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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
弓士 ノヴァ
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教えてよ

二人は歩き続け――

気づけば、沿岸沿いの洞窟へとたどり着いていた。

辺りは、すっかり暗い。

波の音だけが、静かに響いている。


「……今日は、ここでいいか」

「うん」


簡単な野宿。

それでも、今は十分だった。


「これでよし」

「……ありがとう」

エディルは、ユキノの足に包帯を巻いていた。

元から持っていた応急セット。


手つきは少し雑だが――

しっかりと固定されている。


「……エディルこそ、大丈夫?」

「俺は平気だっての」

「服、血まみれだよ?」

「これくらい大したこと――あ!こら!」


ユキノが、無言でエディルの服をめくる。

露わになる傷。

完全には治っていないが――

止血はされており、ゆっくりと再生している。


(……やっぱり、魔族だから)

ユキノは、内心で驚く。

だが表情には出さない。


その一方で。

エディルの顔が、じわじわと赤くなる。

「ユキノ……」

「まだ俺たち、早いって……」

「しかも、こんな外で……」

完全に勘違いである。


「……は?」

次の瞬間。


ゴンッ

拳骨。


「痛っ!!」

「何言ってんのあんた」

ユキノは呆れたようにため息をつく。

エディルは頭を押さえながら、むくれる。

だが。

どこか、安心したようにも見えた。



少し、場が和らいだところで。

ユキノは、ふと思う。


(……魔族、なんだよね)

(いや、自分で言ってたし……)

聞くべきか。

聞かないべきか。

タイミングを、測る。


その様子を――

見透かしたように。

「聞きてえんだろ」

エディルが、ぽつりと呟く。

「魔族について」


ユキノが、少しだけ目を見開く。

「……言うって約束したからな」

「教える」


エディルは、視線を遠くへ向ける。

波の音が、静かに響く。


「俺は、魔界出身だ」

淡々と、語り始める。

「魔界って聞くと、怖い場所って思うだろ」

「まあ、実際そういう奴もいるけどな」

少しだけ、口元が緩む。

「でも、基本は普通だ」

「いろんな種族がいて」

「それぞれ、勝手に生きてる」

「……平和だったよ」


その言葉に。

ほんのわずかに、重さが滲む。


「俺は“極炎魔族”」

「親父は王で――イフリート」

「その側近で、俺の執事みたいなやつがいてな」

「元堕天使のジュラってやつ」

「で、一応俺が王子」

軽く肩をすくめる。


「周りには、兵とか、従属とか」

「いろんな魔族がいてさ」

「……まあ、普通に暮らしてた」

一瞬、言葉が途切れる。


「でも、ある日」

空気が、変わる。

「勇者一行が来た」

短く。

「全部、壊された」

波の音だけが、残る。

「だから俺は――」

「復讐するために、人間界に来た」

そこまで話すと。

エディルは、ふっと息を吐く。


「……ってことで」

急に、軽い口調に戻る。

「本当は立派な角もあるし」

「かっこいい翼もあるし」

「魔力だって、バリバリあったのに」

「今はこのザマってわけ」

肩をすくめて、笑う。


「……そうなんだ」

ユキノは、小さく頷く。

(……変な人なのに)

(こんな、重い過去が……)


普段のエディル。

軽くて、ふざけてて、どうしようもない男。

だが。

語られた事実は、あまりにも重い。

そのギャップに。

少しだけ、戸惑う。


エディルは、その空気を察したのか。

わざとらしく肩をすくめる。

「まあ王子って言ってもさ」

「俺、ぐうたら王子だから」

空気を壊すように、軽く言う。


「それはわかる」

ユキノが、くすっと笑う。

少しだけ。

空気が、緩む。


「いつも親父に働けって怒られるし」

「ジュラに怠けてたら拳骨食らうし」

「王子に対して失礼だと思わない?」


「それは殴られて当然だと思うよ」

即答。


「ひどくね?」

エディルが、あちゃーと笑う。

だがその笑いは。

どこか、救われたようでもあった。


一拍。

エディルは、視線をユキノへ向ける。

「……お前の話も、聞かせてよ」



ユキノも、ゆっくりと口を開く。

「私は……アルディス山の集落で暮らしてた」

小さな村。

山の中。

「両親がいて」

「友達もいて」

少しだけ、視線を落とす。

「近所の人たちも、みんな優しくて」

穏やかな時間。

当たり前の日常。


「……それと」

一瞬、言葉を選ぶ。

「ハルキっていう、彼氏がいた」

「おい」

エディルが、即座に口を挟む。


「そいつの話は聞きたくない」

「別にいいでしょ?」

ユキノは呆れたように返す。


「俺は嫌だ」

ぶっきらぼうに言うエディル。


ユキノは、無視して続ける。

「婚約も決まってて」

「……結婚するはずだった」


静かに。

「でも、ある日」

空気が、少し冷える。

「勇者一行の命だって」

「一方的に告げられて」

「そのまま、王都に連れて行かれた」

「ハルキにも」

「両親にも」

「……何も言えないまま」

言葉が、少しずつ重くなる。


「王都に着いてから」

「婚約だって聞かされて」

「……逃げた」

「その先で、エディルに会った」


一瞬。

ほんのわずかに、空気が和らぐ。

だが。

すぐに。

沈む。


「……その後は」

言葉が、途切れる。

波の音だけが響く。

そして。

ぽつりと。

「みんな、死んじゃったね」


「……そうだな」

エディルは、静かに返す。


二人とも。

勇者一行によって。

故郷を、奪われた。

言葉は少ない。

だが。

その沈黙は、重い。

波の音だけが、響く。


やがて。

エディルが、口を開く。

「この世界は、おかしい」

ぽつりと。

だが、はっきりと。


「どうして」

拳を、強く握る。

「他人の命を、何とも思わねえ奴が」

「英雄なんだ」


一拍。

「魔界だけじゃねえ」

「同じ世界の人間のことまでだ」

「……おかしい」

低く、吐き捨てる。


ユキノも、小さく頷く。

「……本当にね」

「おかしいこと、だらけ」


同じ温度。

同じ感情。

二人の中で。

何かが、重なる。

その空気を、少しだけ崩すように。


「……おかしいといえば」

エディルが、視線を上げる。

「あのブスの力だ」


「……ノヴァ?」

「そう」

「年端もいかねえ人間が」

「扱えるもんじゃねえだろ、あれ」

思い出す。

あの、異常な威力。


「“人器”……とか言ってたな」

エディルは、ユキノを見る。

「お前も、持ってんだろ」

「人器ってあそこまで強くなれるのか?」

「人器について教えてくれ」

エディルはいつもの軽薄な様子ではない。

真剣にユキノに問いかける。

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