サジタリウス
そこからは――簡単だった。
後方支援。
そんな立場は、関係なかった。
ノヴァは、前へ出る。
敵を見つける。
煽る。
怒らせる。
そして。
“力”を引き出す。
そのために。
命を奪うことすら、躊躇いはなかった。
相手は犯罪者。
罪人。
「市民のため」
「任務のため」
どんな理由でも、つけられる。
だが本質は違う。
(……楽しい)
ただ、それだけだった。
そうして。
他者の感情を糧に、力を膨らませ続けた結果。
ノヴァは、王都へ招集される。
そして――
勇者一行の一員となった。
だが。
エディルは、この事実を知らない。
勇者一行が。
全員、“転生者”であることも。
それが。
彼らだけの、秘密であることも。
――そして。
場面は、現在へ。
「クソが……どこにいやがる……!」
エディルは、荒く息を吐く。
魔力は削られ。
体力も限界に近い。
全身に汗。
傷は増え続ける。
迫り来る矢。
軌道を読んで踏み込むも――
当たらない。
位置も、掴めない。
「まだやんの?」
ノヴァの声。
退屈そうに。
「……当然だろ!!」
エディルが吠える。
一拍。
「……あのさ」
ノヴァが呟く。
「お前、しぶとすぎてさ」
「矢、切れたんだよね」
「……そりゃ良いことじゃねえか!」
エディルが強がる。
「……だから」
空気が、変わる。
「俺の人器で」
「お前を屈服させる」
ノヴァの手が、ゆっくりと掲げられる。
「――人器召喚」
空間が、歪む。
「出てこい」
「サジタリウス」
次の瞬間。
裂けた空間から――弓が現れる。
ノヴァの身長を超える巨大な弓。
黒と紫を基調としながら。
細部には、繊細な装飾。
まるで。
夜空に浮かぶ星座のように。
静かに、輝いていた。
「……これ使うの、久しぶりなんだけど」
「うまくいくかな?」
軽い口調。
だが。
空気は、重い。
ノヴァが弓を構える。
矢は、いらない。
自身のエネルギー。
それが、そのまま矢となる。
放たれる。
(……なんだ、これ)
エディルの本能が叫ぶ。
避ける。
間一髪。
だが――
風圧だけで、肌が裂ける。
「……っ!」
背後。
木々が。
一瞬で、消し飛ぶ。
衝撃。
破壊。
その軌跡に。
何も、残らない。




