お前には一生わからない
(……は?)
(なんで)
(俺……負けたの?)
(死に損ないに?)
ノヴァは、理解できなかった。
優位だったはずの戦闘。
このまま行けば、手柄は自分のものだった。
なのに。
氷の女に邪魔され。
死に損ないの魔族に。
腹を貫かれている。
(……どうして)
そのまま。
二人の身体は――地面へと墜落した。
「……っはぁ……っ、はぁ……」
エディルも、限界だった。
互いに、満身創痍。
周囲には、焼け焦げた匂いと。
破壊された木々の残骸。
戦いの跡だけが、残っている。
「……おかしいだろ」
ノヴァが、地面に突っ伏したまま呟く。
「俺は……神に選ばれたんだ……!」
「なんで……お前みたいな」
「死に損ないに……」
「せっかく……手に入れたのに……!!」
弱い声。
だが。
悔しさだけは、滲んでいた。
エディルは、それを聞いて。
静かに、怒りを積み上げる。
「……神に選ばれたなら」
一歩、近づく。
「魔界、壊していいのか」
「自分たちの住む場所まで」
「壊そうとしていいのか」
低く、問いかける。
ノヴァは、かすかに笑う。
「……仕方ないだろ」
「弱い奴が悪い」
「力を得られない奴は」
「いずれ死ぬんだよ」
その言葉に。
エディルの表情が、完全に消える。
「……神に選ばれた、か」
「何か知らねえけどな」
わずかに、息を吐く。
「そんな物騒なこと言う神なんて」
「いねえだろ」
「……だから何」
ノヴァが、返す。
「お前には、一生分かんねえよ」
沈黙。
エディルは、手に魔力を込める。
「あぁ」
「分かんねえな」
一歩、踏み出す。
「お前みたいなブスの言うことは」
――ドンッ
そのまま。
完全に、とどめを刺した。
(……神に選ばれた、ってなんだ)
エディルは、ぼんやりと思う。
人間を遥かに凌駕する力。
人器。
あの男の言葉。
疑問は、いくつも残る。
だが。
今は――
(……終わった)
それだけで、十分だった。
「……エディル!!」
振り返る。
ユキノが、足を引きずりながら近づいてくる。
その姿を見た瞬間。
エディルの表情が、いつもの軽薄さに戻る。
「わーん!痛かった!」
「見てこれ!めっちゃ痛いんだけど!?」
「はいはい」
「ユキノも大丈夫か?」
「なんとかね」
「……俺が手当してやろうか?」
一拍。
「……その、隅々まで」
「殴るぞ」
「申し訳ございませんでした」
いつものやり取り。
だが。
ほんの少しだけ。
空気が、柔らかい。
ユキノが、真面目な声で言う。
「これだけ騒いだら」
「そのうち王都兵、来るよ」
「……マジで?」
「うん」
短い沈黙。
「だから、とりあえず逃げないとね」
「そんなぁ……」
エディルが、肩を落とす。
満身創痍のまま。
二人は、ゆっくりと歩き出す。
支え合いながら。
その場を、離れる。
戦いは、終わった。
余韻に浸る時間すら、ない。
それでも。
二人の間には。
確かに、何かが残っていた。




