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この世界はなんかおかしい  作者: 16時間
弓士 ノヴァ
40/78

ノヴァという男

弓士――ノヴァ。


表向きは、弓の名士。

孤児院で育ち、その才能を見出され、

猟友会で狩りを学び、やがて王都の護衛へ。

そして――勇者一行に選ばれた男。


だが。

それは、表の顔に過ぎない。

彼の本当の姿は――転生者。



生前。

彼は、家に引きこもる青年だった。

人と関わることが、苦手だった。

言葉が噛み合わない。

距離感が分からない。

気づけば、周囲と衝突していた。

やがて、人との関係に疲れ果て。

外に出ることをやめた。


代わりに手にしたのが――ゲーム。

FPS。

そこで、彼は才能を開花させる。

狙いは正確。

反応は速い。

判断は冷静。

圧倒的な実力。


だが――

口の悪さは変わらない。


「弱っ」

「それで撃ってんの?」

「動き読まれてんだよ」


相手の顔は見えない。

だからこそ、遠慮もない。

煽る。

叩き潰す。

勝つ。

それが、楽しかった。

現実ではできなかったこと。

人を圧倒すること。

一方的に、ねじ伏せること。

それを、彼は“遊び”として楽しんでいた。


だが――ある日。

ふとした気まぐれで、外に出た。

そして。

事故に遭い――

あっけなく、死んだ。


(……俺の人生、こんなもんか)

暗闇の中で、そう思った。


その時。

どこからか、声がした。

「――もう一度、生きてみないか」


(……いや、別にいい)

ノヴァは、素直にそう思った。

どうせ生きていても。

ゲームは楽しかった。


だが――

対人関係に悩まされる日々は、もうごめんだった。


(もういいだろ)

(終わりで)


だが。

声は、消えない。

「何が欲しい」

「どのように生きたい」

「本当にやり直さなくていいのか」


問いかけは、淡々としている。

感情はない。


だが――

確実に、核心を突いてくる。


(何が欲しい……)


ノヴァは、考えた。

認められたい。

承認されたい。

信頼されたい。

頭の中に、言葉が浮かぶ。

だが同時に。

それが、どこか遠いもののようにも感じていた。


(……でも)

(面倒くさいな)


言葉にしない、本音。

すると、声は続いた。


「ならば――」

「違う世界で生きてみろ」

「力を与えてやる」


わずかな間。

「良い人生を歩め」

それだけを告げて。

声は、消えた。



ノヴァは、目を覚ました。

見慣れない景色。

広がる自然。

どこまでも続く森。

ここは――アルマ地区。


(……なんだここ)


ゆっくりと、自分の手を見る。

生前は成人していたはずの体。


だが今は――

張りのある肌。

小さな手。


(……若返ってる?)

(もしかして……転生?)


頭の中に浮かぶ、既視感。

生前、見ていた小説。

(なろうにありがちなやつか……)

戸惑いはある。


だが――

理解は早い。

「……まあいいか」

そう呟いて、立ち上がる。


だが、問題は一つ。

(……ここ、どこだよ)

土地勘がない。

何も分からない。

ノヴァは、そのまま宛もなく歩き続けた。


やがて。

視界に、建物が映る。

古びた、木造の建物。


(……人、いそう)

足取りが、少しだけ速くなる。

空腹と疲労。

限界が近い。


そのまま、建物へ近づくと――


「僕、どうしたの?」


声。

振り向くと。

中年の女性が、こちらを見ていた。


(……僕?)

(俺のことか)


一瞬、思考が止まる。

だが、すぐに口を開く。


「……ここ、どこだ」

「え?」

女性が目を丸くする。


「どこにいるのかわからない」

「ていうか、歩き疲れた」

「腹減った」

「食べるもの欲しい」


矢継ぎ早。

遠慮なし。

女性は困惑しながらも、苦笑いを浮かべた。


「とりあえず、中に入りましょうか」

案内されるまま、建物の中へ。


そこは――孤児院だった。


食堂に通される。

目の前に並ぶ食事。

(……美味そう)

ノヴァは、迷いなく手を伸ばす。


(異世界でも、飯はうまいんだな)

(文明低いとかじゃないのか。ラッキー)

そんなことを考えながら、無言で食べ進める。


「そういえば」

女性が、優しく尋ねる。

「僕、どこから来たの?」

「知らない」

即答。


女性は少し困ったように笑う。

「じゃあ、お名前は?」

「……は?」


ノヴァの動きが止まる。

(名前……)

本名を言うべきか。

いや――

ここは、異世界。

なら。


「……ノヴァ」

ぽつりと、呟く。

「ノヴァ君って言うの?」

女性が確認する。


その名前は。

生前、好きだったFPSプレイヤーのもの。

(どうせなら、好きな名前でいいだろ)

安直な、選択。

だが。

その瞬間から。

ノヴァという存在は、この世界で生き始めた。





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