ユキノは小さくため息をつく。


昨日の戦闘。

そして、自らを魔族だと明かしたあの時の神妙な表情。

自分とはまるで違う世界で生きてきた存在なのだと、はっきりと思い知らされたばかりなのに――

現実はこれだ。


(……昨日のエディルはどこへ行ったの)

呆れながらも、ユキノはエディルの手を取り、無理やり立ち上がらせる。


「そんなこと言ってないで、早く行くよ」

「タバコは?」

「いいから早く!」

有無を言わせず引っ張るユキノ。

エディルは不満げな顔のまま、それに引きずられるように歩き出した。

こうして二人は、再び歩き出す。

――次の勇者一行を探すための旅を。


道中、エディルがふと口を開く。


「次はどうすんの?」

「次はね……」


ユキノは足を止め、地図を広げる。

少し考えたあと、指で一点を示した。

「ここからだと……テンガン地区が近いかな」

「なんだそこ」

エディルは興味なさげに返す。


ユキノは続けて、プロフィール表を広げた。

「ほら。この“アイリーン”って人の出身地らしいよ」

「……ほう」

その瞬間、エディルの口元がわずかに歪む。


「なんで笑ってんの」

ユキノがじとっと睨む。

「可愛い女だから」

即答だった。


「……ほんとあんた馬鹿」

呆れた声が落ちる。

「……そんなこと言って、どうせ復讐するんでしょ?

 目的、忘れてない?」

「忘れるもんか! だけどな――」

エディルは胸を張る。


「俺、女には弱い。本当に弱い」

清々しいほどの開き直りだった。

ユキノは何も言わず、視線を逸らす。

(もういいや、こいつ……)


そんな空気を感じ取ったのか、エディルはニヤつきながら距離を詰める。

「……もしかして、嫉妬?」


次の瞬間。

ユキノの拳が、エディルの腹にめり込んだ。

声にならない悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちるエディル。

地面の上でのたうち回る。

それを見下ろしながら、ユキノは冷たく言い放った。


「ふざけたこと言ったら、次は顔面だぞ」

「……もう二度といいません……」

かすれた声で、エディルはそう答えた。

そんなやり取りを経て。

二人は、テンガン地区へと歩みを進める。


テンガン地区へ向かう道中。

ユキノはお尋ね者という立場上、人目を避けるよう慎重に進んでいた。

自然と足を運ぶのは、ならず者たちが集まる闇市や酒場。

そこで物資や衣類を調達していく。


そんな折――

何気ない会話が、耳に入った。

「そういや、例の教会ってお前行ったことあるか?」

「アイリーン様の管轄してるとこだろ? あるぞ。飯もらいに行ったら、めちゃくちゃご馳走してくれた」

「本当に?」

「普通に美味かったぞ? だからなんだよ」

「いや……あそこの教会、やばいって噂あるぞ」

「はあ? どんな噂だよ」

「誰でも訪れれば助けてくれるらしいけど――その代わり、男は無事じゃ済まないって」


一瞬の沈黙。

「……なんだそれ。俺、こうして普通に生きてるけど?」

二人は顔を見合わせ、軽く笑い合う。


そのやり取りを、エディルは横目で捉えていた。

(……なんだそれ)

表情は変えず、しかし確かに――耳を傾ける。


「どんな目に遭わされるのか、見てみたいなー」

「ガハハ、違いねえ!」

男たちは軽口を叩き合い、笑い声を響かせていた。

その輪に、エディルがさりげなく入り込む。


「なあ。その教会って、どこにあんの?」

「あ? なんだお前」

訝しげな視線が向けられる。


だが、エディルは気にした様子もなく肩をすくめた。

「……俺、仕事してねえし」

「明日食うもんにも困ってんだよ」

軽い調子で続ける。

「施しもらえるなら、行きてえじゃん」


その言葉に、もう一人の男がくくっと笑った。

「まあまあ、いいじゃねえか」

そしてエディルを上から下まで眺め、にやりと口元を歪める。

「だけどな、兄ちゃん」

「確かにあそこは、どんな奴でも受け入れてくれるが……」

少しだけ声を落とす。


「お前みたいな“顔のいい奴”は、気をつけろよ?」

そのまま、教会の場所を簡単に教えた。


「……へえ、ありがと」

軽く手を挙げ、エディルはその場を離れる。

(教会、か)

歩きながら、ふと考える。

(魔族が聖域に入っていいのか?)

だが、すぐにどうでもよさそうに息を吐いた。


(……まあいい)

(勇者の一人を殺せるなら、どこだって同じだ)

思考を切り替え、足を速める。


そして――

少し離れた場所で待つユキノのもとへ、軽く駆け寄っていった。

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