くたばれブス
(……なんだ、この威力)
エディルは、目を見開く。
(俺の魔具でも……こんな出力、出ねえぞ)
(馬鹿げてる……)
放たれた一撃。
その軌道上にあったものは――
すべて、消し飛んでいた。
木々も。
地面も。
空気すらも。
何も、残っていない。
(……これ、向きが違ってたら)
一歩、間違えれば。
孤児院どころか。
エグニスの街ごと――消えていた。
その現実に。
背筋が、冷える。
だが。
「うわ、俺下手くそ」
軽い声。
「やっぱ久しぶりに使うとダメだな」
「ちゃんと練習しないと」
あまりにも、軽い。
今の一撃が。
兵器どころか、災害レベルの破壊だったにも関わらず。
「……お前」
エディルが低く言う。
「俺はともかく――街が消えるぞ」
「そんなことしたら……」
「お前も森林破壊してるし、お相子じゃん」
即答。
「てか、マジで疲れる」
ノヴァはため息をつく。
「早くくたばってくれないかなぁ」
その言葉に。
エディルの中で。
怒りではない、別の感情が芽生える。
(……なんでだ)
(どうして、こんな……)
(命を奪うことに)
(何も思わないんだ……)
理解できない。
だからこそ。
怖い。
ノヴァは、構わず弓を引く。
二撃目。
ためらいは、ない。
「……次で終わらせる」
静かに。
淡々と。
再び、弦が引かれる。
――同刻。
ユキノ。
「な、なにこれ……」
痺れは、だいぶ引いていた。
だが――
目の前の光景が、それを忘れさせる。
森の一角が、消えている。
先ほど放たれた矢。
方向が違ったため直撃は免れたが――
その威力は、理解できた。
(……おかしい)
(エディルのブレスも、弱くなってる)
(このままじゃ――)
「死んじゃう……」
痛む足を引きずりながら。
ユキノは、歩き出す。
戦闘音。
焦げた匂い。
破壊の跡。
それらを辿るように。
「……くたばれよ」
ノヴァの声。
二撃目が、放たれる。
ヒュンッ
エディルへ、一直線。
(……避けろ)
エディルは、反射的に動く。
だが。
足が、重い。
「……っ!!」
直撃は避けた。
だが――
風圧だけで、肉が裂ける。
焼けるような痛みが、足を襲う。
(……二発目も、これかよ)
理解する。
まともに当たれば。
終わりだ。
それでも。
退かない。
(勝たなきゃ……)
信念だけで、立っている。
「これね」
ノヴァが、淡々と語る。
「簡単そうに見えるけど、結構疲れるの」
「当てれば終わりだけどさ」
一拍。
「拘束して連れて行かないといけないから」
「わざと当たらないようにしてんの」
「分かる?」
「めんどくさいんだよね、これ」
弓を引く。
「……もうこれで最後な」
空気が、張り詰める。
「早くくたばれよ、死に損ない」
エネルギーが、収束する。
先ほどとは比べ物にならない。
(……ここで、終わりかよ)
エディルの視界が、わずかに揺れる。
その時。
「……この辺、かな」
ユキノの声。
地面に、手をつく。
「……凍れ」
息を、吸う。
「お願い」
「エディル……!!」
次の瞬間。
地面が、震えた。
氷が、噴き上がる。
一気に。
空へ向かって。
巨大な氷塊が、形成される。
「エディル!!」
叫びが、響く。
「……なにこれ」
ノヴァが、初めて驚く。
だが、すぐに理解する。
(……あのユキノか)
(小賢しい)
足場が崩れる。
氷に押し上げられ――
ノヴァの身体が、宙に浮く。
(……まずい)
体勢が、崩れる。
バランスが、取れない。
その瞬間。
「――見つけた」
エディル。
一気に距離を詰める。
「やっと出てきやがったな、クソ野郎!!」
拳に、魔力を込める。
逃げ場はない。
「これで終わりだ!」
「ブスがよぉ!!」
振り抜く。
――ドンッ
鈍い衝撃。
ノヴァの腹に、拳が突き刺さる。




